2026.07.09

株式会社JTB 大八木 勢一 デジタル時代、キャリアはグローバル基準で考える

「グローバルで働く」という意味が、いま変わりつつあります。海外勤務や外資系企業で働くことから、日本にいながら多様な国籍・背景を持つ人たちと共に働くことへと広がっています。ここでは、多様な人財*の強みを活かし、価値を創出するJTBグループの人事担当役員、大八木氏に、グローバル市場での日本人の価値と、グローバルで活躍するための4つの力について伺いました。世界の中で、自分はどんな存在で、どんな価値を提供できるのか――。あなたらしいキャリアを考えるヒントを、ぜひ探してみてください。

※本記事の掲載内容は取材当時(2026年1月時点)のものであり、現在は異なる場合がございます。

プロフィール
株式会社JTB
常務執行役員 人事担当(CHRO)
大八木 勢一

1992年株式会社 日本交通公社入社。法人営業、支店長、本社営業企画、人事部門を経て2021年 株式会社JTBデータサービス代表取締役社長執行役員就任。同社の30年の歴史で培った障害者「雇用・定着・活躍」のノウハウをプログラム化し、障害者雇用の促進や定着・活躍サービスを事業化。2024年4月より現職。JTBグループの長期ビジョン「OPEN FRONTIER 2035」を見据えた人財戦略を策定。「違いを価値に、世界をつなぐ。」というDEIBステートメントのもと、多様性の掛け合わせで新たな価値を創出し、互いを尊重し自己開示・貢献できる文化を築くべく尽力している。


デジタル技術の進化によって、「グローバルで働く」という意味が大きく変わってきています。かつて、海外勤務など、国境を越えて働くことが、その象徴でした。しかし現代では、世界はよりシームレスになり、働く「場所」だけが、グローバルの基準ではなくなってきています。

では、「グローバルで働く」とは、どういうことなのでしょうか。私はそれを、「自分自身の存在意義を世界の中で見いだし、広げていくこと」だと考えています。そのためには、従来のように「ひとつの組織や日本における自分の価値」から「世界における自分の価値」へと捉え直していく必要があります。

国籍や文化が異なる中で「自分はどういう人間なのか」「世界で、どういう価値を提供できるのか」を探し出し、それを世界に向けて提供する。それが「グローバルで存在意義を見いだし働く」という意味です。

弊社においても「JTBグループ社員が関係を築いていくフィールド」をすべてグローバルとして捉えています。働く場所が日本であっても、国籍や文化の壁を越えてお客さまやビジネスパートナーに信頼され、良好な関係を築いていくなら、それはまさしくグローバルで働くということです。

デジタル技術の進化が進めば、「いつでも、どこでも、誰とでも」ビジネスが進められる世の中になります。すると今後は、デジタル技術や語学力に加え、多様な人財とビジネスを進めていくうえでの「ヒューマンスキル」や「ソフトスキル」が重要になってくるでしょう。

旅行業界を見ると、訪日インバウンドが活況で、世界中から日本を訪れる旅行者が増加しています。また、国内でも生活圏内には、数多くの国籍の異なる方が身近にいます。世の中が変わるスピードを考えると、近い将来、お客さまだけでなく、ビジネスパートナーも多様化するでしょう。そうした時、働き方においては、「時間」「空間」「組織」の3つの要素で変化が生じると考えています。

たとえば、グローバルなパートナーと協働する時、就労時間の「コアタイム」はなくなるでしょう。時差がある国の人と一緒に働くことは、オンラインでもオフラインでも、同じ時間に集まれないことが前提となります。その環境下で「いかに効率的に時間を使って、効果的なコミュニケーションを図れるか」ということが、「時間」を考えるうえで主要なトピックになると考えます。

「空間」については、ITやデジタル技術の進化により、世界中の方とつながることが、いまよりも容易になるでしょう。その時、デジタル技術を使いこなすスキルは必要不可欠になります。

「組織」においては、会社における社員同士のチームから、社外のパートナーも含めた人々とチームを組みながら仕事を進める機会が増えていくでしょう。あらゆる人とコミュニケーションする能力や交渉力が、より重要視されていくと思います。

社内であれば共通の価値観を持っているため、言葉にしなくても通じ合えるかもしれません。一方で、社外のメンバーには、企業が重視する価値観を伝え、理解してもらい、ひとつのチームとして働くことが大切になります。

仕事のあり方や進め方、コミュニケーションの手法が変化するため、必要なスキルも大きく変わっていく。現在の延長線上に積み上げていくだけでは、対応できない時代がきています。

何を学び、どのようなコミュニケーションを取って、誰と関係を築いていくのか。グローバルでの立ち位置と、自分が提供できる価値を考え続ける。それこそが、これからのキャリアで、自分のプレゼンスを高めることになるはずです。

日本人が海外で働いた時、「日本の価値を再認識する」という話は、よく耳にします。ただ、これからは日本文化の中で築き上げられてきた価値を「世界につないでいく」という観点が重要な意味を持つと考えます。

たとえば、いま重視されているサステナビリティ。持続可能な社会を続けるためには、日本古来の「縁」や「つながり」という価値観がカギになるでしょう。縁やつながりに重きをおく「人重視の価値観」と「経済合理性を重視する価値観」の融合が必要です。今後、企業の成長は、規模や利益などの指標だけで図られるものではなくなり、「良質な関係性」の拡大が企業価値のひとつになるはずです。

その時、AIやデジタルをはじめとした最新技術は、「縁」や「つながり」を広げるための道具として機能します。システムに人間が活かされるものではなく、人間が技術を使いこなしていく。そういった意味で「人間中心への回帰」という世界観が重要視されるようになるかもしれません。

JTBグループは、ビジョンとして「交流の創造」を掲げています。長寿の先進国である日本が、気概と自信を持って世界に「つながりを価値とする」モデルを共有していく。フィールドを問わず、世界各地でプレゼンスを発揮する。そうしたことが、「日本人が世界で働く」意味ではないか。私はそう考えています。

どのようにしたら、日本人がグローバルでプレゼンスを発揮できるようになるか。私はCHROとしてJTBグループ長期ビジョン「OPEN FRONTIER 2035」を策定する際、長い期間、考えを巡らせました。

結論は、「ビジネスを取り巻く環境」を起点にするのではなく、「人財を取り巻く環境」を起点にするということです。変化のスピードが速い時代において、今後、JTBグループがどのようなビジネスモデルに変革をしても変わらない「JTBグループの価値の源泉」を起点にしました。

JTBは2026年で、ジャパン・ツーリスト・ビューローとして創立してから114年を迎え、全世界で約2万人の社員がいます。長い月日を経ても変わらず価値の源泉となっているのは「交流を創造する力」です。そこにデジタル基盤を活用しながら人財の持つ強みや力を活かし、10年先のありたい姿をブラッシュアップしていく。今後も競争優位性を確保しながら成長し続けるために、「人の力」を人財戦略の中核においています。

JTBグループは人財育成において、自律性を重視し「必要なスキルを自分で考え選び、自ら身につける」という方針を掲げています。組織が教育の機会を提供し、成長を見守るスタンスです。たとえば、グローバルに興味がある社員には、海外で働く機会を提供してきました。

しかし、これからの時代、グローバルな競争力を高めて事業を発展させるためには、そのスタンスだけでは、十分ではありません。たとえば、グローバルでチームを組み協働する様子を見ていると、日本人社員は自分の意見を言うよりも、物事をバランスよくまとめようとしがちです。その行動は日本人特有の奥ゆかしさであり、すばらしい特長だと思います。しかし、チームの一員として自分の意見を伝え、日本人としてのプレゼンスを発揮し、価値を提供していく。グローバルなビジネスシーンでは、そのような姿勢が求められます。奥ゆかしさを持ちながらも必要な時には主張する、「存在感」を示せるスキルを身に着けていく必要があると思っています。

そこで、これからは約2万人の全JTBグループ社員に、「デジタル」「グローバル」「イノベーション」の3つのリテラシーを培ってもらいたい。いままでにない交流を創造するために、個人のスキルを組織的に高めていく必要があります。

JTBグループの価値の源泉

JTBグループの人財育成方針

多様な人たちと共に成長するために、JTBグループでは、一般的に言われているDiversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包括性)の3要素に加え、Belonging(帰属性、心理的安全性)を重視しています。一人ひとりが安心して、ありのままに自分を表現し、挑戦と失敗から学びながら価値を発揮できる環境が、人財戦略の基盤です。

DEIBを推進するには、「多様性の受容」から始めていくことが第一歩です。外国籍の人たちや障害のある人たち、LGBTQの人たちなど、いろいろな人たちがいらっしゃいます。さまざまな人のあり方を受け入れて、それぞれの強みとして理解を深め合う。そうした一つひとつの営みが、新たな交流を創造するヒントとなります。

一方で、多様性を受け入れるだけでは、大きな価値は生まれにくいため、違いを受け入れたうえで、自分の軸も持つ。その力がないと、グローバルでは突き進むことは難しくなるでしょう。

今後、世界で活躍するビジネスパーソンに必要な力は、大きく4つあると考えています。

1つ目は、情報を「早く集める」だけでなく情報を「習慣的に疑う」ことができる力です。昨今、SNSや生成AIの情報を鵜呑みにする人がかなり多くなっています。このような時代だからこそ、出典や一次情報にあたり、情報の背景まで確かめる。「これは誰の立場の情報なのか」を考え、正しい情報を取りにいく。常に情報を疑い、正しい情報をつかみにいく力が、これからの武器になります。

2つ目は、「即決と熟考」のバランスを取る力です。ビジネスにおいてスピードは重要ですが、時には、「立ち止まる」ことも必要です。スピードが重視される中、一度立ち止まり「本当に正しい選択か」を考える。この意思決定が、自分たちのミッション・ビジョン・バリューに本当に合致しているのかを、自分に問い直す力が重要です。

フットワーク軽く動きながら、状況に応じてスローダウンし、またスピードアップする。これからの時代には、そうした「速度調整力」が問われるようになります。

3つ目は、「多様性を受容」する力です。違う意見を間違いではなく、異なる価値として考えられるか。正解はひとつではないことを受け入れ、仮に相手の価値観に合意できなくとも、協働はできるかを考える。これは異文化理解に加え、グローバルで働くうえで大切な基盤となるでしょう。

4つ目は、多様性の中で「違い」や「違和感」を言語化できる力です。「何となく変だ」「何となくよい」という表現ではなく、具体的にそれを分析し、言葉にする。そのうえで、自分で考えたことを、明確に相手に伝わる言葉に換えてコミュニケーションする力を持つことが大切です。

流暢に外国語を話せなくても構いません。語学は入社後に学ぶなり、AI翻訳で補える部分も出てきます。それよりも、自分の軸を持ち、論理的に、自分の言葉で話せることが大切です。

これからは、「この部署だから、この業務スキルがあればいい」といった短絡的な思考では、価値を発揮できなくなります。情報が氾濫しAIが台頭する中で、ビジネスパートナーができることが高度化しているからです。外部から仕入れなくても多くの情報を手に入れることができ、他社に依頼せずとも社内でできることが増えている。

いま求められるのは、より“本質”を問い、考え、行動する力です。この時代を生きるために何が必要か。社会はどのような価値を求めているのか。そのために会社は、そして自分は、何を磨かなければならないのか。時代とともに成長できるのは、そうした本質を問いながら仕事をしている人です。

ビジネスは、成熟すれば次のフェーズへと移っていきます。すると過去の常識は、もはや通用しません。国内市場が縮小し、ビジネスの手段もツールも増えたいま、グローバルマーケットに出ない理由はありません。ビジネスはもはや世界を舞台とするのが当たり前。だからこそ、日本の古く狭い常識ではなく、グローバルな規模でビジネスの「本質」を問う力を磨くことです。それは日本人だけでなく、外国籍人財も共通した、価値を生み出す人の条件になっています。

若い世代のビジネスパーソンは、「世界を舞台に活躍することができる世代」です。

物心がついた時から、ゲームやSNSなど、世界とつながる手段が身近にあります。われわれとは違い、「世界とつながることが前提」である世代は、すでに国境にとらわれない価値観を生んでいます。

そのような環境下で、若手の方には2つのメリットがあると感じています。1つは物事に対する「柔軟さ」です。若い方は、思考が固まっていないので、何かを成し遂げるプロセスで何らかの失敗があったとしても、「成功へ一歩近づいた」という意識で前向きに取り組めると思っています。また、そのようなうまくいかない状況であっても、成功するまでやり続けるレジリエンスを備えていれば、それはさらに高い価値として認められるでしょう。

もう1つは「キャリア設計の舞台が、全世界である」ということです。キャリアを考える際、必ずしも母国にとどまらずに国籍や性別、働き方の多様性を踏まえて設計しやすくなっています。自由度の高いキャリア設計ができることは、ほかの世代と比べて大きなメリットです。

大学を卒業して就職する時点で、選択肢が無限大にあります。私のような50代は、サラリーマンとして働き続けるか、何らかの資格を取って独立して働くかのほぼ2択だけでした。その時代と比べると、いまは何でもできます。非常に大きな舞台でキャリアを設計できる。キャリアの可能性が「地球全体」にあるのが、いまの若い世代です。

これから働き始めると、目先の仕事で忙しくなり、自分のポテンシャルやキャリア形成について考える時間が取れなくなることもあるでしょう。しかし、「世界における自分の価値」について考えを巡らせ、その価値に気づいてほしい。

世の中の動きや社会と接点を持ち、世の中がどう変わっているのかに目を向ける。そのうえで「世の中の変化と、自分の関わるビジネスとの接点はどこにあるか?」という問いに向き合う。そうすると、見ていた景色が違うものに見えてきます。

たとえば、コンビニに外国人のスタッフが増えている事象を見ても、問いを持っていれば、見え方は変わってきます。自分とは関係のない世界として「外国人スタッフがいる」と捉えるのか、「外国人スタッフが増えている背景は何か。その背景となる要素は、自分の仕事とどう関わるのか」と考えるのとでは、仕事の質が変わってきます。

日本はいま、本格的にグローバル競争の中にある状況だと思います。世界中の多様な価値観を持った人同士では、言葉で明確に伝えていかなければわかり合えません。察し合えない相手とビジネスをしていくのは、どの世代にとっても未知の世界かもしれません。だからこそ、従来のビジネスではない発想や考え方が求められます。世の中の流れを見ながら「走り、立ち止まり、考える」。そんな人が活躍できるチャンスが広がっています。

グローバルに目を向けることは、遠くに目を向けることではありません。半径5メートルで起きている変化に問いを持ち、「自分ごと化」して考え続ける。意見の違いを恐れず、言語化すること。そして、小さくても行動してみること。その積み重ねこそが、グローバルで活躍するあなたをつくっていきます。


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