株式会社明光ネットワークジャパンは創業40周年を迎え、日本初の個別指導塾である「明光義塾」を中心とした事業を幅広く展開している。明光義塾は、全国47都道府県にある約1800教室において「自立学習」と「カウンセリング」で子どもたちの可能性を引き出しつづけ、多くの卒業生を輩出してきた。
同社は2021年9月に『「やればできる」の記憶をつくる』というパーパスを策定。そのパーパスを起点に同社には多くのチャレンジが生まれ始め、事業の活性化に繋がっている。
今回は同社の代表取締役社長である山下一仁氏、そしてパーパスを推進する「パーパスドリブンチーム」の中村さん、梶さん、板垣さん、金田さんにお話を伺った。
成長するために、枠にとらわれずチャレンジを続ける
-代表取締役社長 山下一仁 氏 インタビュー-
「教育のインフラ」として地域と共に歩む
「教育事業に携わる私たちの、存在意義はなんだろうか」この問いが、パーパスを作るきっかけになりました。
2020年、新型コロナ禍に入った頃、経済産業省から全国の学習塾へ声がかかりました。2週間の全国一斉休校要請で、もちろん明光義塾も含まれています。
私たちを含むほとんどの学習塾は要請を受け入れるしかありませんでしたが、正直、愕然としました。それまで私たちは「学びを止めない」ということをポリシーとしていたのですから。
長い休業期間が明けて、やっと再開した教室で私が目にしたのは、満面の笑みを浮かべる子どもたちでした。「教室長や友達に会えて嬉しい!」という言葉が飛び交う様子を見て、私は「教育事業は、学びのためだけではない。私たちの事業はその地域における子どもたちの心の支えとして必要なのだ」と納得しました。教育のインフラとして、地域と共に歩んでいくことが大切なんだと。
「今」どんな活動をしているのかを発信するために
私達は1984年の創業以来、「教育・文化事業への貢献を通じて人づくりを目指す」「フランチャイズノウハウの開発普及を通じて自己実現を支援する」という2つの経営理念を掲げ、日本初の個別指導塾「明光義塾」の運営を行ってきました。
また、明光義塾には、「個別指導による自立学習を通じて創造力豊かで自立心に富んだ21世紀社会の人材を育成する」という教育理念があります。当社の創業者(現会長)である渡邉弘毅が作ったものです。
明光義塾で働く人は、全国約1800教室のオーナーや教室長、講師を含めると3万5000人を超えます。その方々が、私たちの教育理念に共感共鳴してくださっています。ただ、こうした理念は、社内やグループチェーンの中でしか発信されてきませんでした「私たちは今こんな活動をしている」ということを、社外にもわかりやすく発信したい。そう考えた時「パーパス」という概念を軸に、私たちの存在意義を改めて作ってみようということになったんです。
パーパスに受け継がれた想いと歴史
2021年の2月に、パーパス策定や浸透による組織風土づくりのための「パーパスドリブンチーム」を作りました。メンバーは、社内から手を挙げた15名のアンバサダーが中心となっており、経営層はそこに加わっていません。
実は以前、明光義塾の「コア・バリュー」を作ったことがありました。パーパスは企業の「存在意義」であるのに対し、コア・バリューは、例えば判断を下したり、優先順位を定めたりするうえでの「ものさし」のことです。
今振り返っても良くできていたように思いますが、文章が長くて社内にはほとんど浸透しませんでした。そのこともあり、社員の皆さんにパーパス策定についての説明をした時には、「社長、本気ですか」と言われました(笑)。コア・バリューの時と同様の結果にならないかと心配したんでしょう。
そこからディスカッションと試行錯誤を繰り返して生まれたのが、『「やればできる」の記憶をつくる』というパーパスです。創業者の渡邉は、高校を卒業してから就職活動がうまくいかない日々が続いたことがあったそうです。そんなとき、たまたま手に取った本で「You can, if you think you can(できると思えばあなたはできる)」という言葉に出会った。当社の教育理念には、その想いが込められています。教育事業に関わってきた歴史を通して持ち続けてきた価値観が、しっかりパーパスに反映されていた。その事実をとても嬉しく感じました。
パーパスの浸透に向けて、会長と私が全国26カ所のタウンホールミーティングに同行し、対話会を開催しました。また、各地で活動していただくための第二期アンバサダーを募集したところ、50名ほどが手を挙げて参加してくれることになりました。今は全国各地にいるアンバサダーの方々に、パーパス浸透のための活動を進めてもらっています。2023年の9月から、再度パーパスの対話会を始める予定です。
子どもたちの可能性をひらくためには自分たちの成長が必要
成長のためには、枠にとらわれず、チャレンジをし続ける気持ちが大事です。「You can, if you think you can(できると思えばあなたはできる)」のマインドが、自分自身の可能性をひらいていきます。
一気にできるようになる必要はありません。「できないことが、少しずつできるようになる」。人と比較するのではなく、自分で主体性をもって考え、行動する。その積み重ねが成長であり、子どもたちの記憶に連なっていきます。私たちはそこをしっかり褒めて伸ばし、成長のための良い循環を作っていく。そこにこそ教育の本質があると思います。
そして、「やればできる」という主体性を子どもたちの中から見つけ出し、それを輝かせることが私たちの使命です。だとするならば、私たち自身がその主体性を持つ必要があります。
パーパスを掲げてから、社内でチャレンジが生まれるようになったという実感があります。一例として、明光ネットワークジャパンはグループ会社14社からなっており、そのうち2社は「会社を作りたい」という社員のチャレンジから創設された会社です。あるいは、研修を企画すれば、多くの社員が積極的に受けてくれます。
それぞれの主体性を持った行動が、事業の成長と業績に良い影響をもたらします。当社は学習塾だけではなく、幅広い事業を展開しています。「塾と教育が中心だから他のことはできない」と考える社員もいるかもしれませんが、そんなことはありません。多くの可能性にチャレンジできることに気づいてほしい。当社の皆さんは、どんな状況においても活躍できると私は考えています。
どんな人たちと未来をつくるか
当社は社員への投資を積極的に増やしています。例えば私が創設した明光アカデミーを中心として、幅広く成長やチャレンジの機会への門戸を拡げ、社員に働きがいを実感してもらうための仕組みを幅広く構築しています。
他社にない当社の働きがいは、その環境での学びを通じて、大きく成長する実感を持ってもらえることだと思います。そのチャンスを与えることが、社員に対する会社の役割です。
私は以前ダイエーに19年間勤務していました。ダイエーは教育研修システムがとてもよく設計されていて、基礎からはじまり、マーケティングやマネジメントに至るまで多彩な内容を学ぶことができました。昼夜関係なく勉強と仕事を繰り返し、そこで学んだことが現在の考え方のベースになっています。学ぶことは、人生をひらくことにもつながると考えています。
また、当社で働く人には、「人が好き」でいてほしいと思っています。
例えば、採用試験の最終面接では、こんなことを聞きます。面接にいらっしゃった方々は、順番を待っている間、面接者同士で何か会話をしているでしょう。そこで私は、「待ち時間にどんなことを話していたんですか?」と聞きます。すると、お互いの趣味の話で盛り上がった話や、その話をしていた相手の良いところを話してくれます。
そこから、「この人は他人をどのように見ているのか」という観察力を測ることができます。人に興味があって、その人をちゃんと見て、その人の良さを引き上げて、そこから話ができる。生徒さんやその親御さん、お客さんはもとより、社内でのコミュニケーションとしても重要ですね。人との関わりが成長の循環を作るからです。
実は私の職歴は、当社が5社目になります。複数の企業での経験からわかったのは、社員をその組織にピッタリとはめ込もうとすると、社員が離れてしまうケースが多いということです。
企業と社員、双方がすべて重ならなくてもいい。無理に合わせようとするのではなく、「当社の在り方と、あなたの生き方や働き方は合っていますか?」と聞いてみて、少しの部分でも共感や共鳴があればいいと思っています。
その基準としても、パーパスが重要です。自分たちが大事にしていることを言語化することで、共感・共鳴が生まれやすくなる。設立から40周年を迎える私たちは、これからもパーパスを北極星として輝く未来を実現していきます。
誰かのために、日々の“できる”を積み重ね
- パーパスアンバサダーインタビュー -
中村 友哉さん
2020年入社。明光義塾事業本部にて新卒採用を担当。
マイパーパス:「より多くの人や組織に多くの健康を届けたい」
私と関係する多くの人に健康を届けたいと思っています。身体的な健康だけではなく、心や人間関係など、人生の幸福度につながる要素も含めています。採用の業務では、本人が健康でいるために、やりたいことと仕事のマッチングを意識しています。
梶 玲菜さん
2019年入社。ESL clubオンライン校 スクールマネージャー。
マイパーパス:「英語で子どもたちの未来をひらく」
会社で策定する前から、このパーパスを持っていました。私は幼いときから英語を習ってきたお陰で、留学や海外就労などいろいろな経験ができました。英語の力で自分の未来をひらく経験を、多くの子どもたちにしてほしいと考えています。
板垣 叶美さん
2020年入社。新規事業開発プロジェクト専任。
マイパーパス:「明光が頑張るきっかけになりますように」
このパーパスは、子どもたちだけではなく、私が関わるすべての人に向けています。将来、その人たちが「明光」という言葉を聞いたときに、ポジティブな記憶を思い出すようになってほしいという想いを込めました。
金田 悠吾さん
2020年入社。高槻西冠教室の教室長。
マイパーパス:「成長する機会を一番近くで与える・もらう」
私自身が明光義塾に通っていたとき、成長するきっかけをもらったことで、人生が変わったという実感があります。周りの方にしていただいたことを、今度は自分から還元していきたいと考えて、このパーパスを作りました。
― みなさんそれぞれのマイパーパスを聞いて、どんな印象を持たれましたか?
中村:当社のパーパスとみなさんのマイパーパスを見ると、やっぱり重なっている部分がありますよね。それに、マイパーパスの背景にそれぞれの原体験があるということが印象的です。例えば、梶さんのパーパスには小さいときから習っている英語に対する想いがある。それが今の梶さんを作ったきっかけになったのでれば、成長の中で「やればできる」の記憶があったんだと思います。
板垣:みなさんのマイパーパスには、「誰かのために何かをしたい」という想いが込められているように思います。生徒や保護者の方々、講師など、仕事を通して自分たちが関わる人たちの成長につながるようなきっかけをつくってあげたい。みんなそんな気持ちで仕事をしているのではないかなと感じました。
金田:みんなそれぞれに部署や職種が違うのに、会社のパーパスとマイパーパスの重なっている部分を見つけて、自分のやりたいことができているんですね。
梶:板垣さんの「誰かのために」という言葉にはとても共感します。ちゃんとお客様の方向を見て、業績だけではなく、人に対して貢献していくことも企業として大切ですよね。それに、人前で自分のマイパーパスについて自分の言葉で話すことができるという、この状態がいいなと思いました。違う部署であっても想いを語ることができるのは、パーパスがあるからこそですよね。
―御社の『「やればできる」の記憶をつくる』というパーパスをどのように解釈されていますか?
中村:採用選考に応募してくれる学生さんには、「これが当社のパーパスですが、これがすべてではないですよ」ということを、私のマイパーパスと一緒に必ず伝えるようにしています。その人のやりたいことと、会社のパーパスが100%一致している必要はないと思います。会社のパーパスと私のパーパスを並べて、どんなところが重なっているのかを話しています。
梶:そうですよね。パーパスを自分ごととして捉えて、自分の言葉に翻訳して伝えるということが大切だと思います。
金田:関西エリアの今期のテーマは、パーパスについて各教室で話す機会をつくっていくことです。まず教室長がパーパスについての理解を深めた上で、明光義塾のアルバイト講師に伝える。講師たちには、パーパスという軸を共有した上で経験を積んでいってほしいなと思っています。
板垣:私は「絶対にできる」という強い気持ちがあることが、人生には重要だと思っています。生徒に「あのときできたから、またきっとできる」と思えるようなきっかけを与えてあげたいですね。
中村:子どもたちがチャレンジできるように、その後押しをしてあげることが大切ですよね。一方で、無理やりにでも、成功するまで伴走してあげることも必要だと思います。「やればできる」の記憶をつくるためには、「やったらできたよね、ほらね」というところまで引き上げることも必要だなと。
梶:私は当社のパーパスと同じくらい、「隣に立つ」「繋ぐ」「自分にYES」という三つのバリューにも共感します。「やればできる」の記憶をつくるまでには、プロセスと時間がかかります。でも、バリューにあるように、講師が生徒の隣に立って伴走することや、生徒が自己肯定感を持てるようにしていくことなどは日々できる。その積み重ねが、「やればできる」の記憶になっていくと思います。
金田:中村さんも梶さんも「伴走する」と言いましたよね。子どもたちが進むための走り方やルートを一緒に考えていくことは、現場にいる私たちにしかできないことです。一つ成功して終わりではなく、成功体験が積み重なり、できることの引き出しが増えることで、チャレンジができるようになっていくと思います。
―パーパスができてから、社内について変化は感じられましたか?
梶:上司や同僚と、「個人と個人」の話をする機会を作りやすくなりました。会社の業績についてだけではなくて、「私たちは何のためにこの仕事をしているのか」という話ができています。
中村:私は採用を担当しており、お客様といった外との接点はあまりないポジションです。社内の人と話をするときは、どうしても会話や意識の矢印が社内の内側に向くことが多くなります。その点で、パーパスはステークホルダーなど外側に向けてのメッセージでもあります。パーパスがあることで、外に向けてどんな会社でありたいかを話すことができるようになりました。
板垣:同じエリアで働いていたみなさんと、当社のパーパス対話会で自己開示をしたことがあります。お互いが自分のパーパスについて話し、それぞれの想いの部分を知ることができて、とても嬉しい気持ちになりました。「なぜこの仕事をしているか」という想いは、なかなか自分の内側から湧き上がってくるものではありません。それを考えるための時間を作り、お互いが対話をすることで、内面の想いが引き出されますよね。
―パーパスという軸があることで、ご自身の仕事にどんな変化がありましたか。
金田:自分は教育者であるというマインドと、教室を運営していく上で利益を出していかないといけないという経営者の面、両方で仕事をしています。ちょうどいいバランスで仕事をしたいですが、後者が強くなり過ぎて、前者が見えにくくなるときもあります。
そうしたとき、パーパスがあると自分が在りたい姿に立ち返ることができます。目の前の生徒や保護者と向き合うことができ、良い結果が生まれ、自分の引き出しも増えていく。その循環が、利益にもつながっていくんだと思います。
梶:入社して4年ほど働く中で、3つのサービスを立ち上げることができました。それぞれが私にとってのチャレンジでしたが、「やってみたい?」と聞かれたときに「YES」と答えられるのは、パーパスとして自分の軸を定めることができているからだと思います。
今期は、初めて部下を持つことになりました。これもチャレンジです。相手にしっかり関心を持って、私から自己開示をしながら、相互理解を深めていきたいと思います。
板垣:一人ひとり見えている世界が違う中で、それぞれの講師がどんな軸をもって働いているのか、パーパスを通じて見えやすくなりました。自分自身とは今まで向きあってきましたが、他人と向き合うことが楽になった。そこに大きな変化があったと実感しています。
中村:私は自分が何をしたいかとか、どう在りたいかとか、自分自身のことを考えるのは正直なところ苦手です。なので、何か決められた基準で自分の働き方を定義したほうが楽という考えも少しあります。
当社がパーパスを策定する前には、「理念」が求心力になっていました。「個別指導による自立学習を通じて創造力豊かで自立心に富んだ21世紀社会の人材を育成する」。この目標に対して、みんなで一丸となる。頑張る方向がはっきりしていたわけです。
でも、パーパスができたことによって、一人ひとりの意思や個性が生かされる組織に変化しました。明光には理念という答えがあって、それを目指していけばいいと思っていたんですが、実際入社したら、あれ、自分が何のために目の前の仕事に取り組むかを考えなくちゃならないんだと(笑)。それを気付かせてくれたのがパーパスだったんです。
―みなさんのお話には、「誰かのために」と「チャレンジ」という言葉が多いですね。
金田:私が生徒や講師に「成長していこう」と伝えるためには、自分自身がチャレンジをして成長し続ける必要があります。自分ができることの引き出しが増えてはじめて、人の成長を促すことができますよね。
梶:そうですね。自分の引き出しを増やさないとチャレンジできないという考え方もありますが、チャレンジするために自分の引き出しを増やしているわけではないですよね。日常的な行動として、自分の知らないことを調べたり、誰かに相談したりする。その積み重ねで自分の引き出しを増やしていくことによって、誰かのためにできることも増えていくのではないでしょうか。
中村:私も、毎日、経験や推進力が足りないと実感しています。だからこそ、今必要なのは、成長するためのチャレンジなんですね。
―みなさんにとって、御社の魅力はどんなところでしょうか。
梶:やりたいことを主張し続けられること、だと思います。もちろん最初からすべては任せてもらえませんが、小さなことから始めて、少しずつ自信をつけることができる環境です。
金田:私も、自分がやってみたいことに挑戦できることだと思っています。自分が運営している教室であれば、その結果も見えやすいので、成長している実感もあります。
板垣:私が考える当社の魅力は、自分がこうしたいという考えや、やりたいことを受け入れてくれる環境だというところが一つ。もう一つは、本当にいい人が多い会社だというところです。入社して悩んだことや辛いことがいろいろありましたが、周りの方々に支えられてきています。
中村:採用を担当している私も、「人がいい会社」ということは実感しています。それに、お客様のためを考えるという意識が強いのも特徴だと思います。先月、今年新卒入社した社員の面談をしたんですが、本人の話ではなく、自身が担当している生徒のことばかり気になっているようでした。誰かのためを考えて、成長していきたい人が多い会社ですね。