執筆者:クロスメディアHR総合研究所 所長 河本 英之

就職活動を始めるにあたり、まず取り組むべきものが「自己分析」です。
では、自己分析とはどのようなものなのでしょうか。
自己分析の説明として、「自己PRで使うための強みを明らかにしなさい」と書かれていることがありますが、それは自己分析の中でも優先順位の低い作業だと考えています。本当に重要なのは、自分を客観視し、自身の価値観――例えば「自分が譲れないものは何か」「社会で何を成し遂げたいのか」といった点――を理解することです。
この価値観が明確でなければ、企業の話を聞いても心に響きません。企業は学生に入社してもらうため、自社の魅力を積極的に伝えてきます。その情報を一方的に受け取るだけでは、判断ができません。だからこそ、自己分析が必要であり、その本質は「強みの明確化」ではなく、「軸の明確化」にあるのです。
客観視ができなければ、自分の強みも正しく理解できません。例えば、自分では「リーダーシップがある」と思っていても、世の中には同様の力を持つ学生が数多く存在します。長所や強みは常に相対的なものであり、限られた環境にいるほど見えにくくなります。客観視するためには、家族や友人など、自分を理解してくれる人ばかりの環境に留まり続けていては不十分です。
そういう意味では、人生の中で最も自分を客観視しやすいのが、就職活動のタイミングかもしれません。異なる価値観の世界に入り、優秀な人材と出会い、企業から評価を受けることで、否応なく自分自身と向き合うことになるからです。
就職活動でコミュニケーションを取る相手は、家族や友人ではなく、初対面の社会人です。この点を理解する必要がありますが、決して簡単なことではありません。人は誰しも自分軸が強くなりがちで、それを抑え、他者軸で物事を見ることは難しいものです。しかし、社会で通用するためには、この力が不可欠です。
一つの解決策として、アルバイトやサークルとは異なるコミュニティを持つことをおすすめします。自分より優秀な人と接する機会がなければ、自分を過大評価してしまいがちです。社会で通用する力を身につけるためには、居心地のよい環境に留まるのではなく、分野を越えて挑戦することが大切です。特に男子学生には、意識してほしい点です。

自己分析は女性の方が得意?
現在の日本では男女差について語られることは少なくなりましたが、「客観視する力」という点では、女性のほうが高い傾向があると感じます。その理由の一つが、自分自身を振り返る機会の多さです。
女性は日常的にメイクを行い、鏡を通して「自分がどう見えるか」を意識しています。また、日記をつける習慣も女性のほうが多いと言われていますが、文章化することも客観視の訓練になります。こうした積み重ねにより、自分の見せ方に長け、面接のような瞬間的なコミュニケーションにも強くなるのです。
近年、企業側から「女性のほうが優秀に見える」「男性はおとなしい」という声を聞くことがあります。その背景には、この「客観視できているかどうか」の差があるのかもしれません。

就活は、会社と自分の相性を確かめる場
学生だけに与えられたチャンスを、前向きに活用しよう
自己分析も含め、就職活動はポジティブに捉えてほしいと思います。これまでは学校名が重視される世界でしたが、就活では個人として評価されます。自分がどこまで通用するのかを知ることができ、もし通用しなければ、改めて考え直せばよいのです。優秀な人材の存在に圧倒されることもあるでしょうが、それも自分を見つめ直す貴重な経験です。究極の客観視の機会が、就職活動だと言えます。
一方で、自分を否定される経験がないまま就活に臨むと、うまくいかなかったときに「よい経験」と受け止められず、強い挫折感を抱く人もいます。特に難関校の学生に、その傾向が見られることがあります。就職活動という大切な機会を無駄にしないためにも、自己分析と客観視を進めておくことが重要です。
そもそも、自分の強みや個性が志望動機と本当に合っているのか、またその企業でどう生かせるのかは、本人にも企業にも分かりません。実際に働いた経験がない以上、それは当然のことです。
就職活動は社会とつながる場であり、面接は「お見合い」のようなものです。「自分はこういう人間です」と提示し、相手が共感すれば内定が出ますし、合わなければ見送られます。それは能力の否定ではなく、単なる相性の問題です。無理に自分を取り繕い、企業に合わせる必要はありません。
会社説明会で「重視しているのはコミュニケーション力です」と聞いたからといって、面接で無理に明るく振る舞っても、本当の意味でのマッチングにはなりません。そもそも、定義が曖昧な能力を重視すると語る企業側にも課題があります。例えば、「人の魅力を見つけることが好きな人」といった具体的な人物像が示されていれば、「自分に合いそうだ」と感じる学生も出てくるでしょう。
面接に進んだものの結果が出なかった場合は、客観的に振り返ることは大切です。しかし、「学歴が足りなかった」「ガクチカが弱かった」と結論づけても意味はありません。過去は変えられないからです。学生にも企業にも、それぞれの魅力や価値観があり、マッチするかどうかがすべてです。自分に合う企業は必ず存在します。まだ出会えていないだけだと考えてください。

企業選びのコツは「軸」を持って「行動」すること
自分に合う企業を見つけるためのポイントは二つあります。
一つ目は、自分の軸を持つことです。軸がなければ、「どんな会社がよいのか」という判断ができません。自己分析がここで生きてきます。
二つ目は、行動することです。日本には数万社の企業があります。新卒採用を行っている企業に限っても、行動しなければ出会うことはできません。
会社説明会に参加することも立派な行動です。ただし、企業は基本的に良い面を中心に話すという前提を理解しておきましょう。どの企業にも強みと弱みがあり、完璧な会社は存在しません。軸を持っていれば、話を聞く際の視点も定まります。
「軸を持つこと」と「行動すること」。この二つが重要です。私自身は、「せっかくの機会なので多くの業界を見てみたい」と考え、約200社を受けました。企業同士のつながりや、優秀な人材の存在を知ることができ、とても刺激的で、就職活動は本当に楽しく、学びの多い経験でした。
就職活動は、大学生だけに与えられた特権です。多くの企業から、無料で、しかも歓迎されながら話を聞くことができます。社会に出てからは、なかなか得られない機会です。ぜひ、この就職活動を前向きに、楽しみながら取り組んでください。

