
企業と社員の関係は「相互拘束」から「相互選択」へ
働く人と企業の関係性は、昔と今では大きく変わりました。
かつては、ポストと報酬さえ用意すれば人は会社にコミットしてくれました。終身雇用が当たり前だった時代、働く人は昇給や昇進を目標に一生懸命働き、企業もそれによって成長していったのです。
しかし、このやり方はすでに限界を迎えています。
実際、「給料はそこまで求めていません」「昇進なんて罰ゲームです」という社員も珍しくありません。終身雇用も崩れつつある今、企業と社員の関係は「相互拘束関係」から「相互選択関係」へと変化しています。
昔は定年まで勤めることが前提でした。だからこそ、企業も社員もお互いをある意味で拘束し合っていたのです。本音を飲み込み、「余計なことは言わなくていいか」と我慢することもあったでしょう。
しかし今は違います。
企業も社員も、お互いに腹を割って向き合い、選び、選ばれる関係にならなければなりません。ここが大きな変化です。
社員満足度調査で「給料への不満」が見つかると、「では給料を上げればいい」と考える経営者もいます。では、本当に給料を上げれば離職は防げるのでしょうか。優秀な人材が集まるようになるのでしょうか。
もちろん待遇は大切です。しかし、多くの場合、それは根本原因ではありません。
人によってモチベーションはさまざまです。ワークライフバランスを重視する人もいれば、専門性を高めたい人もいる。転職へのハードルは以前よりも低くなり、フリーランスという選択肢も一般化しました。かつての「働いて出世し、マイホームを買う」といった画一的な価値観の上に成り立っていた時代とは違うのです。 多様な価値観を持つ人たちを、どう一つの組織として束ねていくのか。これは多くの企業に共通する課題です。
会社と社員は「対等なパートナー」へ
企業と社員の関係は以前よりドライになったと言われます。確かに、お互いの依存度は下がっています。
ただ、私は日本の職場はまだまだウェットだと思っています。
欧米のジョブ型雇用では、職務内容や責任範囲が明確に定義されており、その範囲を超えた仕事を求められることはほとんどありません。成果を出せなければ解雇されることもあります。
一方、日本はそこまで割り切れていません。人間関係や組織への帰属意識は依然として強いままです。ただ一つ言えるのは、会社と社員は確実に対等になってきているということです。
会社が「雇ってやっている」という態度を見せた瞬間、社員は離れていきます。逆に社員も、「給料を払ってもらって当然」という姿勢では良い関係は築けません。企業は「一緒に働いてもらっている」という感謝を持ち、社員も企業への感謝を忘れてはいけません。上下関係ではなく、対等なパートナーシップが求められているのです。
そして、その関係性は採用や就職活動にもそのまま当てはまります。企業も学生も、お互いを選ぶ立場であり、選ばれる立場でもある。
選び合えるのは、対等だからこそなのです。

なぜ仕事を前向きに捉えることが重要なのか
企業と対等な関係で働くうえで、「やらされ感」は天敵です。仕事に対してポジティブである必要があります。
仕事を、お金を稼ぐ手段と考える人もいるでしょう。では、「もし宝くじで10億円当たったら、もう働きませんか?」と聞かれたらどうでしょうか。私は働きたいですね。
なぜなら、人は誰かの役に立ったり、誰かの悩みを解決したりした時に、大きな喜びや充実感を感じる生き物だからです。相手から「ありがとう」と言われた時、人は自己肯定感や達成感を得ることができます。 だから私は、仕事とは本来楽しいものだと思っています。ただし、その楽しさを感じるためには力が必要です。
十分なスキルや知識がなければ、人の役に立つことはできません。そこに至るまでには、どうしても訓練や鍛錬が必要になります。
スポーツを考えると分かりやすいでしょう。
ボールに当たらなければ、野球は楽しくありません。でもスイングの練習を続けて当たるようになったら、一気に面白くなる。サッカーも同じです。シュートが決まらなければ楽しくない。でも練習を重ねて狙ったところに蹴れるようになると楽しくなる。
仕事も同じです。
今の就活ではあまり語られないかもしれませんが、仕事が楽しくなるまでには一定の訓練期間が必要です。そして、年次が上がり、役職が上がるほど、実は仕事は面白くなることが多い。それは給料や権力のためではありません。任される範囲が広がり、自由度が増え、できることが増えるからです。 だからこそ、「出世=お金のため」ではなく、「より大きな価値を生み出すため」と考えた方が、現代には合っているように思います。
仕事を楽しめる人の共通点
仕事を前向きに楽しめる人には、共通する特徴があります。
大きく3つです。
第一に、「誰かのため」という視点を持てること。
仕事は誰かの課題を解決するものです。自分のためだけでは長続きしません。お客さまや仲間など、相手のために頑張れる人ほど仕事を楽しめます。
第二に、成長のプロセスを楽しめること。
仕事ができるようになるには時間がかかります。その鍛錬期間を苦痛ではなく、自分の成長の機会として楽しめる人は強い。
「昨日よりできることが増えた」「2か月前にはできなかったことができるようになった」
そんな小さな成長を喜べる人は、仕事の面白さを見つけやすいのです。
第三に、ビジョンを持っていること。
数年後にどんな自分になりたいのか。その未来像と今の仕事を結び付けられる人は、目の前の努力にも意味を見出せます。
夢でも目標でも構いません。 未来へのイメージがある人ほど、仕事に前向きになれるのです。

人はいつ仕事を好きになるのか
仕事を好きになるきっかけは、大きく2つあると思っています。
1つは自己成長。
昨日できなかったことができるようになる。「自分、成長しているな」と感じられる瞬間です。
もう1つは他者貢献。
誰かに価値を提供し、「ありがとう」と言われる瞬間です。
多くの人は、最初に小さな成長を感じ、その後に誰かの役に立てた実感を得ることで仕事を好きになっていきます。そして一度でも「ありがとう」と言われると、「もっと頑張ろう」と思えるようになる。そこからさらに成長し、また価値を提供できるようになる。
この好循環が生まれるのです。
一方で、「好きなことを仕事にした方がいいのか」という議論もあります。
私は一概には言えないと思っています。
例えば旅行が好きだから旅行会社に入ったとしても、実際の仕事は自分が旅行を楽しむことではありません。お客さまの旅行を成功させることです。会社の方針もありますし、お客さまの要望にも応えなければなりません。結果として、趣味だった頃の自由な楽しさを失い、むしろ嫌いになってしまうこともあります。
「好きなことを仕事にする」という考え方は、自分に矢印が向いています。
しかし仕事は、お客さまへの価値提供です。矢印の向きを間違えてはいけません。
プロスポーツ選手やアーティストのように、自分自身を高めることがそのまま価値になる仕事は別です。しかし、多くのビジネスにおいては、「好きなことを仕事にする」よりも、「興味のあることに取り組みながら好きになっていく」の方が現実的だと思います。

仕事が嫌いになるのはどんな時か
仕事が嫌いになる理由として、人間関係が語られることは少なくありません。しかし仕事そのものに限れば、一番大きな理由は「できないことへの不安」ではないでしょうか。
仕事を始めてすぐに成果を出せる人は多くありません。壁にぶつかることもあるでしょう。努力しているのに成長している実感が持てないこともある。
スポーツで言えば、「1000回素振りしたのにまだ一度も当たらない」という状態です。
これでは好きになるのは難しい。伸び悩みこそが、仕事嫌いになる最大の原因だと思います。
伸び悩む理由はさまざまです。
仕事との相性かもしれない。努力の方向性が間違っているのかもしれない。指導方法に問題がある場合もあります。本人は頑張っているつもりでも、求められるレベルとの差があることもあるでしょう。若手の頃は、そうしたギャップに苦しみやすいものです。
しかし、そこであきらめてしまうと、本来感じられたはずの仕事の面白さにたどり着けません。
もちろん、ハラスメントや理不尽な人間関係が原因なら環境を変えるべきです。一方で、自分の成長課題によるストレスなら、周囲の力も借りながら一定期間は挑戦してみてほしい。
私は少なくとも3〜5年はやり切ってみる価値があると思っています。それでも合わないのであれば、本当に向いていないのかもしれません。
企業から成長のための課題を与えられた時は、「大変だな」ではなく、「期待されているんだな」と受け止めてほしいです。期待されているうちが花。「無理です」と避け続ければ、やがて期待されなくなります。その方が、よほどつらいと思います。
もちろん、明らかに過剰なノルマや長時間労働を強いるようなケースは別ですが、適度な負荷やプレッシャーは成長に必要なものでもあります。振り返ってみると受験や部活動でも、私たちはプレッシャーの中で努力し、達成感を味わってきたはずです。
仕事も同じです。
少しの負荷やプレッシャーを前向きに受け止められた時、人は大きく成長できるのだと思います。
仕事は最初からうまくできるものではないし、好きでなくてもいい。
成長し、誰かの役に立てるようになった時、人は仕事の面白さを知る。そして、その先に「仕事が好き」があるのだと思います。

