
「採用」は人事部だけの仕事ではない
人材不足が深刻化するなか、企業は学生や求職者に振り向いてもらうため、さまざまな工夫を重ねています。
かつてのように求人広告を出して待つだけでは人は集まりません。ダイレクトリクルーティングや人材紹介サービス、SNS活用など、採用手法は年々多様化しています。
また、採用活動そのものも大きく変わりました。以前は人事部が中心となって進めるものでしたが、今では現場社員や経営層まで巻き込んだ「全社採用」が広がっています。単純にリファラル採用を強化しているという話ではありません。
実際に働く社員が学生と接することで、会社の魅力をよりリアルに伝えられますし、採用に関わった社員自身も入社当時を振り返り、自社の価値を再認識する機会になります。企業と応募者の双方にとって、入社後のギャップを減らせるメリットもあります。今後、この流れはますます加速していくでしょう。
企業の採用選考はなぜ多様化しているのか
選考方法も個性豊かになっています。
例えば麻雀採用やポーカー採用。競技そのものを評価するというより、何か一つのことに夢中になり、高い熱量を注いできた人材を見たいという狙いがあります。
また、短時間の面接だけでは見えない部分を知るために、合宿形式の選考を取り入れる企業もあります。1泊2日などのプログラムを通じて行動や人柄を観察し、より深く相互理解を図ろうという考え方です。
エントリーシートも一風変わったものがあります。「自分のことではなく友人を紹介してください」という課題を出す企業もあります。自分をアピールする場では見えにくい、他者をどう見ているか、客観性や誠実さを知るためです。
企業によっては、自社で出版している本の感想を書いてもらったり、新商品の企画案を考えてもらったりするケースもあります。もちろんアイデアや発想力を見る目的もありますが、それ以上に「きちんと向き合ってくれるか」を見ていることも少なくありません。 企業側も、本気で入社したいと思っている人と出会いたいのです。

求められている自立的な人材と福利厚生の充実
企業が求める人材像にも変化が見られます。
今、多くの企業が重視しているのは主体性です。言われたことを正確にこなすだけでなく、自ら考え、行動できる人材が求められています。
さらにAIの普及によって、テクノロジーとの向き合い方も重要になっています。AIに全面的に依存するのでも、拒絶するのでもなく、うまく協働できる柔軟性が求められる時代になりつつあります。
企業が求める人材像が変化する一方で、社員を支える環境づくりにも力が注がれています。
福利厚生はかつてないほど充実しています。
子どもの誕生祝いとして高額の祝い金を支給する企業や、社員の子どもの誕生日にプレゼントを贈る企業もあります。家族を会社に招待するイベントを開催したり、住宅補助を手厚くしたりと、「社員本人だけでなく家族も大切にする」という考え方が広がっています。
企業がここまで採用や福利厚生に力を入れる背景には、深刻化する人材不足があります。少子化によって若手人材の獲得競争は年々激しくなっています。企業にとって人材は事業そのものを支える重要な資産です。だからこそ、「どうやって入社してもらうか」だけでなく、「どうやって長く活躍してもらうか」まで考えなければならなくなっています。その結果、採用活動はもちろん、入社後のフォローや福利厚生にも力が入るようになりました。
かつては給与や役職がモチベーションの中心でした。しかし今は、それだけでは人は定着しません。働きがいや成長実感、人間関係、ワークライフバランスなど、さまざまな要素が重視されるようになっています。企業は社員に選ばれる存在であり続けなければならない時代になったのです。

働きやすい時代だからこそ難しくなったキャリア形成
こうした変化だけを見ると、今はとても働きやすい時代になったように感じます。
実際、その通りだと思います。ただ、その一方で私は今の時代を「働く個人にとっては決して楽な時代ではない」とも感じています。
昔は終身雇用が前提でした。会社の中で評価され、昇進し、定年まで勤め上げる。もちろん厳しい上下関係や理不尽な慣習もありましたが、人生設計が立てやすい時代でもありました。
ある意味で、会社がキャリアの方向性を決めてくれたからです。
また、仕事以外の場から学ぶ機会も多くありました。上司や先輩との飲み会、お客さまとの会食など、今なら敬遠されがちな場面もありましたが、そこで礼儀やマナー、人との接し方を学んだ人も少なくありません。若手が会食のお店を下見することも珍しくなく、理不尽に思えるような厳しさの中で社会人として鍛えられる側面もありました。
もちろん、昔の働き方に戻るべきだと言いたいわけではありません。ただ、仕事の進め方だけでなく、社会人としての振る舞いや組織での立ち位置を学ぶ機会は、今よりも多かったように思います。
現在は、転職も自由、働き方も自由です。積極的に副業を奨励する企業もあります。企業側も「あなたらしく働いてください」「自分らしいキャリアを描いてください」と言います。しかし、自由であることと、簡単であることは違います。むしろ自由になったからこそ、自分で決めなければならないことが増えています。
何を学ぶのか。
どんな仕事をしたいのか。
どんなスキルを身につけるのか。
どんな市場価値を身につけるのか。
これらを誰かが決めてくれる時代ではありません。だからこそ、自分の意思を持たないと迷ってしまいます。「好きなようにしていいよ」と言われても、自分が何をしたいのかわからなければ動けません。

AI時代を生き抜くために必要な専門性とは?AIに代替されない人材の条件
自由度が高い社会だからこそ、自分自身への理解がこれまで以上に求められているのです。さらに、AIの進化によって仕事の在り方も大きく変わろうとしています。これまで人が行っていた業務の一部はAIに置き換わっていくでしょう。
だからといって悲観する必要はありません。
私はむしろ、人間だからこそ発揮できる価値がより重要になると考えています。そのために必要なのは、自分ならではの専門性です。何でもできる人を目指すのではなく、「この分野なら誰にも負けない」という強みを持つことです。
どんな業界でも、どんなにニッチな分野でも、その分野の第一人者には必ず価値があります。会社の肩書きではなく、自分自身の名前で評価される力を持つこと。
役職を目指すことが悪いわけではありません。しかし、これからの時代に本当に強いのは、「○○ならあの人」と言われる存在です。会社の中だけで通用する評価ではなく、市場から求められる専門性を持つこと。その積み重ねが、AI時代を生き抜く最大の武器になるのではないでしょうか。
企業は確かに昔より優しくなりました。しかし、だからといってキャリアが簡単になったわけではありません。むしろ、自分で考え、自分で選び、自分で価値をつくっていくことが求められる時代です。
だからこそ大切なのは、自分だけの強みを見つけ、それを磨き続けることです。会社がキャリアを用意してくれる時代ではありません。自ら価値をつくり、市場に求められる存在になる。その意識こそが、これからの時代を生き抜く力になるのです。

