ESG経営とは、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の三要素からなる経営です。企業が経営において、環境問題や社会的責任、企業統治に配慮した経営を行うことを指します。この概念は、ビジネスにとって必須の要素となることが予測されています。
また、ESG投資という投資の手法があります。上記3つの要素に注目し、それによって社会的価値や企業価値が高まることを期待して行う投資のことを言います。また、ESG投資は、社会的に望ましい影響をもたらす企業に投資することで、社会的に貢献することもできます。
ここでは、ESGに関して、その経営や投資、SDGsと人的資本経営などの関係性などを合わせてご紹介していきます。
ESG経営はなぜ注目されるようになったのか?
ESGが本格的に普及するきっかけとなったのは、2006年に国連が機関投資家に対し、責任投資原則(PRI:Principes for Responsible Investment)を提唱したことでした。
日本においては、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2015年に前述の責任投資原則に署名し、2017年7月よりESG投資の運用を開始したことで注目されるようになりました。
どういった社会的背景があり、ESG経営が注目されることになったのか。そこには3つの社会の変化が背景として存在しています。
世界の社会変化は加速しており、そこに紐づくあらゆる物事に対応していかなければならない時代です。国連が2015年に採択したSDGsは世界共通の目標として認識され、日本においても企業や個人の多くが意識するようになりました。
地球環境の変化や、さまざまな格差などが日常に存在しており、未来に対しての不安を抱く人々が増えているという理由からです。
ESGを考慮した投資、すなわちESG投資の起源は1920年代にまでさかのぼります。当時の米国キリスト教協会などで、宗教上の理由によりタバコ、アルコール、ギャンブル等の産業への投資を禁止したことが始まりと言われています。
世界のESG投資額を集計している国際団体のGSIA(世界持続的投資連合)は、次のようにESG投資を定義しています。
ESG投資とは
持続可能な投資とは、環境、社会、ガバナンスの要素をポートフォリオの選択と運用において考慮する投資手法。年金積立金管理運用独立行政法人が明確にした持続可能な投資戦略は、当初2012年の「グローバル・サステナブル投資レビュー」で発表され、世界標準の分類として登場した。これらの定義は、世界の持続可能な投資業界における最新の実践と考え方を反映させるため、2020年10月に改訂された。持続可能な投資に対する7つの中核的アプローチは以下の通りとなる。
1)ESGインテグレーション投資
…運用l会社が環境、社会、ガバナンスの要素を財務分析に体系的かつ明示的に取り入れること。
2)企業エンゲージメントと株主行動
…直接企業エンゲージメント(すなわち、経営陣や取締役会とのコミュニケーション)を通じて、企業の行動に影響を与えるために株主の力を活用すること
3)規範に基づくスクリーニング
…OECD、NGO等の国際規範に基づく、ビジネスや発行体の実践の最低基準に照らした投資のスクリーニング
4)ネガティブ/除外スクリーニング
…投資対象ではないと考えられる活動に基づく、特定のセクター、企業、国、その他の発行体のファンドやポートフォリオからの除外
5)ベスト・イン・クラス/ポジティブ・スクリーニング
…同業他社と比較してESGパフォーマンスが良好なセクター、企業、プロジェクトに投資し、定義された閾値以上の評価を獲得すること
6)サステナビリティ・テーマ別投資
…持続可能なソリューション(環境・社会)に貢献するテーマや資産への投資
7)インパクト投資とコミュニティ投資
…インパクト投資:ポジティブで社会的、環境的なインパクトを達成するための投資ーこれらのインパクトに対する測定と報告、投資家と原資産/投資先の意図性の実証、および投資家の貢献の実証が必要である。
コミュニティ投資:伝統的に十分なサービスを受けていない個人やコミュニティに特に資本が向けられる場合、また、明確な社会的または環境的目的を持つビジネスに有志が行われる場合。コミュニティ投資の中にはインパクト投資もあるが、コミュニティ投資はより広範囲で、他の形態の投資や対象を絞った融資活動も考慮される。
グローバル機関投資家が上記7つの中核的アプローチで、サステナブルな企業を選別して投資することはすでに始まっています。
日本でも上場企業の9割近くがSDGsに取り組むなど、ESGに配慮した事業推進・経営にシフトしているのが現状です。
また一方、近年欧州では環境団体が企業のグリーンウォッシュ(企業が環境に配慮しているのかように見せかける)を指摘したり、2022年5月にはドイツ銀行の運用部門DWS*が家宅捜査を受け、その翌月同社CEOが退任するなど事件も起こっています。
日本でも金融庁がESG関連の投資信託の監視を強化し、実態が伴わないのに環境配慮などを装う「ESGウォッシュ」を防止しようとしています。
欧米では先行してブームとなったESG投資ですが、評価情報の整備や専門知識を持つ人材や体制づくりといった課題も出てきています。
日本でも金融庁が主導し、2014年から「日本版スチュワードシップ・コード」が策定され、ESG投資に関するルールの整備が始まっています。その一方で日本では署名する機関数があまり伸びていないという現状もあり、出遅れを懸念する声もあります。企業にとってはSDGs同様、ESGへの対応は待ったなしの状況です。
VUCAとは、以下4単語の頭文字を取った言葉で、変化が激しい現代において、未来を予測することは極めて困難である状況にあることを表しています。
・Volatility(変動性)
・Uncertainty(不確実性)
・Complexity(複雑性)
・Ambiguity(曖昧性)
以上3つの背景がある社会において、ESG経営を実行することで、環境・社会・ガバナンスの問題に意識を向け、リスクの予測や対応を迅速にし、経営を安定させることができるといえるでしょう。
*DWSは、約7,591億ユーロ(約93兆9,690億円)*の運用資産残高を誇る世界有数の資産運用会社
ESG経営に取り組むメリットとは
企業がESGに配慮しながら経営活動を進めれば、結果としてSDGsで定められている目標達成を実現できると考えられています。結果として企業はさまざまなメリットを受けることが可能です。
①投資家からの投資評価向上
ESG投資では、企業がESG投資を行うことによって長期的な利益の獲得を見込めると考えられています。そのため、ESG経営に積極的な企業はESG投資家からの評価を得やすいのです。
ESGへの取り組みが評価されると投資家から出資先に選ばれやすいため、事業に必要な資金を調達しやすくなる点がメリットの一つです。
②経営リスクの軽減
ESGを主とする持続可能性の高い経営形態には、企業の抱える経営リスクを軽減するメリットもあります。
③キャッシュフローの増強
ESGによって経営における持続可能性が改善されることは、キャッシュフローの増強にもつながると考えられます。企業として社会への貢献を行う姿勢を示すことが投資家や消費者からの評価と結びつき、ブランドイメージや企業価値が向上し、企業のビジネスを成長させることにもつながります。
ESG経営の海外例
ESG経営に取り組む企業としては、世界的に有名な飲料メーカーのコカ・コーラ社が挙げられます。同社は、環境保護に取り組み、再生可能エネルギーの使用や、CO2排出量の削減などを行っています。また、社会貢献活動としては、人道支援や教育支援、災害支援などの取り組みを行い、SDGsに基づいたESG経営を実践しています。
ESG経営に取り組むことで、社会的な信頼を得ることができるだけでなく、従業員のモチベーション向上や企業の長期的な発展にもつながると言えます。経営者や投資家は、ESG経営の考え方を取り入れ、持続可能な未来を目指すことが求められているのです。
人的資本経営と健康経営との関係
ESG経営は人的資本経営や健康経営とも密接に関連しています。人的資本経営は、従業員の能力や能力開発、働き方改革などを重視する経営の考え方であり、ESG経営と共通する点が多くあります。
健康経営は、従業員の健康維持や健康増進を目的とした経営の考え方であり、社会に貢献するための重要な要素となっています。
世界のESG経営の現状と未来
現在、ESG経営は世界中の企業で取り入れられており、企業価値向上のための重要な要素となっています。具体的には、環境に配慮した取り組みや社会貢献活動、透明性の高いガバナンス体制の確立などが挙げられます。
日本でも、2020年に開催された東京オリンピック・パラリンピックを契機に、SDGs(持続可能な開発目標)に基づくESG経営が注目を集めています。
現状、上場企業の約9割近くがSDGsに取り組んでおり、SDGsのサブセットであるESG投資についての割合も2016年の3.4%から2018年には18.3%と急増しています。
この増加率は世界でも類を見ないものであり、世界の現状を鑑みても投資判断としてのESG投資を考慮する必要性は高まっていくとみられ、ますます拡大していくことが考えられます。
その流れは不可逆的な潮流であり、投資機関がESG投資をすると宣言した以上、企業側にはESG経営への早急な対応が求められます。ESG経営の対応をしていない企業は、ダイベストメント(投資撤退)されてしまう可能性もあるのです。
そしてこのような社会的価値を重視した経営は、企業にとって利益だけでなく、社会に貢献することで企業価値を高めることができるとされています。
また、環境問題や格差問題などの社会課題を解決することで、企業と社会が共に発展することが期待されます。
【参考サイト】 SDGs経営/ESG投資研究会報告書 / GSIA / 国際連合広報センター / 野村アセットマネジメント