1972年、東京都板橋区に「株式会社宝工務店」という小さな工務店が生まれた。東武東上線沿線上の不動産の分譲や開発、販売などの事業を軸に発展し、のちに「株式会社タカラレーベン」へ商号変更。「誰もが無理なく安心して購入できる理想の住まい」のコンセプトが支持され、2022年全国分譲マンション売主グループ別供給戸数ランキング※6位にランクインをするほどの成長を遂げた。不動産総合デベロッパーとして、時代のニーズに合わせた住まいやサービスを展開してきた。
創業から50年を迎えた2022年、「株式会社タカラレーベン」は持株会社体制へ移行。新たに「MIRARTH(ミラース)ホールディングス株式会社」へと商号変更した。「MIRARTH」という商号にはMirai(未来)とEarth(地球)という意味が込められている。併せて同社は、「サステナブルな環境をデザインする力で、人と地球の未来を幸せにする。」というパーパスを策定した。
パーパスに込められた想い、そして「未来環境デザイン企業」を目指すこれからのアクションについて、同社代表取締役の島田和一氏にお話を聞いた。
※2023年3月8日現在、株式会社不動産経済研究所調べ
次の100年へ。パーパスは会社の存在意義であり、未来への約束
―― どのような想いを込め、パーパスを策定されたのでしょうか。
私たちは株式会社タカラレーベンの創業から50年間、「幸せを考える。幸せをつくる。」という企業ビジョンをもとに、お客様のニーズや時代の変化に合わせた住まいづくりをしてきました。この50年で人々のライフスタイルやニーズは多様化し、社会や地域が抱える課題もより複雑になりました。その変化に対応していくため、私たちはこれからより迅速かつ柔軟な経営判断やガバナンスの強化が必要不可欠だと考えたのです。
その考えをもとにMIRARTHホールディングス株式会社へと商号を変更し、併せて「サステナブルな環境をデザインする力で、人と地球の未来を幸せにする。」というパーパスを策定しました。組織が向かっていくべき方向性を明らかにするとともに、「未来環境デザイン企業」へと進化していく想いを込めています。
「地域社会のタカラであれ。」長期ビジョンは、社員に向けてのメッセージ
―― パーパスを具現化するために策定された、長期ビジョンとはどのようなものでしょうか。
「ビジョン」はさまざまな人に向けて作られるものだと思います。長期ビジョンを作る際、メッセージのメインターゲットを決めようと考え、経営陣で議論を重ねました。その場では、「社員が頑張ることが出来ないと、お客様に喜んでいただけない。社員があってのビジネスなのだから、社員に向けたメッセージを作る必要がある」という意見が挙がりました。そこから長期ビジョン「地域社会のタカラであれ。」という、2030年3月期までをターゲットとしたメッセージが完成したのです。
近年、私たちは多角的に事業を展開し、地域創生への事業に力を入れ取り組んでいます。事業を進めていく中で、社員一人ひとりがその地域にとって、宝のような存在になってほしいと考えています。不動産デベロッパーの未来をどう作っていくのか、現場で鍛えた力は地域社会の価値になるのか。私たちは地域社会に関わる中で生まれてくる問いを、自らに発し続け答えを出していかなければなりません。長期ビジョンには、社員の皆さんを奮い立たせ、鼓舞していく想いが込められています。
パーパスと長期ビジョンをさらに社内へ浸透させるためには、経営陣が覚悟を見せていくことが重要です。会社の組織間に横串を刺す施策を打ち出し、グループのシナジー創出を促すなど、ホールディングスとしての強固な体制を構築していきます。
パーパスに即した多角的な成長戦略
―― 地域創生事業への取り組みは、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。
私たちは少子高齢化や地方の過疎化などを始めとする様々な社会課題を解決するために、地域社会と共創しながら未来へ向けた街づくりに取り組んでいます。その事業を推進していくための大切なポイントは、地域に根差している企業や行政、そこに住んでいらっしゃる地元の方々との信頼関係です。地域の活気を取り戻そうという、熱意ある方々との関係性を構築しながら事業を進めていくことが大切になってきます。
私たちが取り組む具体的なプロジェクトとして、約20年前に始めた富山市での再開発事業の例があります。富山市では、中心市街地の衰退が課題となっていました。「中心市街地活性化法に基づく開発事業」の全国認定第1号案件となった再開発事業での新築分譲マンションの供給を皮切りに、富山市内各所へ継続的に展開し、定住人口の増加に寄与してまいりました。地域の活性化に貢献することができ、今なお、マンションの展開を続け「面」の開発を行っております。
地方都市における再開発事業は、富山市の事例をきっかけとして、さまざまな地域で展開されています。例えば、山梨県甲府市にあった老舗百貨店「岡島百貨店」の跡地を取得し、県内随一のタワーレジデンスと商業施設を兼ね備えた複合施設を計画中です。これは地域のにぎわい創出という観点だけでなく、大規模な駐車場も用意することで、地域の課題となっている駐車場の不足も解決する計画です。また、同様に神奈川県小田原市でも老朽化した商業施設ビルを建替え、タワーレジデンスと商業施設を揃えた複合ビルを建設中です。
小田原市栄町二丁目中央地区優良建築物等整備事業 完成予想イメージ
―― 御社のエネルギー事業は、今後どのように展開していくのでしょうか。
2010年より、首都圏を中心に太陽光発電施設を屋上に搭載した「太陽光発電搭載マンション」の分譲を行っていました。その知見を活かし、FITの整備に合わせてエネルギー事業に参入しました。FITとは、再生エネルギー固定価格買取制度のことをいい、再生可能エネルギーの普及を目的に2012年に国が定めたものです。そこから全国にメガソーラー発電所の開発を行い、現在では風力やバイオマスなど、太陽光発電以外の再生可能エネルギー発電所の開発にも積極的に取り組んでいます。この事業は、主軸の不動産事業に次ぐ第二の柱として大きく成長しています。
2021年よりバイオマス発電事業に参入し、現在「富士山朝霧バイオマス発電所(静岡県富士宮市)」を稼働しています。富士開拓農業協同組合の会員から収集した牛ふんなどの有機物資源を燃料とし、エネルギーを発電する施設です。回収した牛ふんをバイオマスプラントで発酵処理し、生成されたバイオガスを燃焼させて発電することができます。さらにバイオガスとともに生成された液体肥料は、富士山朝霧バイオマス液体肥料として、販売を行っています。
富士山朝霧バイオマス発電所全景
この取り組みは、産業廃棄物でもある牛ふん尿の処理問題を解決しながら、廃棄物を有効活用したクリーンエネルギーを供給することで、地域循環型共生圏を構築していくものです。地域循環型共生圏とは、各地域が地域資源を最大限活用しながら、地域の特性に応じて資源を補完し支え合うことにより、地域の活力が最大限に発揮されることを目指す考え方です。
海外でも地域循環型共生圏への取り組みを行ってまいります。その一つとして、カシューナッツの殻を活用したバイオマス発電を、カンボジアで開始しました。カシューナッツの殻は、バイオマス発電の新規燃料の材料として、FITに認定されています。そこから抽出できるオイルは、石炭と同等のカロリーを持ち、船舶エンジンや農機具のバイオ燃料として使用できます。
カンボジアにカシューナッツの加工工場を建設し、衛生管理においての国際基準HACCAP(ハサップ)の認証を得て、試験的に稼働しています。この工場で働く人が増えることで現地の雇用を創出し、地域経済の活性につながっていくと考えています。
今後は、エネルギー事業に地域創生の事業を組み込み、エネルギーの地産地消が可能な地域づくりを日本国内、海外に広く展開していきたいと考えています。
「未来環境デザイン企業」という名にふさわしい会社となる
―― 島田社長が考える、会社の未来へ向けた決意、意気込みをお聞かせください。
2022年、タカラレーベン内に「地域戦略推進部」、さらに「ホテル運営部」を新設しました。今後は地域の廃校を有効活用したり、地域にホテルをつくり雇用を創出したりと、地域行政と連携して複合的な取り組みをしていきます。私たちの事業領域は、コア事業としての不動産事業の他、エネルギーや地方創生事業、海外への事業展開など多岐に及びます。社員の皆さんには、その中で生まれるビジネスのチャンスをつかみ、果敢にチャレンジをしていただきたいと考えています。
策定された長期ビジョン「地域社会のタカラであれ。」を社員一人ひとりが実現する。そうすることで私たちが掲げるパーパスにふさわしい「未来環境デザイン企業」へと、確実に歩みを進めることができます。その変革を達成するために、各事業の垣根を超えたシナジーを最大限に発揮し、これからも人と地域、そして地球の未来に貢献していきたいと考えております。