株式会社ETSホールディングス(東京都豊島区、代表取締役 加藤慎章)は、創業101年目を迎えた送電工事・電気設備工事を事業展開する老舗企業だ。これまで、人々のインフラとなる電気工事に一貫して取り組み、快適な暮らしの形を社会に提供してきた。
その他にも再生可能エネルギー事業にも力を入れており、地球温暖化防止のために、太陽光発電等の再生可能エネルギー発電所の建設工事にも注力している。同社の歴史を大切にしつつも、枠にはまらず柔軟な企業経営を加速させている。
同社は次の100年に向けて持続可能な企業経営を推進していくために、22年1月より従業員の幸福を追求していくべく、CHO(Chief Happiness Officer)を設置。そして23年1月からは「ハロー・ハピネス・プロジェクト」という名称で企業内のプロジェクトを展開している。
このプロジェクトが発足した背景として、現場の若手社員の慢性的な離職率の高さという同社の課題があったそうだ。
100年企業ともなれば、社員一人ひとりの年齢や育ってきた文化にギャップがある現場であることの想像は容易い。その環境の中での人間関係に悩み、職場を去ってしまう若手社員が多かったという。そこで同社は、社員の幸福度を上げ、どのようにして離職率を改善していくかに注目した。
そこでCHOに就任したのは森一氏である。21年4月に同社シニアアドバイザーとして就任し、経営幹部をはじめ多くの社員の相談に乗っていた。同社代表の加藤社長もその中の一人だったという。社員がどうしたらこの会社で幸せに働けるのかについてなど、この会社で働くことが幸せにつながると実感してもらうためにはどうしたらいいのか、経営層と共に問いを立てつつ、対話を粘り強く繰り返した。
そして21年末頃から、森氏は社員一人ひとりと「1on1」つまり一対一の面談を通して向き合ってきた。その中で、心理的安全性が醸成され、社内にこの概念が浸透することを目的とした。森氏はこの100年続いた企業の中で働く社員は、どんなことを考え、どんな思いで働いているのかが知りたかったという。具体的な活動としての取り組みは、森氏と同社総務人事課の吉岡係長を中心として進められた。
社員一人に対して30分という短い時間の中で、その社員が考えることについて多くの対話を繰り返し、それは全国の社員(約150人)と話すことにつながり、期間としては約一年に渡ったという。対話をする際、森氏は心理的安全性を一番に考え、安心感を醸成した結果、普段は口にできないことも社員の話からでることが少なくなかったと語る。
社員の中には、若手が先輩に対して意見を言っていいのだろうかという悩みを持つ人もいた。しかし森氏はその人が大切であると考えることを、自ら伝え、発信することで自発性を発揮できる機会になると話す。
森氏は伊藤忠商事に20年以上、さらに複数の外資系企業でも勤務していた。エネルギーインフラ事業に長く携わり、GEエナジー・ジャパンや、シエルテール・ジャパンなどではトップとして活躍してきた。その中で多くの人の悩みや考えを受け止めてきたからこそ、そういった想いがあるのだろう。
また、1on1だけではなく傾聴に重点を置いたコミュニケーション研修も開催し、この研修で、社内のコミュニケーションがより柔軟に活発に行われるように促進していった。
実際、”社員の幸福度”を定量で表現することは難しい。しかし、22年度の新入社員のうち、年明けまでに離職したのは一人だけだという。全員が、社員の離職に向き合うことで、以前の”去る者追わず”の体質が、大きく改善しつつある。
ハロー・ハピネス・プロジェクトを開始して約5カ月、まだこれからという吉岡係長には同社の未来をつくっていく意気込みが見える。そして、「常に挑戦と工夫、そして周囲を巻き込むポジティブな組織風土になるよう、社員全員が進んでいけるように森CHOと共に取り組んでいきたい」と力づよく話す。
森氏は、今の企業にCHOが必要な理由を次のように述べる。「企業文化の中に心理的安全性を構築するベースをつくり、社員が生き生きとして働くことができるためにCHOの存在は必要だ。また、それを通して社員がチャレンジをしやすい環境をこれから経営層や社員みんなで醸成していきたい」とはつらつとした笑顔で語った。