デジタルテクノロジーを活用し、企業や地域の脱炭素対応/GX(グリーントランスフォーメーション)を統合的に支援する株式会社アイ・グリッド・ソリューションズ(東京都千代田区 代表取締役社長 秋田智一)。
「グリーンエネルギーが地域をめぐるサステナブルな世界の実現」をビジョンに掲げ、商業施設や物流施設などの屋根を活用した分散型ルーフトップ太陽光発電を、45都道府県・672施設で保有。その拡大に力を入れている。
GXとは、エネルギー源を化石燃料から太陽光発電などのグリーンエネルギー中心へと転換し、社会のエネルギーシステムを根本から変革する取り組みを言う。日本でも2020年10月に2050年カーボンニュートラルを目指すことを宣言し、国際的にも喫緊の課題となっている。
ビジョン実現のために、何が必要なのか。同社の秋田社長にお話を伺った。
―「脱炭素」という言葉をよく耳にするようになりましたが、一般の方からすると少し難しい・イメージがしづらいかもしれません。わかりやすく教えていただけますか。
「脱炭素」は世界規模で起こっている異常気象や気温上昇などの原因とされているCO2の排出をできる限り抑えていこうとする取り組みです。特に電力などのエネルギーは化石燃料を用いることで多くのCO2を排出してしまいます。そのため、エネルギーをできる限り再生可能エネルギーに変えていこうと、世界で大きな変革が起きています。日本においても2020年の菅前総理大臣のカーボンニュートラル宣言によって大きく脱炭素への流れが動き始めました。
こうした社会的背景はありますが、当社は脱炭素の動きが加速する前から企業のエネルギー自給率を向上させ、環境負荷を下げたり経済合理性を高めたりするために、施設屋根を活用した太陽光発電事業を手掛けていました。
太陽光というと大規模に山や平地に設置をするイメージがあると思いますが、当社事業は施設屋根を用いるため、自然を傷つけない形で再生可能エネルギーを増やす仕組みになります。
―再生可能エネルギーが増える素晴らしい取り組みですね。工夫はどのようなことがあるのでしょうか。
再生可能エネルギーは環境に良いものの、天候に左右され、発電コントロールが難しいエネルギーと言われています。そのため、単に発電させればよいということでもなく、電気を使う側の調整も必要になってきます。
そこでカギになるのがデジタルテクノロジーです。詳細は割愛しますが、電力は30分単位で発電量と使用量をコントロールする必要があります。これを人の手だけで管理するのは非常に難しい。
当社が開発したプラットフォームでは、30分単位で再エネの発電量と施設の電力使用量をAIが予測しています。また、実際の発電量・使用量もIoT技術を使いリアルタイム計測しています。現在当社では全国に約600以上の屋根上の太陽光発電所を保有していますが、これらすべてをコントロールするためにデジタル技術を活用しています。
また、全国に分散する太陽光から生み出される再生可能エネルギーを束ね、施設で使いきれなかった分を別の電力利用者に届けるモデルもこのプラットフォームがあることで実現できています。それを当社では「余剰電力循環モデル」と呼んでいます。
―そのモデルを活かす地域を増やしていくためには、何が重要でしょうか。
直接のお客様からは再エネが増えたことで、環境的にも経営的にもダイレクトに効果が見えとても喜んでいただいています。企業の方々の脱炭素支援を行っていますが、最終的には一般消費者の生活にもつながっていくと考えています。エネルギーというのは目に見えなくとも人と人とをつなぐ大切な存在、そして生活を一番底から支えている存在といってもよいのではないでしょうか。そのため、テクノロジーやIoTを使って、エネルギーシステムを「見える化」することで、エネルギーが地産地消、循環されていることを、地域の人たちに理解してもらうことが大切だと考えています。
また、私たちが目指す再生可能エネルギーが巡る社会を作っていくためには、企業や行政と協力し、情報を開示し合うことも必要です。そこには自治体や地域の方の温度感、脱炭素に対する意識醸成などによる機運も関わってくる。その流れを作っていくためのアライアンスを結んでいくことも重要だと考えています。
―GXを推し進めるために、日本には何が必要だと考えていますか。
規制、つまりカーボンプライシングが進むことです。カーボンプライシングは、企業などが排出するCO2に価格をつけて、それによって排出者の行動の変化を起こすために導入する政策手法のことを言います。
炭素排出に対してコストがかからないとすれば、当然ですが、それに関して企業の意識も低くなってしまう。しかし今後は、自社で発電した電力を自分たちで利用したり、国からの税制面や補助金での優遇があったりするので、企業が炭素排出を減らすための投資というのは進んでいくと考えています。
脱炭素に対して企業の動きが変わってくれば、一般の方々もエネルギーに対して意識を持つようになるでしょう。現在は環境配慮商品の方が高価ですが、今後は安く手に入ることが当たり前になり、より環境に配慮しようという社会の機運も高まってくると思います。
― 一般の方々が脱炭素のためにできることはどんなことがありますか。
一般の方々が脱炭素のために今できることは、使う電気の選択をまず考え、再生可能エネルギーで作られた電気を利用していくことです。
私たちが生活する中で、一番炭素を出しているのは電気です。脱炭素というのは、CO2の排出量と吸収量をニュートラルの状態にすることが必要です。そのため、炭素エネルギーから自然エネルギーへ転換させるというところがまず取り組むべきところなので、自宅屋根に太陽光パネルを設置したり、電力自由化によって電気の源となる発電方法を選んで購入したりする。自分で考えて電気を使っていくという意識が重要です。
―御社の強みはどこにあるとお考えですか。
とにかくたくさんのチャレンジをやりきるところ。そしてそれができるメンバーがいることが私たちの一番の強みです。今はVUCAの時代なので、その時によって自分たちの強みを変化させながら事業を推進していく必要があります。
つまり、営業だけが強くても、企画力だけが強くても、時代が変わってしまったらおいて行いかれてしまうリスクもある。当社には、変化に対して柔軟な、しなやかで折れない人材がそろっているので、それを強みとした組織文化を醸成していきたいと考えています。
―御社の動画を拝見し、プロスケートボーダーの堀米雄斗さんが御社のイメージキャラクターということを知りました。どのようなきっかけがあったのでしょうか。
当社のイメージキャラクターを探していた時、ちょっとしたご縁で堀米選手を紹介していただきました。彼は、試合で毎回新しい技を取り入れ、失敗しても新しい技にどんどんチャレンジしていくそうです。こうした新しいことに失敗を恐れず常にチャレンジする姿勢が当社の理念と重なりました。
当社には「300分の2」という言葉があります。これは、300個の企画を出し、成功した企画が2つということを表しています。300の企画の中には、実際システムを作ったものや、アイデアベースのものなど様々ですが、それにしても、たくさんのチャレンジをしてきました。その中で成功した代表的なサービスとしては、「スマ電CO2ゼロ」というサービスと、子会社であるVPP Japanが提供している、施設屋根に当社所有の太陽光発電システムを設置して、直接電気を届けるPPAモデルの二つです。
当初はまだPPAという言葉すら一般化していなかった時代から手がけ今ではありがたいことにPPAといえば当社と言ってもらえるまで成長することができました。これは堀米選手が新たな挑戦をしてスケートボードの魅力を伝え続け、人気スポーツとして確立してきた姿とも重なります。
何度失敗してもあきらめず、新しい挑戦をし続ける。今も挑戦を応援し合えるパートナーとしてよい関係を作っていけたらと考えています。
―秋田社長は次世代に対してどんな風景を残していきたいでしょうか。
大体の方は、気候変動の問題や、未来に対して暗いイメージを持ちがちです。日本や海外においての気候変動を見て、例えば、将来に対しての不安から子供を持ちたくないという話も耳にすることもあります。脱炭素への転換には、みんながこれからの未来に対して、明るさや楽しいイメージを描けるかどうかが大切です。そのために私たち自身が、未来に対してワクワクしながら、この事業を進めていきたいと考えています。
また、今まで見てきた自然の風景や自然は、人間にとってとても大きな存在です。自然の緑を感じたり、キレイな海を見たりしたときに癒される感覚は私も含めて誰もが感じることでしょう。
日本の豊かさの象徴である緑を大切に、自然に配慮した再生可能エネルギーの増やし方や、脱炭素社会の転換というのを目指していきたいと思っています。そのエネルギーソリューションが維持され、日本の美しい景観と共存している風景を残していきたい。次世代に残すに値する良き社会を残しつつ発展していくために、私たちはこれからも多くのチャレンジとともに邁進していきたいと思います。