日本の放送文化の一翼を担ってきたTBSグループは、国連『SDGメディア・コンパクト』に参画し、日本のSDGsを推進する力強い意思を示している。総合メディアグループとして強力な発信力を持つ同社は、どのようにSDGsに取り組んできたのか。SDGsの目標達成に欠かせないパートナーシップについても聞いた。
国連『SDGメディア・コンパクト』への参画でSDGsを加速
30年以上続く『news23』をはじめ、質の高い報道・情報番組を手がけているTBSホールディングスでは、「SDGs」という言葉が登場する以前から、日常的に環境問題や貧困問題など、さまざまな社会課題をテーマとして取り上げてきました。
2018年には『海を殺すなプラスチック汚染』と題し、世界各地で起きているプラスチックごみ問題をTBS系列のJNNニュースで伝え、「海を殺さないために、私たちは何をすべきなのか考えましょう」というキャンペーン報道も行いました。
当社が企業として行っているSDGsへの取り組みとしては、2018年9月から実施している新電力ベンチャー『みんな電力(株)』への出資と業務提携があります。これは単なる出資ではなく、今後メディア企業として再生可能エネルギーに関わる情報発信や企画制作を積極的に行っていこうという、当社の前向きな姿勢を形にした事業です。
2018年12月にはTBSラジオ戸田送信所の100%再エネ化、その翌年の2019年10月にはTBS放送センターに隣接するサカス広場や文化施設であるマイナビBLITZ赤坂(2020年より改修中)・TBS赤坂ACTシアターの100%再エネ化を実現しました。『みんな電力』は2020年12月、SDGs達成に資する優れた取り組みを行っている企業や団体を表彰する『第4回ジャパンSDGsアワード』で最高賞の『SDGs推進本部長(内閣総理大臣)賞』を受賞しました。
SDGsは気候変動や貧困、教育、ジェンダー平等などさまざまな社会課題を「トータルで解決していきましょう」という考え方です。例えば、気候変動が改善されて農業生産が安定すれば、途上国の農家が貧困を脱し、労働力として働かされていた子どもたちが学校に行けるようになる…といったように。
私自身、長年記者として仕事をしてきた中で様々な社会問題を取材してきましたが、そういった問題が実は根底でつながっていて、同時に解決していくべきだという意識はあまりなかったように思います。
TBSはメディア企業として今後一層SDGsに取り組まなくてはならないと考え、2019年8月に世界のメディアやエンターテインメント企業約150社(2021年2月現在)が加盟する国連の『SDGメディア・コンパクト』に署名しました。これは社外にけて当社の姿勢を示すというだけでなく、社内的にもSDGsへの意識が高まったという点で、大きな意味があったと考えています。
グループ全体で「SDGsキャンペーン」を展開
SDGsは2030年のゴールに向けて「行動の10年」に入ったといわれています。
当社でも『グループ中期経営計画2020』の中で「放送事業者ならではのSDGsに取り組む」と明記していますが、具体的な「行動」という点では、どうやって大きく広げていくかが課題でした。そこで、機運を高めるには全社的なキャンペーンしかないと考え、2020年の11月23日から29日までの1週間、『TBS系SDGsプロジェクト地球を笑顔にするWeek』と題し、TBSテレビ、TBSラジオ、BS-TBS、さらに放送外の取り組みなども行う、はじめてとなる「ALL TBS」のキャンペーンを実施しました。
報道や情報番組は日常的に社会課題を取り上げているのでキャンペーンとの親和性は高いのですが、バラエティ番組にとってSDGsを取り入れるのは、必ずしも簡単なことではなかったと思います。それでも、全社的なキャンペーンということで多くの番組が試行錯誤をしながら取り組んでくれて、最終的には30以上の番組が参加する盛り上がりとなりました。バラエティ番組も参加したことで、普段報道や情報番組をあまり見ないような方も含め、より幅広い層の視聴者にSDGsに関する情報をお届けすることができたのではないかと思います。
日本人のSDGs認知度はまだ3割程度で、残念ながら先進国の中では低いほうです。今回のキャンペーンでは、期間中のSDGs関連企画の総放送時間がTBSテレビだけで19時間を超えたのですが、それだけやるとさすがにインパクトがあったようで、幅広い年代の視聴者の方から予想以上の反響がありました。中には、「好きなアイドルが出ているバラエティ番組でSDGsをやっていた。私は普段からとても環境のことに興味があるのですごくよかった。これからもやってほしい」というような、若い視聴者からのうれしいお声もいただきました。
いま、時代は「テレビよりインターネット」といわれることがよくあります。家にテレビがないという若者が増えていると聞くと、「テレビの存在意義、役割ってなんだろう?」と、暗澹たる気持ちになります。しかし、今回のキャンペーンをきっかけに多くの方がSDGsに興味を持ってくださった事実を受け、「テレビにはまだまだ役割があるんだ」と確信できました。
マスメディアの強みを活かして「SDGs」の普及に貢献
今回のキャンペーンでは、SDGsを「まずは知って、一緒に考え、そしてともに解決していきましょう」と呼びかけました。キャンペーン大使には生物多様性などにも造詣が深い香川照之さん、これからの世界を担う若者の代表として指原莉乃さん、安住紳一郎アナウンサー、そして17の目標を若手を中心とした17人のアナウンサーが担当しました。
放送に加えてTBS公式Youtubeチャンネル「Youtuboo」にて公開したキャンペーンスポットは、香川さん、指原さん、安住アナの3人が「SDGsって??」「17のテーマって??」と対話する形式で、現場の盛り上がりがそのまま動画になりました。香川さんがドラマ『半沢直樹』で演じた大和田常務よろしく「サステナブル・デベロップメント・ゴーーールズ!」と叫ぶものあり、「SDGs」という言葉を強く印象付けることができたのではないかと思います。
これまで、情報番組などでは、環境や社会課題を取り扱うと、視聴者が敬遠して視聴率が下がってしまうのが課題とされていました。「伝えなくてはいけないものだけど、数字(視聴率)は取れない」と、ある意味割り切っていた部分もありました。ところが今回は、情報番組などで視聴率が下がらないどころか、むしろ少しあがったのが、制作している私たちにとってはうれしい驚きでした。
今まで環境問題や気候変動が出てくると番組を変えていた人たちが、チャンネルを変えずにそのまま見てくださったのではないか。新たに見に来てくれた人もいたかもしれません。それだけ多くの視聴者が「SDGs」に興味関心を持つようになったというのは、時代の変化なのではないでしょうか。このタイミングで何らかのメッセージをお届けすることができたというのは、番組制作スタッフにとっても大きなモチベーションにつながりました。
SDGsの推進に貢献していくためには、キャンペーンを進化させ、継続していかなくてはなりません。今回のキャンペーンが視聴者の皆さんにSDGsを知っていただくきっかけになったのだとしたら、次のステップでは解決策を示し、一緒に解決していく挑戦をしていきたいと考えています。
SDGsの目標を実際に「達成する」のは難しいと思います。しかし、多岐にわたる課題について視聴者の皆さんにより広く知ってもらい、より深く関心を持ってもらった上で、「こんな方法があるので一緒にやりませんか?」と提案し、多くの人が「アクション」につなげられるキャンペーンに発展させていくことで、メディアとしての役割が果たせるのではないかと思っています。
今回のキャンペーンでは新しい取り組みとして、趣旨に賛同していただける企業に、一緒にSDGsを推進する「パートナー」という位置づけでご参加いただきました。SDGsの17の目標のなかで、実はテレビ局が1番得意なのは目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」だと思います。
TBS一社だけでできることは限られています。今後も同じ志を持つ企業とパートナーシップを組んで、一緒に取り組みを進めていきたいと考えています。実はSDGsキャンペーンの期間中、火曜ドラマ「この恋あたためますか」で、台風被害を受けた傷のあるリンゴを使ってスイーツを開発するというストーリーがあったのですが、これはまさに目標12の「つくる責任、つかう責任」に該当します。
後になって一緒にSDGsキャンペーンをやっている仲間が、ドラマ担当者にアイデアを出したらしいと分かったのですが、「これってSDGsだよね」というようなセリフがドラマの中で当たり前に使われるようになったらうれしいです。
パートナーシップでSDGsを推進する
ペットボトルを減らした方がいいからマイボトルを持ち歩こうとか、なるべく紙の使用を減らそうという動きは社内でも少しずつ広がっています。ですが、中長期的なSDGsの取り組みについては、まだこれからというのが正直なところです。
目の前のことをどうにかしなくてはならないという意識の変化は広がってきていますが、取り組みを中長期的に継続していくことで、何がどう変わるのかまで想像できている人はまだまだ少ないと思います。子どもや孫の暮らす未来に今の自分の行動がどういう変化をもたらすのか、そういう想像力の伴ったアクションにならないと、本当の意味での解決には近づいていかないと思います。
SDGsの取り組みは、まだスタートラインに立ったところです。パートナーシップを広げ、「一緒に行動に起こす」うねりを作っていけるかどうかが、今後のキャンペーンのカギになると思います。
テレビの「広く伝える」という強みを活かして、様々なアイデアを持つ自治体、企業、団体、市民のみなさんと積極的にパートナーシップを組んでいけたらと考えています。
放送局として今回のようなキャンペーンは発展させながら継続的に行っていく予定ですが、それだけでなく、会社の内側も変えていかなければなりません。
例えば、脱炭素社会に向けた流れが加速していく中で、当社としてもこれまで以上のCO2削減努力をする必要がありますし、ジェンダーの面でも女性がより重要なポジションで活躍できるような会社にしていかなくてはならないと思っています。SDGsは企業が存続していくために、根幹に持っていなければならない考え方だと思います。
TBSグループは『最高の〝時〞で、明日の世界をつくる。』というブランドプロミスを掲げています。その実現のために「さまざまなフィールドで心揺さぶる時を届け、社会を動かす起点となる」ことを目指していますが、SDGsへの取り組みはそのための重要なカギの一つです。これから就職される方たちに「ここで働いて、活躍したい!」と思ってもらえる魅力的な企業になるためにも、SDGsにしっかりと取り組んでいきたいと思っています。
『こんな会社で働きたい SDGs編』より転載。
株式会社TBSホールディングス 取材日:2020年12月11日 設立:1951年5月 事業内容:認定放送持株会社、傘下子会社およびグループの経営管理、不動産事業 資本金:549億8689万2896円 本社住所:〒107-8006 東京都港区赤坂5丁目3番6号 電話番号:03-3746-1111(代表) URL:www.tbsholdings.co.jp/