ESG投資は、環境 Environment 社会 Social ガバナンスGovernance 要素も考慮した投資のことを指します。これまでは、投資の価値を測る材料として、主に、売上、利益、キャッシュフローなどの定量的な財務情報が使われてきましたが、それに非財務情報であるESGの要素も考慮して投資が行われるようになりました。
Eは環境の問題(気候変動問題など)、Sは社会の問題(サプライチェーン全体の労働状況など)、Gは企業統治の問題(企業の不祥事など)で、短期的利益を追求するあまり、こうした問題を解決して、持続可能な経済を実現させようというものです。
ESGという概念は、2006年に国連が機関投資家に対し、国連責任投資原則(Principles for Responsible Investment)を提唱したことがきっかけになりました。
国連責任投資原則(PRI)は6つの原則を提唱しています。
1.投資分析と意思決定のプロセスにESGの視点を組み入れる
2.株式の所有方針と所有監修にESGの視点を組み入れる
3.投資対象に対し、ESGに関する情報開示を求める
4.資産運用業界において本原則が広まるよう、働きかけを行う
5.本原則の実施効果を高めるために協働する
6.本原則に関する活動状況や進捗状況を報告する
日本においては、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2015年に国連責任投資原則(PRI)署名し、2017年7月にESG投資の運用を開始したことで注目されるようになりました。
世界のESG投資額の統計を集計している国際団体のGSIA(Global Sustainable Investment Alliance)は次のように定義しています。
持続可能な投資とは、環境、社会、ガバナンス(ESG)の要素をポートフォリオの選択と運用において考慮する投資手法です。GSIAが明確にした持続可能な投資戦略は、当初2012年の「グローバル・サステナブル投資レビュー」で発表され、世界標準の分類として登場した。これらの定義は、世界の持続可能な投資業界における最新の実践と考え方を反映させるため、2020年10月に改訂されました。持続可能な投資に対する7つの中核的アプローチと、それに関連する定義は以下の通りです。
1)ESGインテグレーション投資
運用会社が環境、社会、ガバナンスの要素を財務分析に体系的かつ明示的に取り入れること。
2)企業エンゲージメントと株主行動
直接企業エンゲージメント(すなわち、経営陣や取締役会とのコミュニケーション)を通じて、企業の行動に影響を与えるために株主の力を活用すること
3)規範に基づくスクリーニング
国連、ILO、OECD、NGO(例:トランスペアレンシー・インターナショナル)などの国際規範に基づく、ビジネスや発行体の実践の最低基準に照らした投資のスクリーニング。
4)ネガティブ/除外スクリーニング
投資対象ではないと考えられる活動に基づく、特定のセクター、企業、国、その他の発行体のファンドやポートフォリオからの除外。
5)ベスト・イン・クラス/ポジティブ・スクリーニング
同業他社と比較してESGパフォーマンスが良好なセクター、企業、プロジェクトに投資し、定義された閾値以上の評価を獲得すること。
6)サステナビリティ・テーマ別投資
持続可能なソリューション(環境・社会)に貢献するテーマや資産への投資(例:持続可能な農業、グリーンビルディング、低炭素型ポートフォリオ、ジェンダー平等、多様性)。
7)インパクト投資とコミュニティ投資
インパクト投資: ポジティブで社会的、環境的なインパクトを達成するための投資–これらのインパクトに対する測定と報告、投資家と原資産/投資先の意図性の実証、および投資家の貢献の実証が必要である。
コミュニティ投資: 伝統的に十分なサービスを受けていない個人やコミュニティに特に資本が向けられる場合、また、明確な社会的または環境的目的を持つビジネスに融資が行われる場合。コミュニティ投資の中にはインパクト投資もあるが、コミュニティ投資はより広範で、他の形態の投資や対象を絞った融資活動も考慮される。
グローバルで機関投資家が上記の7つの中核的アプローチで、サステイナブルな企業を選別して投資することは既に始まっています。
GSIAの2020年レポートによると、
・世界のサステイナブル投資は主要5市場で35.3兆ドルに達しました。2018年比で15%の増加となります。
・サステイナブル投資の運用資産は、世界の運用資産の35.9%となり、2018年の33.4%から上昇しました。
・持続可能な投資資産は、ほとんどの地域で増加を続けており、2018年から2020年にかけて、過去2年間でカナダが絶対額で最大の増加(48%増)となり、米国(42%増)、日本(34%増)、オーストラレーシア(25%増)がそれに続く。欧州は、本年度の報告書の欧州データの引用元である測定方法の変更により、2018年から2020年の持続可能な投資資産の成長率が13%減少したと報告しました。これは、欧州持続可能金融行動計画の一環として欧州連合の法律に組み込まれた持続可能投資の定義改訂に伴う移行期間を反映しています。
・「持続可能な投資」の割合が最も高いのはカナダで62%、次いで欧州(42%)、豪州(38%)、米国(33%)、日本(24%)の順となっています。
・2018年から2020年にかけても、米国と欧州が世界のサステナブル投資資産の80%以上を占める。
・最も一般的なサステナブル投資戦略はESGインテグレーションであり、次いでネガティブ・スクリーニング、企業関与・株主行動、規範に基づくスクリーニング、サステナビリティをテーマとした投資となっています。というように、米国市場を中心に大きく伸びていることがわかります。
日本でも上場企業の9割近くもSDGsに取り組むなど、ESGに配慮した事業推進・経営にシフトしています。
一方で、最近、欧州では環境団体が企業のグリーンウォッシュ(企業が環境に配慮しているかのように見せかける)を指摘したり、5月にはドイツ銀行の運用部門DWSに家宅捜査を受け、6月にはDWSのCEOが退任するなど事件も起こっています。日本でも金融庁がESG関連の投資信託の監視を強化し、実体が伴わないのに環境配慮などを装う「ESGウォッシュ」を防止しようとしています。欧米では先行してブームとなったESG投資ですが、評価情報の整備や専門知識を持つ人材や体制づくりといった課題も出てきています。
日本でも金融庁が主導し、2014年から「日本版スチュワードシップ・コード」が策定され、ESG投資に関するルールの整備が始まっています。そのいっぽうで日本では署名する機関数が余り伸びていないという現状もあり、出遅れを心配する声もあります。企業にとってはSDGs同様、ESGへの対応はまったなしの状況です。
参考文献
GLOBAL SUSTAINABLE INVESTMENT REVIEW2020(http://www.gsi-alliance.org/wp-content/uploads/2021/08/GSIR-20201.pdf)
GPIF年金積立金管理運用独立行政法人(https://www.gpif.go.jp/esg-stw/esginvestments/)
国連責任投資原則(PRI)(https://www.unpri.org/)