2023.03.23

健康経営企業とは? ~多くの企業が取り組む理由~ 

健康経営は企業の経営戦略の1つ

「健康」という言葉と、「経営」という言葉。どちらもわざわざ調べなくても意味の分かる言葉なので、「健康経営」といった場合もその定義を調べずに言葉のイメージだけで語られがちかもしれません。しかしこの言葉には、特別な意味があります。

NPO法人 健康経営研究所と、経済産業省によれば、健康経営とは「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」を指します。ここで重要なのは「経営的な視点」で考える、ということです。経営的な視点がないままの取り組みでは、ただの健康維持・増進活動になってしまうからです。健康経営は、経営戦略と密接に結びついていることが前提条件なのです。

現代は何をするにも創意工夫が必要です。思い通りにいかないことも多く、潜在的なストレスを抱えている若者が今はとても多い時代。そんな中、従業員のメンタル不調のリスクは、企業にとっても大きな課題です。メンタルヘルスとどう向き合うかということも、健康経営が解決すべき社会課題の一つでもあるのです。

ここでは、その健康経営について、様々な視点からご紹介します

 健康経営とは?

健康経営の始まりは、アメリカにおいて1992年に出版された「The Healthy Company」の著者で、経営学と心理学の専門家、ロバート・H・ローゼンが提唱したことによります。日本において健康経営とは、経済産業省によると「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実行すること。企業理念に基づき、従業員への健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながる」と、未来投資戦略というものとして位置づけています。ここで大切なことは、その企業で働く人たちの健康管理を、個人によるものではなく、その企業の課題としてとらえましょう、と考える経営手法の一つです。

健康経営の概念においては、働く従業員の健康維持そして、増進の取り組みに必要な経費は「コスト」と捉えるのではなく、その会社の将来へ向けた「投資」であると位置づけます。

 健康経営が注目される背景

今の時代に健康経営が注目される背景には、大きく次の4つの理由が挙げられます。

細かく見ていきましょう。

生産年齢人口の減少と従業員の高齢化

少子高齢化が進むにつれ、日本の生産年齢人口(15歳~64歳)は1995年をピークに減少しています。将来2050年には5,275万人(2021年から29.2%減)に減少すると見込まれています。生産年齢人口の減少により、労働力の不足、国内需要の減少による経済規模の縮小など様々な社会的・経済的課題の深刻化が懸念されます。今後高齢化した従業員が病気等により継続して働けなくなる可能性が多くの企業にリスクとして存在するのです。

 深刻な労働力不足をどうするか?

少子高齢化が進んでいる日本において、同時に長期的な人材不足が深刻化しています。そこで企業は労働力の確保のため、各企業は従業員の雇用延長などを積極的に図らなくてはならない状況です。さらに現在行っている業務の効率化、そして生産性の向上を促進していく必要があります。人材不足による労働時間増などの負担による従業員の健康状態の悪化は、企業全体の生産性を促進させるどころか低下させることに繋がってしまいます。その生産性の低下を防ぐために、従業員の健康保持とその増進がとても重要なキーポイントとなってくるのです。

長時間労働の常態化

働き方改革は今や企業にとって切っても切れない関係となりました。過剰な時間外労働は国から指摘される対象になり、行政処分や訴訟といったものを引き起こす原因となります。最近ではWEB上で簡単に会社の評価を記入することもできたりしますが、そういった第三者からのネガティブな発信は、企業における採用力の低下や離職率の上昇にも繋がってしまいます。実際、就業者のうち休業者は2022年平均で213万人と、前年に比べ5万人の増加(2年ぶりの増加)となりました。そういった背景からも、企業側のフォロー体制はとても重要であると言えるでしょう。

国民医療費の増加

人口の高齢化による医療費の自然増が、企業の社会保険料負担の増加につながっています。医療費の自然増の要因には、人口増加、人口高齢化、医学や医療の進歩や新技術の導入、疾病構造の変化などがありますが、日本においては人口の高齢化が大きな要因となっています。厚生労働省によると、国民医療費は2040年に68兆5000億円を超え、社会保障費は約190兆円まで増加すると予測されています。

 企業が健康経営を行うメリットとは?

健康経営を推進する企業にとって、それはどのようなメリットがあるのでしょうか。

 健康経営を推進することで期待できる4つのポイント

Merit1 生産性向上、業績向上

健康経営を行う一番の大きなメリットとしては「社員の生産性向上」が挙げられます。

プレゼンティズム

出勤しているにもかかわらず心身の健康上の問題が作用して、パフォーマンスが上がらない状態のこと。多少の無理をすれば出社できる状態ではあるが、ケアレスミスの増加をはじめ、作業効率や集中力の低下を引き起こすこともある。

 

アブセンティズム

心身の体調不良が原因による遅刻や早退、就労が困難な欠勤、給食など、業務自体が行えない状態を指す。一人がアブセンティズムの状態でいると、関わるチームや組織に影響し、業務生産や業務効率の低下を引き起こすと考えられている。

生産性を考える際に重要になってくるのが、「プレゼンティズム」と「アブセンティズム」という仕事のパフォーマンスにおける概念です。これは、WHO(世界保健機関)によって提唱された健康問題に起因したパフォーマンスの損失を表す指標です。

 

いずれの状態を誘発してしまう事は、事業の生産性に直接影響しますので、社員の健康を維持・促進することが重要です。その二つが解消されれば、一人ひとりの生産性が向上することによって、企業の業績がアップすることも研究によって証明されています。

Merit2 企業価値の向上・企業ブランディング

健康経営は企業価値の向上、ブランディングにも効果があります。なぜなら、後述するように経産省が健康経営にかかる各種顕彰制度として、平成26年度より「健康経営銘柄」の選定を行っており、平成28年度には「健康経営優良法人認定制度」を創設したということがあります。

それは、”優良な健康経営に取り組む法人を「見える化」することで、従業員や求職者、関係企業や金融機関などから「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業」として社会的に評価を受けることができる環境を整備しています。”ということです。

この制度が創設されたことにより健康経営を推進し、制度認定を受ける企業は約1万5000社にのぼりました。健康経営企業という社会的な評価を得ることで人材採用の際にも大きく役立ちます。

また、健康経営に取り組むことで「従業員を大切にする企業」というイメージを前面に押し出せるので、顧客囲い込み、またはファンの獲得といった効果も少なからず期待できるということが挙げられるでしょう。

Merit3 従業員のモチベーションアップ・組織の活性化

長時間労働などによる社員の仕事に対するモチベーションの低下は、企業の生産性を下げる要因となります。健康経営により、企業の従業員が心身ともに健康的に働くことで、業務の効率化と生産性向上が期待できます。それはつまり、職場環境の改善や健康の増進につながり、従業員一人一人の仕事へのモチベーションも高まります。

また、従業員に対して働きやすい環境を企業側が整備することで、心身の不調を事前に予防し、健康上の理由による休業や退職などを減らせることが期待できるのです。結果的に従業員は仕事や組織に積極的にかかわり、良好なパフォーマンスを有し、組織全体の活性化につながるのです。

Merit4 人材の確保・定着

現在、日本においては雇用の変化による流動性が、離職率につながっていると言われています。特に、20代までは、離職率が全年齢の平均より高い傾向にあります。

従業員の離職によって、企業は教育や採用のコストが無駄になることや、企業のノウハウが蓄積せずカルチャーを醸成しにくくなってしまい、大きな痛手を受けることになります。

これらの影響を低減し、従業員の定着を図るために、健康経営の推進が有用です。それにより従業員は「自分たちのことを大切にしてくれる会社である」と認識し、企業へのエンゲージメントも向上するからです。

 健康経営銘柄と健康優良法人認定制度とは?

経済産業省等が設計した表彰制度が、健康経営銘柄と健康経営優良法人認定制度です。

健康経営優良法人認定制度について:地域課題に即した取り組みや日本健康会議が進める健康増進の取り組みを元に、特に優良な健康経営を実践している法人を検証する制度。

健康経営銘柄について:東京証券取引所の上場会社の中から「健康経営」に優れた企業を選定し、長期的な視点からの企業価値の向上を重視する投資家にとって魅力ある企業として紹介をすることを通じ、企業による「健康経営」の取り組みを促進することを目指すもの。経済産業省が東京証券取引所と共同で取り組んでいます。健康経営銘柄に選定されるためには、毎年8月から10月ごろに行われる健康経営度調査に参加し、回答しなければなりません。認定されることで得られるメリットとしては、投資家から注目される要素となり、株価上昇が期待されること、また企業イメージの向上による人材採用へのメリットなどが期待できます。

 健康経営優良法人認定制度の取得について

健康経営は全国的に広がりを見せています。それに伴い、「健康経営優良法人制度」について、その認定を受けようとする企業も増加しています。取引先企業や金融機関、就職者からみても「従業員の健康管理を経営的な視点で考え戦略的に取り組んでいる企業」と社会的評価を受けやすいということが背景にあります。

その申請数、認定数ともに毎年右肩上がりで、健康経営優良法人2023のデータを参照すると、中規模法人部門の申請数は1万4430社(そのうち、ブライト500の申請数は3274社)と、前年に比べ1581社増えています。また、2022年度から経済産業省主導だった運営事務局を日本経済新聞社へ委託したことにより、これまで無料だった申請料が有料になりましたが、それでも申請する企業の数は減らず、むしろ増加傾向にあります。

また、健康経営優良法人とは別に、日本健康会議が全国健康保険協会(協会けんぽ)と一緒に進めている「健康宣言企業」という枠組みでは、宣言企業は2022年現在12万3000社に増えており、着実に健康経営に取り組む中小企業が増えています。

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 健康経営は「何をやるか」よりも
「何のためにやるか」

どの会社にも、自分たちがどう在りたいかを示した「理念」があります。経営は、その理念を実現するための手段ですので、健康経営もその理念の実現に近づくための手段にならなければなりません。

理念を実現し、現在抱える経営課題の解決にもつなげていく。そのための健康経営なので、大事なのは「何をやるか」よりも「何のためにやるか」なのです。

健康経営は、取り入れることで会社にも多くのメリットがありますが、中長期的な取り組みでもあります。すべての会社に必要であるようにも思えますが、そうでないこともあるのです。それは健康経営が、目的ではなく手段だからです。健康経営意外に理念を実現する方法があれば、それでもいいのです。

 しっかり健康経営に取り組んでいる企業の見分け方

健康経営には、株価の向上、生産性の向上、離職率の低下、採用力強化など、様々な副次的効果があるといわれます。実際その効果を期待して、健康経営に関心を持ったり、取り組みを始めたりする企業が年々増えています。会社研究をする際には、その会社が目的を持って取り組んでいるか、形だけで取り組んでいるのかを見極めないといけません。

とはいえ、これはなかなか難しいものです。どの会社も「いいこと」だけを話すので、会社案内を見ても、なにがいいのかがよくわからないとおもいます。ではどうすればいいのか。

それは「一次情報にあたること」です。一番いいのは、その会社の説明会に参加して、直接質問をしてみることです。その会社が発行している会社案内、ホームページなどから会社のメッセージを読み取り、疑問に思ったことや確認したいことをぶつけてみるのです。これを複数社で試してみると、違いがよくわかります。形だけでやっているところと、本気でやっているところの差はどんどん開いているので、一目瞭然となるでしょう。

 日本の健康経営は今後どうなるのか

現在内閣には、2014年に成立した健康・医療戦略推進法に基づき、健康・医療戦略推進本部が設置されています。その本部長は内閣総理大臣です。つまり国民の健康は、国の重要課題に位置づけられているというわけです。経済産業省が推進する健康経営も、国の数ある戦略の一つであることから、今後も国を挙げて取り組みが進むものと思われます。

こうした背景には、急速に進む少子高齢化があります。何も対策をしないままでは日本経済そのものが立ちいかなくなるおそれもあります。社会保障の負担が増えることも懸念されます。支えられる高齢者が増え、支える現役世代が減る。そこで現役世代に不健康な人が増えれば、支える人の負担はさらに増えることになります。国が企業の健康経営を推進する第一の目的は、企業業績の向上ですが、その二次的な効果として、国民の健康的な生活が付いてきます。

日本が財政危機を乗り越えるためには必要なことなので、国は引き続き健康経営推進の取り組みを続けるでしょう。続かなければ、国家財政が破綻しかねないほど重要な取り組みで、これは中長期的に続くものと思われます。

会社選びの軸に何を持ってくるかは人それぞれですが、健康経営を軸に見ていけば、会社が中長期的にどう進んでいくかも同時に見えてくるはずです。

 これからの健康経営

健康経営の本質は、人々の関係性、心と心のつながりをいかによくしていくかということです。この関係性がないまま何かをやろうとしても、その人の負担になるだけです。うつ病になってしまうケースやさまざまなハラスメントなど、現代は企業の中にも多くの問題がありますが、それは人々の関係性が壊れているために起こっていることだと考えられます。

健康経営で人間同士の関係性を取り戻すことができれば、コミュニケーションが活発化し、チームワークもよくなり、組織としての生産性が上がります。困っている人がいれば助け合う空気も生まれ、多くの人が幸せや生きがいを感じられる社会になります。

一人ひとりが人間のつながりを意識し、日本の将来を良くしていくための行動を起こしていくことが重要なのです。

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