2023.11.20

アイディールリーダーズ株式会社|社員が幸せに働く組織の作り方 ~個人と企業のパーパスが社会を変える~

【プロフィール】
丹羽真理(にわ・まり)
Ideal Leaders 株式会社 共同創業者 / CHO (Chief Happiness Officer) 。国際基督教大学卒業、University of Sussex 大学院にてMSc 取得後、2007年に株式会社野村総合研究所に入社。民間企業及び公共セクター向けのコンサルタントとして活動後、エグゼクティブコーチングと戦略コンサルティングを融合した新規事業IDELEA(イデリア)に参画。2015 年4 月、Ideal Leaders 株式会社を設立し、CHO (Chief Happiness Officer) に就任。社員のハピネス向上をミッションとするリーダー「CHO」を日本で広めることを目指している。経営者やビジネスリーダー向けのエグゼクティブコーチング、Purpose を再構築するプロジェクト等の実績多数。特定非営利活動法人ACE の理事も務める。著書に『パーパス・マネジメント-社員の幸せを大切にする経営』(クロスメディア・パブリッシング)がある。

その企業は「なぜ」存在するのか?私たちは何のために仕事をしているのか。立ち返るために、「パーパス」は存在している。

2020年、世界的に流行したCOVID-19の影響で、企業は大きな変化を余儀なくされた。私たちの働き方についても、コロナ禍によるリモートワークなどの在宅勤務が推奨され、改めて“働く事”や“企業”という存在を考える機会になった。

パーパスという、言葉で組織や個人の社会的存在意義を表現することで、組織と個人の幸せにつながっていくという。

社員が幸せに働き、さらに企業が成長する好循環をどう作っていくのか。また、なぜ今、個人と組織にパーパスが必要なのだろうか。Ideal Leaders株式会社のCHO(Chief Happiness Officer)である丹羽真理さんにお話を聞いた。

パーパスが今組織と個人に必要な理由

―― パーパスが、今の時代に必要とされている背景を教えていただけますか。

丹羽  一言でいうと、世の中が変わってきていると思います。

例えば、消費者の消費行動が変わってきています。少し値段が高くても、よりサステナブルなもの、ストーリーがある商品を選んで購入するというような傾向が出てきています。企業がストーリー性のあるメッセージを発信することは、消費者が購入するモノを選ぶ際、とても大事な要素になっているんです。

また、労働市場や働き手の価値観に変化が起こっています。求職者が会社を選ぶときには、会社のパーパスの内容や、何のためにこの会社があるのか、なぜその仕事をするのかということを重視します。特に若い世代に増えていると言われています。お給料が高いことや、何となく会社が成長しそうだからということより、仕事のやりがいや会社の社会的意義などを求める人たちが増えているんです。

私は企業に既に在籍している社員の方々も、自身が何のために仕事をしているかということを考えることはとても大事だと思っています。石の上にも3年という言葉がありますが、昔は10年、20年勤め続けていれば、それで良かったのかもしれません。当時の企業は昇格やボーナスなどをインセンティブとして、社員のモチベーションを上げてきたと思います。しかし今は、社員のエンゲージメントと、モチベーションを高めるために、インセンティブを与えるという手段は時代と共に有効性が低下してきていると感じます。

―― 知人が55歳で自身がやりたい仕事をするために独立しました。個人が仕事を通じて社会に貢献したいという想いが強くなっている時代ともいえるのでしょうか。

丹羽  そうだと思います。今は転職や独立が容易にできる社会環境にあるので、働きたいスタイルに対しての自身の考えが発露しやすかったり、会社を離れることに対して躊躇しなかったりすることはあると思います。どのように働くことが、個人のモチベーションを高めるのか?という話だと思います。

その独立された方も、もしかしたら昔から独立したいという想いを内に秘めていた人だったかもしれないですよね。昔の感覚だと、無理だということで蓋をしていたかもしれません。

パーパスは組織と個人の魅力を引き出す

―― パーパスを取り入れることでどんなメリットがあるのでしょうか。

丹羽  例えばパーパスを策定しても売り上げにつながらないのではないか、というのは全くの誤解があります。パーパスを掲げることで、利益も上げながら経営することができるんです。

パーパスを経営に取り入れている企業は、大手の企業様の方がまだ多いなという印象はあります。とはいえ、中小企業は不要なのかというとそうではありません。今は地方の中小企業こそ人材が不足していますが、パーパスを掲げることで、働き手にとって魅力がある会社だということが発信することができます。そうすることで、「こんな会社だったら働きたい」という人も出てくるかもしれないですよね。パーパスを掲げることは、事業にとっても、より良いメリットがあると考えています。

必ずどの会社でもパーパスを掲げなければいけないかというとそうでもなく、パーパスを策定するかどうかは会社の選択なので、いろんな会社があっていいと思います。

―― 個人のパーパスを追求することは、どのような変化をもたらすのでしょうか。

丹羽  個人のパーパスというのも、「あなたは何のために生きていますか」という問いなので、ほとんどの人は急に聞かれたとしても応えられないと思います。私が考える個人のパーパスを追求する意味ですが、何となく働いているという状態でも、本人がそれに納得しているのであればそれは良いことだと思うんです。

とはいえ、その人が仕事に対して本当に自分のやりたいことに沿っているなという感覚を持てると、本人としても楽しく働けると思います。仕事のなかに、自分が大切にしていることや自分がやりたいこととの小さな接点を見出せると、日々の充実度合いや、仕事のパフォーマンスも変わってくると思います。

仕事をしていくなかで、個人のパーパスに立ち返る。「個人のパーパス」と言ってしまうと壮大なので、例えば自分が何を大切にしているのかという価値観や、どんなことやりたいと思っていたかということを思い出すだけでもいいと思います。

自分のなかに考え方の軸がないと、会社のパーパスの自分にとっての善し悪しがわからないとなったり、会社のパーパスに共感できるかどうか聞かれたとしても、考えが及ばなかったりというようになってしまうので、個人の考え方の軸を持つことが大事だと考えています。

パーパス経営を先進的に取り組んでいる企業の具体例

―― たくさんの企業があるなかで、パーパス経営を先進的に実践されている企業はどんな企業がありますか。

丹羽  味の素株式会社のASV経営の取り組みは先進的ですね。味の素はASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)を掲げています。ASVによる価値創出に不可欠な従業員エンゲージメント(ASV自分ごと化)を高めるマネジメントサイクルに取り組み、各プロセスのなかで、様々な施策を展開しています。同社のサステナブルな成長を実現するための戦略的な取り組みです。

例えば「ASVアワード」といって、革新性、独創性のある事業活動を通じて社会価値と経済価値を共創した取り組みを表彰することを行っています。また、ASVの実行実現プロセスを明確にして、社員のエンゲージメント向上につなげていることも先進的だと思います。

同社には、『パーパス経営』という著書を出されている、名和高司先生が社外取締役に入っていらっしゃいました。今は味の素をもう退任されましたが、名和先生がいらっしゃったというのも多分影響していると思います。

『パーパス経営』という本を出されている元同社社外取締役の名和高司先生のお話によると、パーパスの浸透に3年ほどかかったということでした。その結果、エンゲージメントスコアやブランド価値が向上し、さらに株価が3倍となったということも仰っています。

また、ある大手保険会社は、企業のパーパスとマイパーパスの融合が会社経営には重要だと決め、マイパーパスの重要性にも着目しています。個人のパーパスを明確にして、会社のパーパスとのつながりを生み出そうというものです。

マイパーパスの活動に取り組むことに対して、なぜ会社がお金や時間といったコストをかけるのか、という話が企業側からも出てきやすいところだと思います。この企業では「人的資本のインパクトパスの可視化」に取り組んでいます。

インパクトパスとは、会社における人的資本への投資などの未実現財務価値の向上に向けた取り組みが、会社の財務価値や企業価値につながるまでの道筋を可視化したものです。マイパーパスの活動に取り組むことが、事業上での財務、非財務にどのようにつながっているのか、というところまで見える化をしているんです。そのデータによると、例えば「MYパーパスにもとづく対話」は「内発的動機にもとづくチャレンジ」を加速することなどが検証されています。

マイパーパスと、会社の方向性や仕事が重なってくると、働く人たちはワクワクするような、新しいアイデアが浮かんだりするのかもしれません。そのアイデアは会社の業績にも繋がってくるのではないかと思います。個人もやる気を持ちながら仕事に取り組むので、気の進まない仕事をすることとは違いますよね。

パーパス策定には、多くの人を巻き込むことが重要

―― 企業のパーパスが組織に浸透するまでには、ある程度の時間がかかりそうですね。

大企業ですと、企業のパーパスが組織の隅々まで浸透するまでにはかなり時間がかかります。中小企業の場合は、大企業と比較すると時間がそんなにかからず、パーパスが組織に浸透しやすい環境だと思います。

パーパスを新しく作ろう、言葉にしようという企業におすすめしている方法は、パーパスを作るためのプロセスに、できるだけ多くの方を巻き込むことです。「あのパーパスは自分も関わって作られたものだ」という人が社内に多ければ多いほどいいですね。浸透活動をしなくても、そもそも自分が関わって作られたパーパスなので組織に浸透しやすいと思います。

また、浸透プロセスで大事なことは、個人のパーパスと組織のパーパスの重なりを見出すことです。個人のパーパスというのは、本当に自分の心のなかから発露するものではないとあまり意味はありません。

パーパス浸透のプロセスの一例ですが、まずは個人のパーパスから考えてもらいます。その際、会社のパーパスが何かということは、とりあえず脇に置きましょう、会社の仕事も一旦忘れていいですとお伝えしています。自分はそもそもどんな人間だったんだろうか、というところから考えます。

そして、一人ひとりが考えたマイパーパスを起点に、会社のパーパスと重なる部分を探します。逆に会社のパーパスを起点に考えると、会社のパーパスに合わせた自分のパーパスになってしまうこともあるかもしれないので、自分のパーパスを起点に考えるんです。マイパーパスの実現のためにできることを軸に、会社でできることを考えるというのが大切だと思います。

―― 企業がパーパスを策定するとなったときは、トップダウン、ボトムアップのどちらが良い方法なのでしょうか。

丹羽  経営のトップが決めるトップダウンという方法が合っている会社もあるかもしれませんが、一部の人たちだけで作られたパーパスだと、組織への浸透が大変です。

一方で、ボトムアップというか、多くの人を巻き込んで考えることはとても良い方法だと思っています。

パーパスを策定するためのプロジェクトチームを作るのであれば、その会社の縮図となるようなメンバー編成が良いと思います。幅広い職種や年齢層の社員を集める。そういう方法で取り組むと広まりやすいと思います。パーパスを策定するための社員代表プロジェクトチームで考えるので、多くの人たちの価値観が入ってきます。

ただし、企業のパーパスを、会社の経営陣が全く知らないところで作ってしまうことは、おすすめできることではありません。

こういう会社でありたいという想いの部分で、経営者や経営陣と社員側の考えが全く違っていたらどうなるか。パーパスの言葉は採用されたけれど、パーパスの内容と、経営の中身が全く違ってしまうといったことが起こり、うまく行きません。

個人と組織が幸せに働くためには

―― 社員の幸福度やエンゲージメントを高めるために、企業はどう取り組んでいくことが望ましいのでしょうか。

丹羽  アメリカのギャラップという企業が行った国際調査で、熱意ある社員の割合が日本は2022年では5%にとどまったということでした。調査した145カ国中、日本は最も低かったそうです。日本では、熱中しているとことやりがいを感じている人がとても少ないという結果です。

私はパーパスという存在は、人が幸せに働くための大事な要素の一つだと思っています。私の著書『パーパス・マネジメント』にも書かせていただいているのですが、「Purpose(パーパス)」、「Authenticity(自分らしさ)」、「Relationship(関係性)」、「Wellness(心身の健康)」が仕事における幸せの四つの要素です。

「Purpose(パーパス)」とは自分のパーパスを持っていて、会社のパーパスとのつながりや重なりが見いだせることです。「Authenticity(自分らしさ)」は自分らしく仕事が行えること。また、仕事の進め方に自由度があって、ある程度のコントロール権があること。「Relationship(関係性)」は、周囲との良い人間関係を築き、協力して働けること。そして「Wellness(心身の健康)」は心身の健康です。

コロナであったり、気候変動であったり、社会の大きな変化が私たちの働き方にも変革をもたらしていると感じます。コロナは大きなきっかけで、緊急事態宣言で閉じこもっていなければいけなかったときは、皆さん時間がありました。そこで、なんのために働いているのかを考えた人も多かったと思います。出社ができなくなり急に在宅でパソコンにむかっているだけになってしまった。会社に所属をして仕事をしているという感覚が薄れている感じもあったと思います。

コロナ禍で、先ほどの幸せの4つの要素だと、「Authenticity(自分らしさ)」は上がっていたと思います。在宅勤務を含めて、働き方に自由度が増した人も増えました。それはとても良かったと感じています。

一方で「Relationship(関係性)」が下がってしまいました。会社に出社しなくなってしまったことで、社内でも知らない人が多くなってしまったというケースが多くあったと思います。新入社員で言えば、入社してから一度も社内の人と会っていません、という会社もありました。

対面でのコミュニケーションが少なくなってしまったことで、上司の方がどうやってマネジメントしたらいいのかという課題もありました。

コロナがあり、「Purpose(パーパス)」について再考する人が増え、「Authenticity(自分らしさ)」が上がった。その反作用として「Relationship(関係性)」が下がった様子が見受けられます。

最近はこれらのバランスを戻そうという動きも出てきています。出社をすることや、対面で集まることは大事だというような。とはいえ、「Authenticity(自分らしさ)」のすべてが完全にコロナ前のようになるかというとそうでもありません。

―― 御社はこれからパーパスという概念をどのように広めていくお考えをお持ちでしょうか。

丹羽  今、パーパスという言葉が流行っているので、うちの会社もパーパスをつくった方がいいのではないか、という企業も増えていると思います。言葉だけを作って終わり、といったケースもあるかもしれません。そうではなく、パーパスの本質を知ること、そして作ることの意味の大切さを、私たちはこれからも伝えていきたいと思います。