赤ちゃんとお母さん向け商品で長年にわたって、多くの人から支持されているピジョン株式会社。経営理念に「愛」を掲げ、一貫してこの世界をもっと赤ちゃんにやさしい場所にするために事業を展開している。同社が目指す未来は、SDGsが掲げるゴールと同じ方向を向いている。
「愛」を「経営理念」に世界各国で事業展開
ピジョンは現在、世界約70か国にベビー・ママ関連用品を販売しています。日本国内でシェア約85%を占めるまでに成長した哺乳器のほか、さく乳器やスキン・オーラルのケア製品、母乳関連製品の販売などを中心に、中国、アジア、中東、北米など、各エリアに合わせた事業を展開しています。
また、ベビー用品で培ったピジョンブランドのもと、日本では、ヘルスケア・介護事業や子育て支援事業も行っています。
当社は設立以来、経営理念に「愛」を掲げ、そして、当社のパーパス(存在意義)として、「赤ちゃんをいつも真に見つめ続け、この世界をもっと赤ちゃんにやさしい場所にします」と定め、製品やサービスを提供してきました。
赤ちゃんは一人ひとりそれぞれ違った個性を持って生まれてきます。「赤ちゃんのため」にこだわり続けてきたピジョンは、すべての赤ちゃんが生まれ持った輝きを育める世界を築いていくことは当然の使命だと考えています。これは、SDGsが目指している「誰一人取り残さない」ゴールと同じ方向を向いているといえます。
すべての赤ちゃんに健康と福祉を
世界では、毎年約2000万人以上の赤ちゃんが2500g未満の低体重で生まれています。低出生体重で生まれた赤ちゃんは飲む力が弱い場合もあり、自分の力だけでおっぱいを飲むのが困難なことがあります。
ピジョンは、そんな赤ちゃんの体に負担をかけず、吸う力が弱くても哺乳ができるよう「弱吸啜(きゅうてつ)用乳首」を開発し、世界中の赤ちゃんに届けています。ピジョンでは、こうした専門的なケアが必要な赤ちゃん一人ひとりの健やかな成長を支援する取り組みを「ちいさな産声サポートプロジェクト」と名付け、各国で展開しています。
NICUにいる赤ちゃんの健やかな成長はもちろん、ママやご家族がより安心し、より幸せを実感できるような商品を開発していくことは、当社の社会的責任だと考えています。「弱吸啜用乳首」の開発・販売はその1つですが、2019年には早産や低出生体重の赤ちゃんのNICUでの処置中の緩和ケア対策用の早期産児おしゃぶり「PreemieCare(プリーミーケア)」を開発しました。
早産や低出生体重の赤ちゃんは吸着・吸啜に必要な筋力が弱く、おしゃぶりを保持するのも困難です。そこで、こうした赤ちゃんでもより負担なく吸い続けられるよう独自の工夫を盛り込んだ製品を生み出し、多くの病院に提案をしています。
また、商品の開発にとどまらず、2020年9月1日には、本社の1階に、早産や低出生体重の赤ちゃんのためにドナーミルクの提供を行う「日本橋母乳バンク」の開設を支援しました。
日本国内で二つ目となる国内最大規模の施設で、民間企業が全面的に開設をサポートしたのははじめてです。処理能力が高い低温殺菌機を導入したことで、年間2000リットルの母乳を処理することができ、年間約600名の赤ちゃんへのドナーミルク提供が可能となりました。
母乳バンクを社内に開設することになったのは、社長の北澤憲政が2018年にブラジルの母乳バンクを訪れたことがきっかけでした。日本ではドナーミルクの認知度がまだ低く、母乳バンクの施設も不足していることに疑問を持った北澤が、一人でも多くの赤ちゃんを救うためにピジョンにもできることがあるはずだと社内プロジェクトを立ち上げ、早いスピードで母乳バンク開設を実現させました。
この産官学一体の母乳バンクは海外でも類を見ない取り組みとして注目されています。SDGsの目標「パートナーシップで目標を達成しよう」の達成にも貢献していると考えています。
伝統と信頼を礎にした新しい挑戦も
母乳バンクの設立は、SDGsの「すべての人に福祉と健康を」の達成に大きく寄与していますが、ほかにも8つ目の「働きがいも経済成長も」の達成にも貢献しました。社内に設置したことで、あらためて自社の強みやパーパスを実感した社員が多くいたのです。
社会的意義の大きな仕事に関わっているという意識は、一人ひとりの仕事へのモチベーションを高め、結果として業績向上にもつながると考えています。
SDGsは「自分ごと」化するのが難しいといわれています。企業として母乳バンクに寄付金を出したというだけではまだ「自分ごと」にするのは難しいかもしれませんが、こうした施設がピジョンの社屋にあることで「どこか遠くの世界の話」ではなく「自分にも関係ある問題」としてとらえることができていると感じています。
2020年5月から社内イントラのリニューアルを行い、世界中のピジョングループの社員たちのに関わる取り組みなどが動画や記事で見られるようになりました。こうしたSDGs関連の記事は反響が大きく、「自分の部署にも採り入れたい」という感想や、「自分の部署の活動も紹介してほしい」というリクエストが寄せられるなど、コミュニケーション活性化にも役立っています。
育児用品で培った「安全・安心・信頼」のピジョンブランドは今後も守っていかなくてはいけませんが、それだけでは持続可能な企業成長は果たせません。当社では、いま世界的に注目を集めているベビーテック(Babytech)製品の開発にも積極的に取り組んでいます。
ベビーテックとは、赤ちゃんの健やかな成長サポートと、育児に関わる方々の負担を軽減するITサービスの総称です。海外では、スマホと連動するチャイルドシートやスマート玩具などがすでに販売されていますが、当社は国産ベビーテック製品の先駆けとして、2018年8月に専用スマホアプリと連動する電動さく乳器を発売しました。
将来的には、アプリから読み取れるデータを活用し、育児分野でのDX(デジタルトランスフォーメーション)も視野に入れています。SDGsの推進にはトップの強い意志も重要です。当社では社長自らが陣頭指揮を執って母乳バンクをオープンさせるなど、SDGsの推進に強くコミットしているため、社員が一丸となってSDGsの目標達成に向かう基盤が整っています。
従業員のすべての活動の基本となる考え方である「PigeonWay」に則り、パーパスとブランドプロミスをしっかりと意識しながら活動することで、今後も社会課題の解決に寄与するサービスや商品を生み出していきます。
『こんな会社で働きたい SDGs編』より転載。
ピジョン株式会社 取材日:2020年11月13日 設立:1957年8月 事業内容:育児・マタニティ・女性ケア・ホームヘルスケア・介護用品等の製造、 販売および輸出入、ならびに保育事業 資本金:51億9959万円 売上高:[連結]1000億1700万円(2019年12月期) 従業員:361名/グループ合計 3954名(2019年12月現在) 本社住所:〒103-8480 東京都中央区日本橋久松町4番4号 電話番号:03-3661-4200(代表) URL:https://www.pigeon.co.jp/