2024.05.22

株式会社スタートライン|「おもいやり」が紡ぐ、持続可能な社会。障害者雇用と社員教育の共通点とは

人材不足が企業の将来にとって深刻な課題となっている今、約1,160.2万人と言われる障害者の中で、民間企業に就職しているのはわずか6%程度です。

この社会課題に対応するため、1人でも多くの人が「自身の可能性に気付き、成長し、活躍しながら自分らしくいきていると実感できる社会を実現すること」というビジョンを掲げ、「可能性を可能に変える」という想いの実現に向けて未来につながる数々の事業を展開している「スタートライン」。その成長の背景には「おもいやり」の心がありました。スタートラインは「おもいやり」という言葉を独自に「可能性を見つけ出す観察力、未来を描く想像力、形にする行動力、可能性を可能に変えていく技術力、そして関わる責任。」と定義しています。

人事総務部長の江森智之氏は語ります。「障害者雇用と社員教育に共通して必要なものは、人と人とが関わる中で生まれるおもいやりと、それぞれが社会での存在意義を感じられる環境づくり。多様性を受け入れ、あらゆる人が新しいキャリアと生き方を開拓する時代、人へのこだわりがこれからの時代を切り開くきっかけになる」。

世の中を変える可能性を秘めたスタートラインの事業と、そこに込められた想いについて、お話を聞きました。

江森 智之氏
人事総務部長

障害者雇用支援は、「可能性を広げる」支援

私たちの会社は、障害者雇用支援という事業を始めて、今年で創業15年を迎えました。

国は障害者雇用促進法を制定し、企業に障害者の雇用率を定め、その達成を義務としています。しかし、日本における障害者雇用は、まだまだ国が求める雇用率には満たないという現状があります。この背景には、企業側が障害者をどのように雇用していいのかわからないという問題点もあります。

2009年の創業当時、障害のある方が働く上で困難な問題がさまざまにありました。例えば、当時「働く」となると出社するのが一般的で、多くの人が満員電車での通勤を余儀なくされていました。特に身体に障害のある方にとっては、このような通勤方法は大きな困難を伴います。そこで私たちは、通勤の概念を見直し、地元で働ける環境を作ることによって、障害者雇用を促進する事業を始めました。この取り組みが、当社創業のきっかけとなりました。

私たちは、必要とされる場所には、そこに合った人を、働きたい人々には、その人に合った環境を提供することで、企業、障害者、そして社会全体にとって、より良い未来を創造することを目指しています。障害者雇用支援を「可能性を広げる」支援と捉え、日々新しい取り組みを試行錯誤しています。

「可能性」を「可能」にするという体験の共有

創業から15年間、私たちは企業、社員、そして障害のある方々の多様な声を聞き、さまざまな課題解決に取り組んできました。その過程で、社会の課題やニーズに応える新しいビジネスモデルを模索し続けています。

その一例が、天候に左右されずに作物を栽培し、二次加工までを行う「屋内農園型障害者雇用支援サービスIBUKI」です。このサービスは、障害のある方々が社会で活躍できる環境を提供したいという想いから生まれました。もともと、障害のある方々が野菜を栽培するという事業はありました。しかし、農業での特性上、種まきや水やりを終えると手が空いてしまい、季節や天候によっては、活動に制限がされるという課題がありました。このような状況では、安定した雇用を提供することも、スキルアップを促すことも難しいと感じていました。

そこで着目したのがハーブです。「IBUKI」では企業が雇用している障害のある方々が、ハーブを栽培し、施設内でハーブティーに加工して企業に納品しています。栽培から加工、ハーブティーの製造までの一連の工程として1日の作業を組み立てれば、日々の仕事を充実させることができます。企業はハーブティーという成果物を、事業活動に活用しており、営業や採用活動のノベルティ、福利厚生として社員に振舞われたりしています。これによって、障害のある方々には企業への直接雇用の機会が生まれ、安定した雇用とやりがいがもたらされています。

この事業は、珈琲を作る「ロースタリー型障害者雇用支援サービスBYSN」という新しい試みへと発展しました。きっかけは、社員や企業担当者との何気ないやりとりでした。「ハーブティーもいいですが、コーヒーならほとんどの人がよく飲みますよね」「仕事中においしいコーヒーを飲みたいですよね」という声が新しい発想を生み出したのです。

通常、市場に出回っているコーヒー豆の中には、欠点豆が混在し質が揃っておらず、雑味やエグ味につながっています。障害のある方々が豆の選別作業を担うことで、より良質なコーヒーを提供できると考えました。

このアイデアはさらに発展し、障害のある方がブレンダーやバリスタといった専門的な職種にも挑戦できる仕組みを作り、活躍できるよう支援しています。将来的には、障害のある方がバリスタの大会でチャンピオンになり、提携する企業内で「世界チャンピオンが淹れたコーヒーです」と提供していただけるようになることを想い描いています。

社員のアイデアを企業が形にし、企業のビジョンを社員が具現化することにより、障害のある方々の可能性が広がっていると感じています。私たちは、社員も障害のある方も、可能性という目に見えないものを自分の力で具現化していると感じて欲しい。「可能性を可能にする」ための場がここに存在すると実感しながら働いてほしいと願って、事業に取り組んでいます。

「自分をおもいやり、人をおもいやり、その先をおもいやる。」

当社で次々と新しいアイデアが生まれる背景には、どんな意見も否定しない文化があります。これは、障害者雇用支援事業を通じて学んできた重要な教訓です。

私たちが企業活動において最も重視しているのは、「誰と何をするか」です。特に、仕事への熱意や意欲を大切にしています。共感できる目標に向かい、情熱を持って取り組む人が集まることで、新しいアイデアや価値が生み出されます。私たち人事総務部は、そのようなビジョンを共有し、情熱を表現できる場を提供する役割を担っています。楽しい体験を提供するには、提供者自身が最も楽しむ必要があると言われます。当社の社員にも、働く中で自分自身の可能性に気づき、成長し、活躍してほしいと願っています。未経験者や中途採用者でも、私たちの想いに共感し、挑戦したいという想いがあれば、年齢や性別に関わらず積極的に採用しています。

当社では、仕事を通じて、「自分らしく生きる」ことを実感できるよう、多様なキャリアの選択肢と挑戦を支援する環境を整えています。障害者雇用支援事業だけでなく、コンサルティングや福祉事業などを通じた就労支援など幅広く事業を展開しており、社員はその中から自分に合ったキャリアパスを想い描くことができます。

キャリア形成としては3つの選択肢があります。管理職、支援のスペシャリストやマーケティングなどのスキルを活かして働く専門職、そしてコーポレート部門です。社員が複数の職種を経験できるようジョブローテーションの制度を導入しています。年に1度キャリア面談を行い、実現したい未来や希望をキャリア開発担当者と対話し、共に考えることで社員の可能性をサポートしています。

ただ、このような取り組みの中でも、一部からはなかなか希望の部署への異動が難しいという声が挙がっていました。そこで今期、社内公募制度を導入し、自分で手を挙げてアピールすることで希望の部署へ異動できるというルートを作りました。制度を導入して1年足らずですが、社内公募制度を利用して、すでに複数名異動が実現しています。

さらに、資格取得支援やeラーニングのコンテンツなど、自分で積極的に学べるためのリソースを提供しています。社員が新しい支援技術を学び、様々なキャリアの可能性を探ることができるよう、今後も継続的に教育システムを取り入れていく予定です。

私たちの事業では、関わる人をおもいやる気持ちが何よりも大切です。そのおもいやりを体現するためにも、自社で働く社員が自分自身へのおもいやりを大切にしてほしいと考えています。そこで、人事では、個人の意欲に応じて多彩なキャリアを描ける環境を整え、社員ひとりひとりが仕事を通じて自分のやりたいことを実現できるようサポートをしています。この取り組みは「自分をおもいやり、人をおもいやり、その先をおもいやる。」という私たちの企業理念と深くつながると感じています。

自社独自の支援技術を社会貢献に発展させる

事業の成長とともに、私たちの会社の姿も変わり続けています。創業時の企業理念は「関わるすべての人に働く喜びを」でした。それが、事業の展開を進める中で新たな考え方へと進化しました。その変化は、主に二つの考え方に基づいています。

1つ目は、元の企業理念にあった、「働く」という部分の捉え直しです。この言葉には「障害のある方が働くことを支援する」という意味を持たせていました。それが時代の流れと共に幅広い分野に事業を拡大していく可能性が見えてきたのです。

その取り組みの例として、リワーク事業を2023年3月から始めました。この新事業は、メンタルヘルスの問題で休職を余儀なくされた方が、復職後もスムーズに職場に戻れるよう支援するものです。

もう1つの理由は、「関わるすべての人に」というところです。直接関わらない人々にも、何らかの形で喜びを提供できないかという問いがありました。

この面では、支援技術の習得を目的とした自社オリジナルのプログラムを発展させ、将来的に公的な資格にすることを目指しています。公認心理師や臨床心理士、精神保健福祉士のような資格は、学習に長い時間がかかり大変です。私たちの資格は、働きながらでも取りやすいものにしたいと考えています。支援技術について勉強すること、またその人が障害のある方への支援を実践することで、より多くの人に喜びを提供できるはずです。

この取り組みを進める背景には、社員との対話がありました。身近な家族や友人から相談を受ける機会が増え、プライベートな時間にも職場で培った支援技術を活用して人の役に立てるようになったという声が寄せられるようになったのです。まさに、私たちの企業理念にある「おもいやり」の輪が広がっていると感じました。

この支援技術を知ってもらうために、まずは、社内でしっかりと実績をつくり、社内で資格を取得した人材の活躍する機会を多く創出していきたいと考えています。スタートラインで培った支援技術を社会で活かし、より多くの人々に「おもいやりの輪」を広げてほしいと願っています。

「障害者雇用が当たり前の世の中」を実現するために

私たちは、世の中にまだ存在しない価値を切り開くビジネスに取り組んでいます。

かつて、女性の就職や管理職への道は男性に比べて困難でしたが、今では女性が働くことが一般的になりました。このような変化は、女性の雇用問題が社会に受け入れられたことの象徴です。私たちは、この変化を障害者雇用にも拡げるべく挑戦しています。30年、40年経って振り返った時に、「私たちの活動によって、障害者雇用が当たり前のものになった」といえる未来を目指しています。

先日、長年働いている社員から「長くやればやっていくほど、そこの過程に長く携わるというところの面白さがある」という想いを聞くことができました。私自身も深く共感しています。時代の変化に立ち会えるというところがやりがいであり、自分が世の中の存在意義を持てるような仕事として社員一同誇りを持って取り組んでいます。時代の流れと共に変わっていく課題に対して、私たちは社員の声に耳を傾け、社会全体に目を向けることで、世の中にプラスの影響力を持ち続けたいと考えています。

私たちは、障害のある方々へのサポートに必要となる支援技術・知識を社員に伝えています。この教育プログラムで重視していることのひとつに、「セルフコンパッション」という考え方があります。つまり、他者をおもいやるように、自分自身のことを大切におもうということです。セルフコンパッションを高めることは、自分だけでなく周りの人々の幸福にも繋がります。この知識を広めることで、幸福の輪を拡大し、争いのない未来の創造、さらにはコロナ以降の問題となっている自殺予防にも貢献したいと考えています。

私たちのこの想いを多くの人に伝え、ビジョンに共感してもらうことで、平和な世の中の実現につながっていくと感じています。

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