株式会社タニタ|タニタの健康経営に迫る!!

株式会社タニタ
CHO(健康管理最高責任者)
兼 経営戦略本部長
丹羽隆史

体組成計や活動量計など、さまざまな健康計測機器の製造・販売を行う株式会社タニタ。「健康習慣」によって誰もが幸せになる社会を目指して、食堂の経営や健康トータルサービスなどの事業も手がけている。「日本を健康にする」ための取り組みや今後のビジョンついて、話を聞いた。

働き方革命でめざす健康経営

2017年にスタートした「日本活性化プロジェクト」は、タニタオリジナルの働き方改革です。このプロジェクトに参加を表明した社員は、一旦タニタを退職し、新たに個人事業主として業務委託契約を結び、当社で働きながら仕事の領域を広げています。
同プロジェクトは、社員全員に個人事業主になることを強制するものではありません。あくまで希望制で、しかも決して人件費削減やリストラのための手段ではありません。

「日本活性化プロジェクト」は、いわば「会社員」と「フリーランス」のいいとこ取りを社員が選択できる仕組みです。「会社員」という枠組みから外れることで、働く場所や時間にとらわれず、自分で主体性を持って働き方や人生を選ぶことができると考えています。

主体性はモチベーション向上に大きく影響します。仕事へのやりがいや情熱が湧き、長時間働いても苦に感じません。しかし、やらされていると感じたり、義務感でやったりする仕事は、たちまちストレスが溜まり、メンタルを病む原因にもなりかねません。

いまや日本は、従来のような終身雇用が前提ではありません。むしろ、就職活動をしている学生の7割が将来の転職を考えているという時代です。従って、これからのビジネスパーソンは、成長のための自己投資が不可欠だといえます。

弊社の活性化プロジェクトの仕組みを使って個人事業主に移行したメンバーは、成長のために自己投資を行い、やりがいを持って自ら仕事をつくり出しています。本プロジェクトでは、個人事業主として独立した後も引き続きタニタの業務に関わってもらうことを大前提としていますが、メンバーがより主体的にいきいきと働けるようになることで、仕事の能力が高まって人脈が広がり、結果として
タニタの成長や発展につながるとみています。

他方、「健康経営」は、経営のトップである社長と従業員が「健康」を介しながら心のコミュニケーションを取るエンゲージメント経営です。従業員やパートナーが健康に働き、人生に喜びを感じてもらうことが、会社の生産性や成長につながると捉えています。

このように、「健康経営」と「日本活性化プロジェクト」はどちらも企業の成長に欠かせないものであり、タニタではこの「日本活性化プロジェクト」と「健康経営」を両輪として、ビジネスを展開しています。

「日本活性化プロジェクト」と名付けた理由

「タニタ活性化プロジェクト」ではなく、「日本活性化プロジェクト」と名付けたのには、2つの理由があります。

1つは社長の谷田千里が抱いていた危機感です。2019年4月から「働き方改革関連法」施行に伴い、罰則つきの残業規制がスタートしました。これにより、「働き方改革=残業削減」と捉えられることが多くなりました。しかし、長時間労働の是正や残業規制のみにフォーカスした「改革」を進めても、日本は活性化しないのではないかと、谷田はずっと考えていました。

もちろん、過労死を招くような長時間労働は絶対になくすべきです。しかし、日本中の企業が1日きっかり8時間に労働を規制すれば、働く人がみな幸せになれるか、というのは甚だ疑問だと谷田は考えています。

少子高齢化で日本の労働人口は減り続け、生産性の低下が大きな懸念事項となっています。一人ひとりが持てる力を最大限発揮できるような環境を整え、生産性を高めていかなければ、日本経済の未来はないでしょう。単純に残業時間を削減するだけではなく、生産性向上のための取り組みが絶対に必要だという「危機感」が、理由の1つめです。

2つめの理由は、現在、150を超える企業や自治体に導入していただいている「タニタ健康プログラム」のネーミングに対する後悔です。

同プログラムは、IoTやビッグデータの先駆けともいえる健康管理サービスです。もともとは一般向けに提供していたのですがリリース時はまったく世間に受け入れられず、サービスを運営する子会社の業績は低迷していました。どこがいけないのか。その改善方法を検討するため、業務命令で社員にサービスを使わせたところ、社員の平均体重が3・6㎏、平均体脂肪率が1・7ポイント下がったのです。さらに、社内の医療費も1割近く減っているという驚きの成果を得ました。
これにより、企業の健康づくりの取り組み事例として厚生労働白書に2回紹介されたほか、2013年の厚生労働省『健康寿命をのばそう!アワード』で、最優秀賞を受賞するなど、多くの注目を集める結果となりました。そこで、この取り組みを自社だけに留めておくのはもったいないと、企業・自治体向けにパッケージ化したサービスの提供を開始したのです。

現在はさまざまな企業や自治体でご活用いただき、日本全体の医療費適正化にも貢献していますが、「タニタ」と名付けてしまったことで、プログラムの汎用性・普遍性を狭めているように感じています。

そこで、「活性化プロジェクト」では自社だけでなく、日本全体の活性化に寄与したいという願いを込めて、あえて冠に「タニタ」ではなく「日本」と名付けました。まだ多くの課題もありますが、タニタ発の「日本活性化プロジェクト」が、真に組織を活性化し、ひいては日本全体を活性化する礎になればと期待しています。

「はかること」から健康経営をスタート

タニタの健康ノウハウを結集した「タニタ健康プログラム」

弊社が健康経営を意識し始めたのは、2008年、厚生労働省が「特定健診・特定保健指導」を始めた年です。きっかけは、前述の通り、同年に社長に就任した谷田千里が、低迷していた健康管理サービスを社員に使わせたことでした。この成果を基に、社員の健康管理をサポートするための取り組みに着手しました。
当時はまだコラボヘルスという言葉もなく、健康保険組合でも予防という概念は浸透していませんでした。そこで、「食事」「運動」「休養」の三要素を「はかる」ことで可視化する「タニタ健康プログラム」という独自のプログラムをスタートさせたのです。

もともとが計測機器のメーカーだった弊社の強みを生かし、まずは体重や歩数などの活動量を「はかる」ことで自分の体の状態が「わかる」、そして健康状態に「気づく」。それにより、生活習慣や体調が「かわる」というPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルの実践を目指しました。このプログラムはトライアンドエラーで毎年少しずつ改良しており、どんどん進化しています。
2011年には、使用する歩数計を、赤外線通信タイプからフェリカ通信タイプに変更、その後は活動量計へとアップグレードしました。また、歩数を競うイベントをグループ対抗の「チーム戦」とし、上位者はネット通販に使えるギフトカードがもらえるなどのインセンティブを付与することで、参加のモチベーション向上につなげました。

こうした取り組みが評価され、2012年には「タニタ健康プログラム」導入による効果が、「平成24年版厚生労働白書」において「メタボ解消成功事例(職場編)」として紹介されました。また、2013年には健康増進や生活習慣病の予防への貢献に資する優れた取り組みを表彰する「第2回健康寿命をのばそう!アワード」において最上位の「厚生労働大臣最優秀賞」を受賞しました。
さらに、2014年には「平成26年版厚生労働白書」で、「健康寿命延伸の取り組み」として二度目の掲載。こうした社外評価が高まるにつれ、まわりの企業や自治体からも「健康経営について教えてほしい」と頼まれる機会が増えていきました。

そこで、自社で行っていた「タニタ健康プログラム」を各企業や自治体のニーズに合わせ、ソリューションとして提供していくようになったのです。

健康経営を推進する組織を構築

弊社の健康経営は専任のCHO(健康管理最高責任者)のもとで、プロジェクトチームを組成して進めています。健康経営における健康づくりは福利厚生ではなく、社員がいきいきと働き、仕事の質を向上させるための手段です。産業医や精神科医との連携はもちろん、実施施策が参加率や継続率、体組成にどのような効果をもたらしたかを科学的に検証するため、東京大学をはじめ大学の教授にも監修やアドバイスをお願いしています。

社内においては、各部門から推進員を募り、チームメンバーの計測・参加状況の把握や、励まし・声かけによるチームの健康度アップに貢献してもらっています。推進員は挙手制と指名制の2通りで選出され、毎年40名ほどが活動に参加しています。

弊社は、「健康経営銘柄2020選定企業紹介レポート」において、「健康経営を進める企業の手本となっている企業」27社にも選出されています。こうした評価は、社員の「健康総合企業」としての意識向上にもつながり、自社の健康経営推進にもよい効果をもたらしています。

2020年4月から、通信機能を備えた体組成計を全社員に貸与しています。最低でも週に一回以上は計測を行い、そのデータを会社のサーバにアップするよう促しています。これは、新型コロナウイルスの影響でテレワークが広がり、長時間自宅にこもる健康二次被害の懸念から行われた取り組みです。東日本大震災時に「生活不活発病」といわれましたが、誰ともコミュニケーションをとらない状態が肉体や精神に悪影響をもたらすというデータもあります。テレワークをしている社員の健康維持のためにも、健康への意識付けを高める取り組みを、今後も盛り込んでいく予定です。

タニタ食堂から「健康」を広げる

1食500㎉前後で満腹になる「タニタ食堂の日替わり定食

タニタの名を一気に広めた「タニタ食堂」は、もともとは社員食堂がルーツです。

社員食堂で提供されるのは、一汁三菜の日替わり定食1種類のみです。単一メニューに統一することで、「毎日ラーメン」「肉ばかり食べている」といった好き嫌いや偏りをなくすことができます。定食は1食500kcal前後で、使用する野菜は150 ~ 250g、塩分使用量3・0g以下と徹底管理されています。成人男性の場合、昼食の平均はだいたい800kcalといわれていますが、たとえばこの定食を20日間食べ続けた場合には約6000kcalが削減でき、体重1㎏分くらい痩せられる計算になります。

このように、毎回の食事を通じ、「健康的な食事」の感覚をつかむことが、タニタの社員食堂のねらいです。感覚がつかめれば家での食事や外食でも気をつけるようになり、飲み会などで一食の栄養バランスが崩れたとしても、ほかの食事で調整できるようになります。

社員食堂のレシピをまとめた書籍『体脂肪計タニタの社員食堂』(大和書房刊)がベストセラーとなったことで、タニタの社員食堂で食べたいという外部からの問合せが相次ぎました。そこで、一般の方も社員食堂のメニューが食べられる「丸の内タニタ食堂」をオープンしたのです。

100年続く製造業の弊社がサービス業に進出するのは、社内でも大きな混乱や反発がありました。そのうえ、手間暇のかかる出汁を使った薄味で、材料費の高い野菜類をふんだんに使ったメニューは原価率が高く、ビジネスとしての展開は難しいものがありました。そこで「1食あたり500kcal前後、塩分3・0g以下で満腹感を得られる」というヘルシーメニューを提供するだけでなく、プロフェッショナル仕様の体組成計を備えたスペースで管理栄養士からの無料アドバイスも受けられる「カウンセリングルーム」を設置することを考案。新しいタニタの情報発信・啓発の場として展開することにしました。

現在は、人間ドックの健診センターや学習塾など、幅広い業態と併設するケースも増えています。また、それほど健康への興味関心が高くない人がお手軽に「プチ健康メニュー」が楽しめる、「タニタカフェ」もスタートしました。「健康はそれほど敷居が高いものではない」という認識が広がり、一人でも多くの人が健康に関心を持ってくれることを目指しています。

健康経営で日本を活性化させる

タニタは「健康経営」への取り組みを全社で推進させるため、2014年に「健康づくり企業宣言」を策定しました。社員とその家族が自ら健康づくりに取り組めるような社内環境の構築やメンタルヘルス対策はもちろん、禁煙への取り組みにも力を入れています。

近年は採用面接においても、喫煙習慣の有無を確認。喫煙者は入社日までに禁煙を約束した場合のみ採用とするなど、厳しい基準を設けています。まだ社内にも数人の喫煙者がいますが、勤務時間中の喫煙禁止や禁煙プログラムの導入などを通し、社内喫煙者ゼロにするのが今年のミッションです。

社員の健康増進は、社員自身の生活を豊かにするだけでなく、企業のポテンシャルそのものを向上させるマネジメント判断です。「日本活性化プロジェクト」では、「雇用」を盾に個人を囲い込むのではなく、働く人が主体性を発揮できるように支援し、その努力に報いる企業づくりも目指しています。

現在、タニタには企業や自治体に向けた「タニタ健康プログラム」のサービス提供のほか、健康経営を推進したいという企業や、自社の事業に健康経営を生かしたいという企業からの相談も増えています。また、最近は各企業の働き方をサポートするサービスも増えはじめました。「タニタ食堂」をつくった時は、社内の反対を受けながらも結果的には「タニタ=健康」というブランディングに成功し、ビジネス拡張につながりました。今回の「日本活性化プロジェクト」は、ある意味「タニタの働き方改革のレシピ」といえるものです。タニタ社員食堂のレシピ本が浸透したように、今回のレシピも日本中のさまざまな企業でアレンジしていただき、日本の活性化にぜひ活用していただければと願っています。

株式会社タニタの採用情報はこちらから

株式会社タニタ
設立 1944年1月
取材日:2020 年6 月18 日
事業内容 家庭用・業務用計量器(体組成計、ヘルスメーター、クッキングスケール、活動量計、歩数計、塩分計、血圧計、睡眠計、タイマー、温湿度計)などの製造・販売
資本金 5,100万円
従業員数 1,200人(グループ)
住所 (本社)〒174-8630 東京都板橋区前野町1-14-2
URL https://www.tanita.co.jp/

関連記事