代表取締役社長 小方 功さん
「企業活動を効率化し便利にする」を理念に掲げ、企業間取引(BtoB)における新しいインフラを創造、提供しているラクーンホールディングス。
BtoBの卸・仕入れサイト「スーパーデリバリー」を事業の軸に、決済、保証、越境ECなど、時代に即した問屋的仕組みを考案、そのDX化を進めて地方創生にも力を注ぐ、革新的な企業です。
新しい問屋の業態は、約800年前にお手本が
当社の創業は1993年、私が前職の都市計画エンジニアを辞め、一人で輸入販売業を興したのが発端です。創業当時、とある不運で輸入品の過剰在庫を抱えた経験があり、その時に「在庫はなぜ発生するんだろう?」と考えたことが、B to Bにおける新しいインフラの創造と提供という、今の業態の原点になりました。
過剰在庫という苦い経験を経て、在庫と流通に深い関心を抱くようになったのですが、当時いろいろ調べても、在庫の問題を真剣に考えている人は一人もいない状況でした。人に尋ねても、「暗い話題で興味がないから、誰も研究していない」と、にべもない。そこで、自分で「在庫を科学する」ことを始めたんです。調べて、分析し、仮説を立てる。私が元々、理系のエンジニアで、物事を科学することが得意なことも幸いしました。
そうやって調べていくと、メーカーは「たくさん購入して返品しないのがいい小売店」と言い、小売店は「在庫をたっぷり用意して、1個単位で卸してくれるのがいいメーカー」と言う。つまり両者は利害が一致せず、在庫を押し付けあっていたんです。そこには「最大最適」ということを考える人がいなかった。私からすれば、その解決策を考えることが、やりがいのある仕事に思えたというわけです。こうして、当社の事業の軸となる、B to Bの卸・仕入れサイト「スーパーデリバリー」が誕生しました。
「スーパーデリバリー」は、アパレル・雑貨を中心とするメーカーが、卸販売したい商品をサイトに掲載、その商品を求める事業者が小ロットから仕入れをできるサービスです。事業者は通常、商品をメーカーや問屋の実店舗から仕入れますが、メーカーにとって取引実績がない事業者や小規模事業者との取引は、与信判断の手間と代金未回収のリスクを伴います。しかし「スーパーデリバリー」では、サイト側が商品の代金を回収するため、メーカーは与信管理の手間も代金未回収のリスクも回避できます。
一方、資金の少ない小売店は、通常の取引では信用が薄いと見なされ、特に最初は現金先払いとなりがちです。でも、これでは経済が発展しません。そこで「スーパーデリバリー」に、誰もが使える決済機能を持たせたのです。顔を見たことのない他人同士でも、支払いの保証をする機能があれば、真面目な人がいい商売をできるはず。そう考えたのです。
さらにインターネットを通して仕入れができれば、小売店はかつてのように、一日休んで展示会や問屋をいくつも巡って仕入れをする労力が省けます。メーカーと地方の小売店の間に物理的な距離があっても、それが小売店に不利に働くこともなくなります。
このサービスは、実は約800年前、近江の国(現在の滋賀県)の商人が始めた問屋の業態とよく似ています。
近江の商人は、例えば京都の反物を、東北などそうした商品がない地域へ持って行きました。先方の小売店ではその品を仕入れたいものの、先立つ代金がない。そこで近江商人は、「これはきっと売れるから、1カ月後にまた来ます。売れなかったら、その時は持ち帰るので」と、商品を置いていったんです。これはおそらく、史上初めての掛売りです。そして商品を自分で届ける、これは物流にあたります。つまり近江商人は、決済と物流の機能を同時に備えた初の中間流通業者だったのです。
ちなみに今、問屋という業態は衰退の一途を辿っています。しかし私は、これをインターネットで解決できると思っています。問屋の機能は、「これは新商品です」と伝える情報と、自分で運ぶ物流、そして決済の3つに分解できます。その内の物流は今、専門業者に委ねられるので、情報と決済の機能が重要になってきます。昔ながらの掛売りは、実は物理的・心情的に近い人同士でないと成立しにくい商習慣で、近代社会では実用性が乏しくなっています。当社が決済を事業化したことには、そんな背景もあるのです。
立地に依存しないビジネス機会の創出で、地方創生
ところで日本の流通の商習慣は、世界的に見れば特殊です。例えばアメリカなら、買った商品は小売業者が自ら集荷して回るのが常識ですが、日本は問屋が届けてくれます。その理由は日本の国土が縦長で海に分断されており、流通面で不利だから。昔の問屋が船を使った廻船問屋であったのは、そのためです。
現在、日本のメーカーが東名阪に集中しているのも、流通の都合上、日本の真ん中にある必要があるからです。そして商品を広く売るには、日本中に営業所を作る、あるいは遠方への営業が必要になりますが、それでは負担が増すばかり。それを解決するのがインターネットで、これは物理的距離が遠ければ遠いほど、パワーを発揮してくれます。
実際に「スーパーデリバリー」を利用する小売店の会員数は、東京・大阪以外の地域が7割を占めています。立地的に不利な地方や離島でも、都心と変わらぬ品揃えができるため、情報格差もなくなります。例えば東京・渋谷におしゃれな店があっても驚きませんが、それが離島にあったらどうでしょう? 望むなら、それが数日で実現可能になるんです。これは販路を拡大したいメーカーにとっても、大きなメリットになるはずです。
販路の拡大で言えば、当社は2015年から「SD export」という、B to B向けの越境eコマースサイトも手掛けています。これは国内に販売するのと同じくらい簡単に輸出できるサービスです。詳しくは担当者が後述しますが、貿易の手続きは複雑で、かつては中小企業が参入しにくいものでした。しかし最近では、日本の瀬戸物や漆器の作り手などからもよく相談を受け、地方創生の面からもサポートをしています。
次世代と共に事業を育み、サステナブルな未来をつくる
当社の理念は「企業活動を効率化し便利にする」ことで、機械ができることは人間が無理してやる必要はないと思っています。自動化できるところはそれを推進し、人間らしい時間をたっぷりと確保する。これからの時代は「量的」な努力ではなく「質的」な努力が求められます。誰かと会ったり、趣味を大切にしたり、こうした豊かな時間が、いいアイデアにつながっていくのです。それを社内から実践し、ほとんどの社員は午後7時には業務を終えて退社します。
今は仕事を選ぶ時代で、人生は働くためだけにあるのではない。我々は人生を楽しむために働くべきですが、仕事にも意味を求められるといいですよね。それなら、やはり世の中の役に立つ方がいい。ただ、職業に上下はないですし、一人ずつ持って生まれた違いや多様性をリスペクトする会社でありたいと思っています。そして社員が志高く、夢を語る会社であって欲しい。
そんな社員が集う会社としては、次の世代に残る事業を興したいと思います。次代に残るということは、社会の巨大なニーズと付き合うことを意味します。社会的ニーズが大きければ、それは大義という言葉になります。その時、会社は会社の規模を超えて産業になるのです。
それは周りに与える影響がとても大きいですよね。そして、自分の代では終わらないかもしれない。ですから、この事業に理解を示す人を探します。見つかれば嬉しいですから、育てますよね。そんな好循環のためにも、高い志を持つ若者と、一緒に働いていきたいと思っています。
地方創生に貢献する越境EC「SD export」の皆さんに仕事のやりがいを聞いてみました!
高いハードルをクリアして挑戦し続ける
日本から海外へ販売するにはとても高いハードルがあります。海外小売店の集客、契約書、輸出の知識、破損の対応、決済手段、裁判などになった場合のPLリスクなど様々です。SD exportはこれらを全て代行するサービスで、出展するメーカーは初期費用無料で、国内に販売するのと同じくらい簡単に海外に販売することができます。
海外販売や越境ECというとひとくくりに“海外”と思われるかもしれませんが、国によって商習慣、通貨、決済手段、言語による表現方法、売れ筋、配送手段などの全てが大きく異なります。
例えば、日本と違って配送の遅延は当たり前に発生しますし、到着した荷物が壊れていることもあります。また、配送や通関は政治や社会情勢などの外部要因に大きく左右され、法律や方針が変わるたびに通関ができない商品が発生します。サービスを運営しているとこうした様々な課題に直面しますが、最大リスクを考慮したうえで、できるだけトラブルを楽しむようにしています。
今後の目標は、日本の全てのメーカーに、海外販売する際にはSD exportを利用してもらうことです。そして、国内の市場よりも大きな市場を作りたいと考えています。そのために重要なのは各国に合わせたローカライズです。国ごとに日本と同じような市場があり、日本と同様のパワーやリソースを使わなければ拡大はしません。そのため1カ国ごとに販売量を増やし、海外全体の市場を伸ばしていきたいと考えています。
日本の良い商品を世界へ届ける
日本で作り出された良い商品を世界中に届けるお手伝いをできることが最大のモチベーションです。また、エンジニアとして、輸出で起きる現実の問題をITの力を使って解決できた瞬間が最高です。
SD exportは70万商品を超える多品目を扱っていますが、販売時は多品目の商品を少しずつ発送するケースが多く、送料が高額になってしまう問題がありました。
そこで実際に倉庫に行き確認してみると、箱数が増えるほど非効率になり、複数の商品を1つの箱に詰める工程に問題がありそうだと分かりました。品目数が増えていくと隙間が増え、箱のサイズが大きくなってしまうのです。
そこで1つの箱に詰める品目数が増えすぎないようにシステムを変更したところ、同量の出荷でも送料を抑えることに成功しました。これは効率的に配送できるようになったことの証です。システムの変更で、現実の課題を解決できたのです。
国籍も育った環境も違う、持っているスキルが違う、ラクーングループには多彩な人がいます。みんな違うなかで、お互いが働きやすいようにしていることが伝わってきます。課題は山積みですが、多彩な仲間たちと協力し、日本のメーカーの良い商品を世界中に、簡単に、そのままの魅力を伝えられるプラットフォームにしていきたいです。
ライブコマース大型イベントを実施
香港MD(マーチャンダイザー)としてデータ分析、広告プロモーション、イベント企画などを行っています。イベント企画は、需要調査をして、0から企画し実行まで行います。結果が出るまではとても大変ですが、毎回新しいことにチャレンジすることができるので、非常に楽しさを感じています。
最近の仕事では、海外から仕入れをする会員に向けて、日本企業の新商品を紹介するオンライン展示会を開催しました。ライブコマースは中華圏で流行っているので、これはSD exportの会員にも応用できるのではないかと考え企画しました。展示会は大型イベントになり、企業とのやり取りから企画の詳細決め、プロモーションのスケジュール調整、内容作成など、やらなければならないことが多く大変でしたが、無事にやりとげることができ、結果も満足できるものとなりました。
大変ですがやりがいがありますし、ワークライフバランスをとれることも、この会社のいいところだと思います。今後は世界中で「ああ、あのサービスね」と当たり前に知られていて、多くの企業に利用されている、そんな姿を実現させたいと考えています。
エシカル消費を促進して社会に貢献
私は子育て中ですが、一部のおいしいモノや美しいモノの先に児童労働が存在していることを知ったときは、とてもショックでした。時に残酷な現状を知ることで、心が重くなることもありますが、それを打開すべく作られたエシカルな商品を紹介するのはとても有意義なことだと感じています。
2021年からスーパーデリバリー内に「エシカルコレクション」特集ページを開設しました。ファッションから雑貨、食品まで、エシカルな商品を一挙に集めてご紹介しています。商品数は8,353点、メーカー企業様の数は196社です(2023年3月時点)。「フェアトレード」「支援・寄付」(寄付付き商品や支援につながる商品)「環境」(リサイクルやアップサイクルなどサスティナブル商品)「オーガニック」「ヴィーガン」のカテゴリーで商品を紹介しています。
今担当しているエシカルの分野は、環境や社会などの問題を解決していこうというテーマ性があります。エシカルな商品を販売するメーカー企業様への取材を通して、企画背景や工夫をお聞きすることもありますが、どれも興味深いことばかりです。
これからは「エシカルな商品の仕入れや情報を探すならスーパーデリバリー」となるように、商品拡充だけでなく、取材や企画を通して情報発信も大切に行っていきたいです。エシカルってよくわからない…。何から始めたらいいんだろう?と悩まないように、エシカルな商品をお店で販売する事業者様を応援するような存在になっていきたいです。
「スーパーデリバリー」で取り扱っているエシカル商品の例
社員のコミュニケーションを高めて組織力を醸成
ラクーングループは「組織力」を大事にして、コミュニケーションが自然と生まれるような環境づくりを心掛けています。
気軽に相談ができる関係性があることや、適切な人に適切な相談をできることが業務の生産性を向上させることにつながるというのはもちろん、困難や課題があった時に、「何でもできるひとり」より「いろんな能力を持っている人がたくさんいる」ほうが、組織を強くすると考えているからです。
仕事をやる以上は時に議論をぶつけ合うことや、必要な指摘をするシーンもあるので、「仲がいい」というだけでなく信頼関係ができたうえで、言いたいことを言い合えるような関係性の土台を作っています。
コロナ禍で、在宅勤務と出社を併用したハイブリッドな働き方に移行しました。そのなかで改めて対面でのコミュニケーションの重要性が認識され、その象徴となるようなスペースが必要になりました。
そこで会社のワンフロアを交流会やサークル活動などの交流を目的としたイベントが開催しやすいようにリニューアルしました。在宅勤務が増え、新入社員と既存社員との接点が減ったことから、特に新入社員の方々にはリアルとデジタルも活用しながら、一人でコミュニケーションをとっていけるようにサポートをしていきたいと考えています。ダイバーシティを推進し、部署や世代、性別や国籍を超えて、社員同士が相互に信頼関係を築いていけるような環境づくりを目指しています。
交流スペースで食事をつくって和気あいあいと。
『こんな会社で働きたい サステナブルな社会実現のために SDGs編3』より転載。