岡田社長
フィルム包装分野でオンリーワン技術を持つメーカーであると同時に、製造業特化型のコンサルティングやメディアプロモーションも手がける日本テクノロジーソリューション。今後は2021年に策定したパーパスを成長エンジンとして、業界・業種の枠を超えた融合型の新事業も推進する方針だ。代表取締役社長の岡田耕治氏が語る、独自の事業戦略と組織論。
問題解決を提供する「ソリューションコーディネーター®」
「地球をワクワクに変える。社会の課題を発見し、挑人®(=挑戦する人)たちと共に世界をより良く変えていく」
これが、2021年9月に策定した私たち日本テクノロジーソリューションのパーパスです。きっかけは、神戸市内の中小企業が持続可能なビジネスにチャレンジする「第1期プロジェクト・エングローブ」に参加したこと。
私自身、そのプロジェクトの中でパーパスの概念に初めて触れました。今の時代、1社のみで完結するビジネスは存在しないし、1社だけで展開する事業では世の中に貢献するにも限度がある。これからの企業は、業界や業種、都市や国などの境界を超え、多様な主体との関係性の中で「なぜ今、自分たちがこれを行うのか」という社会的存在意義を意識しなければ成長できないのだと、私はパーパスの概念を自分なりに解釈しています。
パーパスは、企業が掲げる経営理念や価値観を超える、より大きなものなのかもしれません。日本テクノロジーソリューションは2001年に定めた経営理念・価値観に基づき、製造業向けの問題解決サービスを提供してきましたが、さらに2021年のパーパスに基づき、多様な価値を組み合わせて事業展開する「ソリューションコーディネーター®」として歩み始めています。
現在、自社ブランド製品が柱のパッケージ事業、製造業のプロモーションをお手伝いするメディア事業、日本酒のグローバル市場創出を目指す新規事業を展開しています。業績は、コロナ禍や物価上昇があっても順調です。2022年9月期の売上高は2020年9月期に比べて20%近く伸びました。今期(2023年9月期)はさらに伸びると見込んでいます。
日本テクノロジーソリューションの経営理念、価値観、そしてパーパスのもとに多様な人材が集まり、組織が活性化したことが奏功しています。しかし、ここまでの道のりは平坦ではありませんでした。一時は存亡の機もくぐり抜けてきました。
存亡の機に瀕して定めた「脱・下請け」の理念と価値観
日本テクノロジーソリューションの創業は1976年。私の父・順治が兵庫県高砂市に前身の岡田電気工業を立ち上げました。当初、父も問題解決型のものづくりを志向していました。タクシー配車システムや自動巻き寿司機など、当時としては先進的な製品を開発していましたが、あまりに早すぎたのでしょう、販路が広がらなかった。結局、電機大手・東芝の下請けとしてブラウン管検査装置を製造し、経営基盤を築くことになりました。
2億円ほどの売上高を維持し、安定経営を続けていました。しかし、1999年に父が急逝してしまい、私が30歳で経営を継いだ頃には、薄型テレビへの置き換えが急速に進み、ブラウン管の生産は激減。その影響があり、あと数年のうちにブラウン管はなくなるだろうという流れが見えていました。
私は、プラズマディスプレーパネル検査機(電装部分)を受注し、2000年に第1弾の納入へとこぎつけました。これで一息つける……とほっとしたのも束の間、予想外の事態が起こります。韓国・台湾・中国の企業が日本の電機業界に参入し、同じ仕様のプラズマ検査機を3分の1の価格提示があったのです。そのため、第2弾の受注は丁重にお断りするという消極的な意思決定を積極的前向きに行いました。「戦略とは戦いを省略すること」を学んだ瞬間でした。
海外勢が強い電機業界とは決別し、下請けからも脱却しなければ、未来はない――。
追い詰められた私は2001年4月、管理職を集めて「経営改造会議」を開きました。まず何よりも、下請けを長年続けてきたことで組織に染みついた受け身の文化を変え、社員に自律を促すための「軸」が必要だと説きました。つまり「経営理念をつくることから再スタートしよう」と。
「我々は関わるすべての人々(顧客・取引先・社員・株主・社会)を幸せにする『幸せスパイラル企業』である」
3カ月かけて経営理念をこのようにまとめ、同時に、社員で共有する価値観を「あなたと同じ視点で問題解決を提供する」と定めました。顧客と対等に二人三脚をするような姿勢で何事にも取り組もうという思いを込めたのです。
フィルム包装の課題を解決するオンリーワン技術の新製品
経営理念・価値観の策定から、さらに3カ月後。初の自社ブランド製品「熱旋風式シュリンク装置TORNADO®(トルネード)」を発売しました。海外勢の影響が少ない食品・化粧品・医薬品の3品業界向けに絞り、フィルム包装の課題を解決する独自技術の製品です。これが今日まで20年以上、我が社のパッケージ事業を牽引するロングセラーとなりました。販路は国内外25カ国以上に広がり、多くのグローバル企業にも納めています。
トルネードは、シュリンク包装機の新製品で、食品・化粧品・医薬品の容器(ペットボトル・アルミ缶・ガラス・紙など)に包装用フィルム(商品名・価格などを記したラベル)を自動で貼り付けるものです。従来のシュリンク包装機も貼り付けに熱風を用いていましたが、容器の中身の品質に影響を与えたり、ラベルの位置ズレを起こしたりして、生産効率が良くなかった。熱風を当てすぎてグミやチョコレートを溶かしてしまったりすることもありました。
こうした問題を解決するために、トルネードは、容器の周囲(4方向)から熱風を吹き出して竜巻のように渦をつくり、フィルムを一瞬で収縮・密着させる「トルネード方式」を採用しています。また、全体のサイズを小さめにしているので従来機に比べ消費電力を低減できますし、省スペースにも寄与します。2022年には熱風の温度や風量を商品に合わせて自動調整するAI搭載型のトルネードも開発。製造現場で深刻化する熟練工不足という課題の解決に役立ててもらう狙いです。
パッケージ事業が軌道に乗った2008年、メディア事業にも踏み出しました。この2つの事業には脈絡がないように見えますが、パッケージというのは今やメディアの一種。商品の容器のラベルに印刷されたQRコードから、その商品に関するネットコンテンツにつないだりできる。トルネードによるフィルム包装を顧客に提案し、それと併せてインターネット媒体やマス媒体でのプロモーションも提案できるわけです。メディア事業では、顧客の展示会ブースを取材して映像コンテンツ化したり、「挑人®」をコンセプトに商品開発のストーリーを紹介するドキュメンタリー番組を制作したりしています。
◆社員にパーパスを体感させる「色彩が透明を放つ場所」
そうして2021年のパーパス「地球をワクワクに変える」へとつながるわけですが、それを策定した時期というのは、日本テクノロジーソリューションが「融合期」を志向し始めた頃と重なります。父が経営基盤を築いた創業期から、私が引き継いで下請けを脱却した変革期を経て、トルネードがロングセラーとなってメディア事業にも進出した成長期へ。そして今は、我が社が培ってきた価値を、パーパスのもとで多様な業界・業種の価値と融合させていく時期だと捉えているからです。
2022年から始めた「酒輪(shrin)」のプロジェクトは、パーパスを具現化する第1弾の新事業です。兵庫県には酒蔵が多く、長い歴史を持つ酒造メーカーも少なくありません。でも残念ながら、酒蔵同士がそれぞれの価値を組み合わせて新しいものを創ろうとする動きは一般人には分かりづらい。日本酒は国内需要が減少している反面、和食ブームの海外では需要増の傾向にあります。我が社がソリューションコーディネーター®として「酒輪」の構築をお手伝いし、ニーズ分析や商品企画も担いながら、グローバル市場に新しいSAKEを提供したい。
そのためには、日本テクノロジーソリューションという企業自身も、社員同士、価値観を融合する組織にならなくてはいけません。
我が社では2008年から新卒学生の採用を始めました。その顔ぶれは多彩です。日本や中国の大学で学んだ中国人もいれば、中国語や英語のできる日本人もいる。関西の旧帝大や沖縄地方の国立大の出身者もいる。早くからダイバーシティーを意識した採用活動を続けてきた結果、多様なバックグラウンドと個性を持つ人たちが集まってきました。
ただ、反省も込めて振り返ると、当初は多様性のみを意識して組織づくりに取り組んでいたために、社内が「サバンナ」の様相を呈していました。ライオン、ゾウ、キリン、ハイエナ……いろいろな動物がそれぞれに生きるサバンナのような組織はイノベーティブな傾向もあると言われますが、実際にそうなってみると、社員が各自の個性や価値観を高めすぎて、全体としてはまとまらず、崩壊寸前になったんです。組織は多様性だけを追求していてはダメで、インクルージョン(包摂)も追求する必要があるのだと、私は身を持って知りました。
以来、組織づくりのために展開しているのが「ZOO(動物園)プロジェクト」です。社員はそれぞれ、この会社で個性を存分に発揮しながら働いてもらってかまわない。でも一方で、なぜここで生きていくのかを意識し、お互いの個性を認め合い、弱肉強食のサバンナではなく、個性あふれる楽しいZOO(動物園)を目指そうという取り組みを進めています。そのために、組織は本当の意味でフラットにしたい。入社1年目の社員たちとは、私と先輩社員も含めてインフォーマルな勉強会を定期的に開いています。上が下に口出しをするような場ではなく、いろんな価値観について自由に議論する場です。それを通して新入社員と経営トップがつながったら、組織はフラットにならざるをえません。
「地球をワクワクに変える」というパーパスについても、その言葉のみを強調して伝えたところで社員に腹落ちしてもらうのは難しい。パーパスを体感してもらうにはどうするか。2023年2月、社員で絵画を制作するワークショップを開催しました。
指導してくださったのは、画家の池平徹平さん。社員に向かって「今この瞬間に自分が描きたいものを描いてください」と切り出し、「それ以外の条件は1つだけ、一生懸命描くことです」と。シンプルな指導ですが、社員一人ひとりが本当に描きたい絵を描いた後、それらを集めてみたら、全体として調和の取れた1枚の絵画に仕上がったんです。
これは組織づくりに通じることですよね。社員に向かって「一体感をつくろう」などという声かけから全体をまとめようとするのは、順番が逆なんです。社員一人ひとりがワクワク感を持ちながら課題に向き合う。その結果、一体感のある組織が生まれるわけです。「地球をワクワクに変える」というパーパスの実現に向けては、社員自身がワクワクすることから始めなくてはいけません。
ワークショップで完成した絵画は「色彩が透明を放つ場所」という題を池平さんに付けてもらい、神戸本社のエントランスに飾っています。社員それぞれ、本当に描きたいという気持ちで描いたときにだけ、それらの絵の調和から透明なエネルギーが放たれる。このプロセスから得た学びを生かし、パーパス実現に向けて、社内外の挑人®とともにチャレンジを続けていきたいです。