
日立建機 執行役 CHRO
人財本部長
澤田 誠さん
1991年に日立建機へ入社し、人事部人事グループに配属。日立建機シンガポール、日立建機ユーラシア製造(ロシア)への駐在を経て、2020年に人財開発統括部長、2023年に人事統括部長に就任。2025年より現職。2022年8月の日立グループからの独立を機に、人的資本経営の強化を推進。2023年11月には、人的資本情報開示の国際規格「ISO 30414」の認証を、日本の機械メーカーとして初めて取得した。2027年の社名変更を新たな成長の契機と位置づけ、「社員もお客さまもワクワクするイベントにしたい」と語る。
2022年8月に日立グループから独立し、2027年4月に「ランドクロス」へと社名を変更する日立建機。新社名・コーポレートブランド「LANDCROS」で業界トップスリーをめざしています。AI・IoTや新規事業、世界中のパートナーとの協創など、変革期だからこそ社員の挑戦の機会は広がっています。執行役兼CHRO(最高人事責任者)の澤田誠さんに、「第二の創業」を支える人財戦略と、成長している会社で働く面白さを伺いました。
自社ブランドで今まで以上の会社へ
私たちは、街づくりやインフラ整備に使われる油圧ショベル・ホイールローダ、鉱山で使われる超大型油圧ショベル・ダンプトラックなどの建設機械を開発・製造・販売しています。IoTを活用したサービス、中古車販売、ファイナンスなどの事業も展開し、建設機械が長く安定して稼働できるよう支えます。世界各地でビジネスを展開し、売上高の約8割を海外が占めています。
私たちの歴史は、1949年に日立製作所の建設機械部門の亀有工場で、機械式ショベルを開発したことからスタートしました。1970年に日立建機として分社化して以降、日立製作所のグループ会社の一員として成長してきました。
2022年には日立グループから独立し、新たなステージへと進んでいます。これまでは、「日立」という世界で通用するブランドを背負っていました。そこから独立し、「自分たちのブランドで、これまで以上に成長する会社になる」という覚悟を持っています。
私たちはそれを「第二の創業」と位置づけ、2027年4月には社名を「ランドクロス」へ、コーポレートブランドは「LANDCROS」に変更します。
ただ、お客さまの中には、日立というブランドに強い愛着を持ってくださっている方も多くいます。2025年10月に社名変更を発表した際には、海外のお客さまからは動揺の声もありました。
しかし、営業担当者が社名・コーポレートブランド変更について丁寧な説明を重ね、今では「LANDCROSとしての一号機がほしい」と楽しみにしてくれるお客さまもいらっしゃいます。
継承×進化で業界トップスリーをめざす
私たちは、2026年4月に発表した中期経営計画LANDCROS 2028において、「2030年 業界トップスリーをめざす」という目標を掲げています。
しかし今までの延長線上では、「業界トップスリー」のステージには進めません。商品の魅力を伝えるだけでなく、お客さまの課題を発掘し、それに対する解決策を提案できるような、ソリューションの会社へ進化し、さらに事業を成長させていきたいと考えています。
建設機械業界を取り巻く環境は大きく変わっています。日本では生産年齢人口の減少による、建設現場の人手不足が深刻化しています。道路や橋、トンネルなどの社会インフラの老朽化や、自然災害への防災・減災にも対応していかなければなりません。世界では、環境問題が深刻化し、脱炭素化の流れが加速しています。環境やサステナビリティに配慮した製品の需要も高まっています。
当社では、「継承と進化」をキーワードに、「お客さまの期待に応え、革新的な製品・サービス・ソリューションを協創し、ともに新たな価値を創造し続けます」というMISSIONと共通の行動規範である「Kenkijin スピリット」を継承しながら、日本発のモノづくり力、グローバルな販売サービス力、そしてオープンな協創力といった、これまでに培ってきた強みを進化させていきます。
「Kenkijin スピリット」
日立建機グループ従業員=Kenkijinとしての心構えとして、この価値基準・行動規範を明文化したもの。「Kenkijin スピリット」を継承し世界中の従業員が、お客さまの立場に立ち、価値ある成果物の創造に挑戦できる企業風土の醸成をめざしています。

世界中のパートナーとのオープンな協創
コーポレートブランド「LANDCROS」は、社内公募で社員から寄せられた言葉をもとに決まりました。LANDは、「豊かな大地、豊かな街を未来へ」という日立建機時代から受け継いでいるビジョンを表しています。CROSは「Customer」、「Reliable」、「Open」、「Solutions」を組み合わせ、「革新的ソリューションをすべてのお客さまに提供する」という私たちの決意を込めています。
これから特に社内に浸透させていきたい価値観は「Open」です。「社外のさまざまな組織と、オープンにつながり、協創しよう」という思いを込めています。日立グループから独立することで、自分たちの意思でさまざまな取引先やパートナーとつながり、新しい取り組みにチャレンジできるようになりました。
外部パートナーとの協創を通じて新たな事業やソリューションを創出することをミッションとする部署も立ち上がりました。同部門は2025年、鉱山業界の課題解決につながるアイデアやソリューションを世界中のスタートアップから募集する「LANDCROS Innovation Studios Mining Challenge」をオーストラリアで開催しました。世界から135社の応募があり、優勝企業3社とはPoC(概念実証)や協業に向けた検討を進めており、外部の技術や知見を取り込みながらお客さまへの新たな価値創造に取り組んでいます。
また、2024年には建設現場のカーボンニュートラル化をめざす研究拠点「ZERO EMISSION EV-LAB」を開設しました。電動建機や可搬式充電設備を活用しながら、お客さまや52社のパートナー(2026年3月時点)と連携し、ソリューションの開発・実証を推進しています。

LANDCROSデカル仕様の油圧ショベル(土浦工場で展示)
社員のチャレンジ精神を育てる仕組み
変革期の会社で働く面白さは、挑戦できる機会が多く、会社と共に自分も成長できることです。私もCHROとして、社員一人ひとりが「会社の変革が自分自身の成長につながっている」と感じられる企業風土をつくりたいと思っています。
しかし日立の名前が社名からなくなることに、不安を感じる社員もいます。社員が「新しい会社が楽しみだ」「社名変更はチャンスだ」と思えるような雰囲気をつくることが、私たち経営層の役割です。
経営層からLANDCROSがめざす姿や変革の方向性について共通のメッセージを発信し、全社が一丸となって変革を推進できるよう取り組んでいます。それと同時に、社員の挑戦を後押しする仕組みも整えています。制度や環境づくりと、社員の意識改革を並行して進めることが大切です。
社員の挑戦を後押しする取り組みのひとつとして、2023年から社内ビジネスコンテスト「KβC(KENKI βUSINESS CHALLENGE)」を開催しています。役職や職種を問わず、個人でもチームでも参加でき、新規事業のアイデアを提案できます。選考を通過した参加者は、外部の専門家によるメンタリングや事業化支援を受けながら、事業プランのブラッシュアップを進めることができます。
KβCから生まれた事業として、「重機ファンダム」という重機愛を共有するファンコミュニティがあります。サイトやラジオの立ち上げ、グッズ制作など活動を広げています。社員からはKβCを通して、提案力や周囲を巻き込む力が身についたという声も寄せられており、新たな事業と挑戦する人財の創出につながっています。
また、職種異動にも社内公募制度を取り入れ、社員の「新たなポジションに挑戦したい」という気持ちを後押ししています。近年では、年間100件以上の応募があり、そのうち約半数が他部署に異動しています。
今後は、新規事業への挑戦など、たとえ期待した成果に結びつかなかった場合でも、挑戦そのものを評価する仕組みの充実を検討しています。それによって周囲も触発され、社内に挑戦の文化が広がっていくと思います。

挑戦の土台となる学びと人財育成
当社では、若手社員にも、社内公募を通して新しい事業に関わることや、海外出張や駐在にも挑戦できる機会があります。ただ、新規事業に挑戦する前に、既存の事業や商品について理解を深めることも大切です。
その土台をつくるための取り組みが、入社後3年目の従業員が中心となって参加する「研修員論文」です。自ら担当業務の課題を見つけ、先輩のサポートを受けながら、改善策をまとめて、役員の前で発表します。
研修員論文を通じて、業務への理解を深めるだけでなく、他部門との連携の進め方や課題解決の進め方、経営層への報告の仕方なども学ぶことができます。また、発表内容が実際の業務改善につながるケースも少なくありません。会社の基礎を理解したうえで、自分なりの発想力をかけ合わせられれば、より力が活かせるはずです。参加した社員からは「大変だったけれどいい経験になった」という声が多く寄せられています。
お客さまにソリューションを提供するためには、デジタル活用の知識も不可欠です。当社ではデジタル人財を採用するだけではなく、社内のDX教育にも力を入れています。
2021年からデジタルリテラシーを底上げするための研修プログラムを実施してきました。2024年度からは、専門スキルを持つ人財を育成するため、プロジェクトマネージャーとデータサイエンティストの育成プログラムを開始し、資格取得などの実績が出始めています。
人事とAIやIoTを推進する専門部隊が連携しながら、社内浸透を進めています。若手だけでなく、ベテラン社員にもDXの重要性を認めてもらうことが重要です。
国際基準で知る組織の現在地
社員の学びや挑戦を継続的に支えるためには、個々の施策だけでなく、制度や職場環境などの組織の基盤を整えることも重要です。日立グループから独立する前は、人事制度をはじめとするさまざまな仕組みを、日立製作所にならって整えることが可能でした。しかし独立後は、自分たちで制度や仕組みをつくり上げていかなければなりません。
そこで独立前に、人的資本に関する当社の取り組みが、国際基準に対してどの水準にあるかを客観的に把握するために、日本の機械メーカーとして初めてISO30414を取得しました。ISO30414は、組織の人的資本に関する情報を測定・開示するための国際的規格です。自分たちの現在地と課題を明らかにし、改善が必要な部分には手を打っていこうと考えました。
ISO30414取得に向けた分析を進める中で、事務の効率化が進んでいないと気づきました。また、ダイバーシティや女性活躍など取り組むべきテーマも見えてきました。
現在、新卒採用の約1割は外国人で、インクルージョンが大切だと考えています。さまざまな価値観の人たちが協力し合い、いかに良いものを生み出すか。会社として、教育カリキュラムをつくり、良いチームづくりを促していきたいと思っています。
また、社員が自分のキャリアについて自律的に考えられるように、キャリアコンサルティング制度を導入しました。その結果、「この会社じゃない」と転職に至るリスクもありますが、当社を心から選んでいる社員が残るほうが、会社と社員の双方にとって良い状況だと思っています。
正解がなくても、自分たちの意思で決める
私がこれまでのキャリアで印象に残っていることのひとつは、2011年3月の東日本大震災の時に新入社員の受け入れに対応したことです。同年の4月に、東京本社の課長から茨城県にある土浦工場の勤労課長への異動が決まっており、着任直後から工場の復興と、4月から新入社員を工場で受け入れるための体制を急遽整えなくてはなりませんでした。
入社式を6月に延期した企業もある中、私たちは4月に新入社員を受け入れることを最優先にすると決めました。それが正解かどうかはわかりませんでしたが、自分たちの意思で大きな方針を決め、実現するために動いていきました。
当時は首都圏のインフラが大きく混乱し、新入社員が宿泊予定だった施設にも耐震面で不安がある状態でした。宿泊施設の確保に奔走し、震災の被害を免れた取引先の空き寮を借り、2週間で改修して受け入れ先としました。計画どおりには進められない中で、自分たちでひとつずつ方法を考え、対応していきました。
この経験を通じて実感したのは、すべての部門や従業員が「自分ごと」として動き、課題解決に取り組む力こそが日立建機の強みだということです。こうしたDNAは、社名が変わっても大切に受け継いでいくべきものだと思います。
今は先が見えない時代だと言われています。これからも、予期せぬ出来事が繰り返し起こるかもしれません。そうした状況に柔軟に対応する力が、個人としても組織としても求められていると思います。正解かどうかわからなくても、「自分はこうするべきだと思う」と考え、その意見を上司や同僚に伝える力が必要です。
上司も若手が意見を発信しやすい環境をつくり、考えを引き出していくべきだと思います。「自分の意見を伝える」「わからないことはきちんと相談する」ことが、仕事を進めるうえでの大事な基本ルールだと思います。

キャリアを決め打ちせず柔軟に進もう
若い方に伝えたいのは、キャリアを柔軟に考えてほしいということです。「将来こうなりたい」という夢を持つことはもちろん大切です。ただ、その時点で描いていたキャリアだけが正解ではありません。
働く中で視野が広がり、思わぬチャンスに出会うこともあります。そうした新しい可能性が見えてきた時には、当初の目標にこだわりすぎず、自分の関心や成長に合わせて進む方向を広げていけばよいと思います。そのほうが、自分らしいキャリアを築くことにつながると思います。
私自身、新卒の頃は「何になりたい」という明確な目標がなく、「会社から与えられた仕事の中で、面白そうなものがあれば食いついてみよう」と考えていました。実際に目の前の仕事に取り組む中で、さまざまな仕事や役割に出会い、選択肢も広がっていきました。
仕事だけではなく、日常生活の中でも視野を広く持ち、さまざまなことに好奇心を向けることも大切です。日常の何気ない場面にも、多くの気づきがあります。スーパーでの買い物ひとつにしても、「なぜ自分はそれを選んだのか」と考える習慣を持つことで、物事を多面的に見る力や発想力が養われていくと思います。
変化の激しい時代だからこそ、仕事を通して、社会の変化に柔軟に対応する力も身についていきます。会社を自分の可能性や挑戦を試す舞台と捉え、好奇心を持ってさまざまな経験を積み重ねていってほしいと思います。
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