左から、中谷さん、鈴木さん、伊藤さん、野田さん、椎名さん、飯島さん
法律から見る、私たちの存在理由
農林中央金庫には、他の金融機関にはない、特別な使命が与えられています。それは、日本の農林水産業の発展に寄与することです。当金庫を設立した背景が記されている「農林中央金庫法」の第1条にも、次のように明記されています。
農林中央金庫は、農業協同組合、森林組合、漁業協同組合その他の農林水産業者の協同組織を基盤とする金融機関としてこれらの協同組織のために金融の円滑を図ることにより、農林水産業の発展に寄与し、もって国民経済の発展に資することを目的とする
農林水産業の発展は、一朝一夕には実現しません。農林水産業に携わるすべての人においては、長期的な視野を持って継続的に利益を確保しながら、事業基盤となる自然環境にも配慮する必要があります。当金庫を創立した1923年当時の日本では、「サステナビリティ」「持続可能性」といった言葉は今日のように一般的ではありませんが、農林中央金庫法に書かれていることはまさにサステナビリティの考え方を反映しています。私たちはその考え方を脈々と受け継ぎながら、今日まで存続してきたのです。
そこから90年以上の時が経ち、世の中から、企業は自社の利益のみならず、持続可能な社会づくりへの貢献も求められるようになりました。これまで、農林水産業の持続可能性に取り組んできた私たちとしても、改めてサステナブル経営と整理した上で、取り組みを一層推進していくことにしました。
地球温暖化に起因すると言われる自然災害の甚大化、世界規模での人口増加に伴う食糧不足、世界各地で進む森林違法伐採や水産資源の乱獲、そして刻々と進展する生物多様性の喪失など、サステナビリティ実現に向けた課題は深刻の色合いを強めています。
こうした課題を踏まえ、私たちは自らの“存在意義”=“パーパス”を定めました。既に定めていたコーポレートブランド「持てるすべてを『いのち』に向けて」をもう一段具体的にし「ステークホルダーのみなさまと共に、農林水産業をはぐくみ、豊かな食とくらしの未来をつくり、持続可能な地球環境に貢献していきます」と定めています。
図1は、この存在意義の実現に向けて「目指す姿」「事業活動の基本」、そして経営計画の達成に職員が日々取り組むための土台をなす「共有価値観」をイメージ化したものです。
このピラミッド図を下から説明すると、足もとの土台である共通価値観を日々固めながら(Shared Value)、経営計画と中長期目標を達成し(Mission)、目指す姿を体現する(Vision)。これらを通じて、農林中央金庫の存在意義(purpose)の実現を示しています。
2050年を予測しながら、中長期目標を設定
存在意義を実現するために定めた中長期目標の柱は大きく2つあります。1つ目は、投融資先などの温室効果ガスの排出量削減。そして2つ目は、農林水産業者所得の増加です。
中長期目標の設定にあたっては、2050年の世界がいかに変わっているかを予測し、その世界の中で私たちが果たすべき役割について役職員で議論を重ねました。その2050年の世界観からバックキャスティングの思考により、2030年に果たすべき課題を中長期目標として定めました。
地球の気候変動問題に対する国際的な議論においては、2050年が未来予測の1つの基準となっています。私たちもまずは、2050年までの環境や社会の中長期的な変化を「メガトレンド」として予測しました。
ここで抽出したのは、気候変動、生物多様性・生態系の喪失、人口動態、資源枯渇、そして技術革新です。その中から私たちが優先して取り組む課題として、温室効果ガスの排出量削減、農林水産業者所得の増加に的を絞ったのです。図2 はその目標を細分化したものです。CO2吸収以外はそれぞれ、具体的な目標値が設定されています。
2030年までに10兆円のサステナブル・ファイナンスを実行
このように、中長期目標を設定したことで、新たに取り組むべきことが具体的になっていきました。その1つとして挙げられるのが、サステナブル・ファイナンスです。
サステナブル・ファイナンスとは、持続可能な環境、社会、農林水産業の発展に貢献する投融資です。2030年の中長期目標として新規実行額を10兆円に設定しています。
世界銀行が持続可能な開発プロジェクトへ融資するために発行する「サステナブル・ディベロップメント債」への投資もその1つです。この債券への投資は、フードロスの課題解決、農林水産業の持続的発展に貢献する取り組みにつながっています。2020年度は2000億円の新規投資を行い、累計額は5000億円に達しました。
また、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)を融資の評価対象とするESGローン商品を創設しました。その1つであるサステナビリティ・リンク・ローンは、資金の使用目的を限定せず、お客様の経営戦略に基づくサステナビリティ目標を踏まえてサステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPTs)を設定し、その達成状況に応じて金利が変動するなど、特別なインセンティブのある商品です。
このローンを利用したお客様は、投資家をはじめ世の中にサステナビリティへの貢献取り組みへの積極性をアピールできるほか、組織内のサステナビリティへの意識の向上、取り組みの促進などといったメリットを享受できます。
このように、私たちはさまざまな投融資でお客様の行動変容をサポートし、持続可能な農林水産業者向けの金融支援や、経営課題解決のためのソリューションを提供しています。
農林水産業向けの金融支援により、サステナビリティ経営の課題解決に寄与した事例も増えています。
投資ビジネスでは、プロジェクトファイナンスにも積極的に乗り出しています。プロジェクトファイナンスとは、法人に対して融資するコーポレートファイナンスとは異なり、特定の事業やプロジェクトに融資を行うものです。
これまでの融資案件(2021年3月末時点残高)では、太陽光発電所案件に約1000億円、中東地域などの淡水化、下水処理案件に約1000億円、洋上風力発電など海外の再生可能エネルギー案件に約5000億円の規模になります。国内だけでなく、海外に視野を広げて地球環境保護に貢献しています。
大きな使命を味わえる仕事
私たちはJA(農協)、JF(漁協)、JForest(森林組合)など、農林水産業を支える一員として、SDGsへの取り組みも外部と連携しながら進めています。2020年5月に発表した「JAグループSDGs取組宣言」も取り入れ、一丸となって動き出しています。
当初は、SDGsの17の目標すべてを達成しなければと身構え、なかなかイメージをつかみづらい職員もいました。しかし、よく考えると、身構える話ではないと気づきました。なぜなら、これまでも全国各地で農林水産業者と会話をし、異常気象や豪雨災害など、気候変動の話を重ねてきたからです。
気候は作物の出来や、魚の水揚げにも大きな影響を与えます。SDGsという国際目標を考えるとイメージしづらいですが、実は私たちが普段接しているお客様に近い問題でもあると知り、今では職員全員が「自分ごと化」ができるようになりました。
これからはより具体的な実践に向け、それぞれが手にした現場の話を組織全体で共有し、次の段階へと進まなければなりません。そのためには、人材の確保と育成が不可欠です。
ほかには、働きやすい職場環境や組織風土づくりも大切です。足元では、さらなる女性活躍推進を検討するために職員参加型ワーキンググループの立ち上げや、中高年でも活躍できる組織づくりなど、ダイバーシティと機会均等に向けて強化をしています。
また、コロナ禍以前からテレワーク制度や時差勤務制度など、働きやすい環境整備に取り組んできました。加えて、出産・育児・介護といったライフステージに合わせた休暇制度の充実や、組織としてのサポートなど、多様な働き方も可能にしています。
こうした活動を経て、2021年2月には厚生労働省より「プラチナくるみん」の認定を受けています。さらには、通信研修や資格取得、海外留学などのさまざまな育成支援制度によって、新人から中堅、管理職、経営職まで、すべての職員の能力開発やキャリア形成をサポートしています。
農林水産業の影響範囲は広く、それを銀行という立場で支えていく農林中央金庫の仕事は、長い社会人人生を過ごしていく中で、やりがいがあって楽しいものだとイメージしていただけたら嬉しいです。
農林中金はこんな会社!
社員の方3名にお話をうかがいました
総合企画部サステナブル経営室 矢島さん
共有価値観は「グローカル」
さまざまな分野で活躍する仲間と一緒に、日本の農林水産業に貢献するのが私たちです。そんな使命が明確なこと、そして「人」を大切にしてくれることが農林中央金庫の魅力だと思います。
総合企画部サステナブル経営室
部長代理 蓑田さん
農林水産業を育み、豊かな食とくらしの未来をつくる
農林水産業は、私たちの日々の生活と仕事が非常に密接につながっているものです。その点を意識することで、この会社で働く「意義」や「やりがい」を再認識できるようになりました。
人事部人事企画班 椎名さん
農林中央金庫で活躍できる人とは
第一次産業と地域に共感しながら、グローバルな視点で仕事をしていきたい人。自ら自律的に考えて行動できる人。自身の専門性を高めて行きたい人。そして農林中央金庫ならではの使命・パーパスに共感してくれる人と、一緒に仕事をしていきたいと思っています。
『こんな会社で働きたい SDGs編2』より転載。
農林中央金庫
取材日:2021年9月16日
代表理事理事長:奥和登
設立:1923年12月20日
業務内容:農林水産業の発展を目指した食農ビジネス、リテールビジネス、投資ビジネスの展開