経営戦略室マネージャー 山下 真智子 さん
2013年3月に創立したメルカリ。創業からわずか5年で上場を果たし、フリマアプリ「メルカリ」の累計出品数は2022年11月に30億品を突破。月間の利用者数は2000万人を超えるという。C to Cのフリーマーケットという新たな市場を創出し、循環型社会を目指す同社の取り組みを、経営戦略室マネージャー山下真智子さんとVP of HR Marketplace執行役員の山本真一郎さんにお話いただきました。
循環型社会の実現を目指すメルカリ
メルカリは、誰かにとって不要になったモノが、他の必要な人のもとに届くマーケットプレイスです。
創業者の山田進太郎がこのビジネスを思いついたのは、バックパッカーとして世界一周旅行をしていた時だったといいます。圧倒的にモノが不足し、学ぶ機会も十分ではない新興国に立ち寄った山田は、当時普及が広がってきたスマートフォンをはじめとしたテクノロジーを活用して資源を循環させることができれば、一人ひとりが持つ可能性がもっと広がるのではないかと考え、フリマアプリビジネス・メルカリを創業しました。
近年はSDGsへの関心が高まり、人々の買う・使う・捨てることに対する意識にも変化が見られます。メルカリでは、このサービスを世界中に拡張していくことで、限りある地球資源が大切に使われる循環型社会の実現を目指しています。
私たちは、世の中にメルカリを使う人が増えれば増えるほど、モノを大切に使おうという意識も広がると考えています。また、消費者の意識が変われば、モノの生産や販売のあり方、さらにはバリューチェーン全体もサステナブルに変わっていくと期待しています。こうした変化を世界中で起こしていくことで、循環型社会の実現に寄与するだけでなく、地球環境課題の解決にもつなげていく。それが、メルカリの願いです。
「プラネット・ポジティブ」な世界を目指す
今、グローバルでは「プラネタリー・バウンダリー」という言葉が注目されています。プラネタリー・バウンダリーは、日本語に訳すと「地球の限界」という意味です。地球温暖化をはじめ、超えてはいけない境界(=バウンダリー)があるということを表しています。
この概念が広がる中、メルカリは事業の成長を通じて、地球環境に対しポジティブなインパクトを生み出し続けていきたいと考え、こうした思いを「プラネット・ポジティブ」という言葉で発表しました。
メルカリでは創業時からずっと、「循環型社会で必要不可欠な存在になる」という社会課題の解決を掲げています。プラネット・ポジティブを追求することによって、限りある地球資源が世代を超えて共有される循環型社会が実現し、その基盤のもとに、あらゆる人が可能性を発揮できる社会をつくっていきたいと考えています。
「もったいない」や、「グリーン」という言葉ではなく「プラネット・ポジティブ」という言葉を選んだのも、メルカリならではのこだわりです。創業時から「地球環境に貢献できるからメルカリを使ってください」「新興国の人々のために私たちのサービスを広めていきましょう」というアプローチはしていません。メルカリの事業を通じてリユースが促進され、そこから生まれるポジティブな影響が自然と循環型社会を創っていくことにつながっていくと私たちは信じています。
メルカリ取引でCO2の大幅削減に貢献
2022年6月に発行した「2022年度版サステナビリティレポート」では、初めてメルカリの事業を通じて生まれた環境貢献量を「ポジティブ・インパクト」として数値化し、開示しました。
これは、メルカリのサービスを人々に使ってもらえばもらうほどに環境に対してポジティブなインパクトをもたらすことができることを、可視化して世の中に示すためでもありました。
具体的には、メルカリの中で最も取引量が多い衣類カテゴリーみを対象に、CO2排出量を今回初めて算出しました。その結果、メルカリの取引で2021年は約48万トンのCO2の排出を回避できたことがわかりました。さらに、直近3年間において回避できたCO2排出量は、衣類カテゴリーだけでも合計約140万トンにもなりました(次頁図表)。事業を成長させることで、循環型社会の実現に着実に貢献できていると自信を持って断言できる結果となりました。
また、メルカリに出品されたことで回避できた衣類廃棄の重量は日本だけでも約4・2万トでした。これは日本で1年間に捨てられる衣類の総量48万トの約8・8%に相当します。日本とアメリカを合わせた衣類廃棄量約5・9万トンは、10トントラック約5900台分にものぼります。
使わなくなった衣類を捨てずに、メルカリで出品したり購入したりすることで、環境負荷を減らし、循環型社会の実現を目指せることも、今後も世の中に提示し続けていきたいと思っています。
衣類だけで年間約48万トンのCO2排出量を回避「「2022年度版サステナビリティレポート」より)
リユースを当たり前の社会にする
私たちはまた、メルカリを多くの方に使っていただくことで「買う・使う・捨てる」という消費行動そのものに対する意識変容を促すための取り組みも行っています。
2022年5月には「まだ使えるけれど不要になったモノ」を捨てないための仕掛けとして、「メルカリエコボックス」を開発しました。これは、家の中に眠ってる洋服や本、小物や食器などの「使わないけれど捨てられない」モノたちを、一時保管しておくためのボックスです。使えるけれど不要なモノを見える化することで、「捨てない」行動を定着させたいというアイデアから生まれました。このメルカリエコボックスを通じて、リユースが当たり前の世界にまた一歩近づけることを目指しています。
さらに梱包資源のリユースを促進する取り組みとして、2019年から提供してきた繰り返し使える梱包材「メルカリエコパック」を2022年6月にリニューアルしました。期間限定で全国9カ所でのメルカリステーションでの返却と循環を促進する仕組みを導入した他、小物や化粧品をそのまま梱包できるよう、内側にサイズの異なる3カ所のポケットを設けています。リユース配送の「あたりまえ」も目指し、今後もさらに進化させていく予定です。
SDGs教育施策にも力を入れる理由
一人ひとりの行動を変えていくためには、子どもの頃からモノやお金の価値についてしっかり学ぶことも重要だと私たちは考えています。そこでメルカリでは、学校の教科書だけでは学べないサステナブルな学びのプログラムの開発・提供も、小学生から高校生まで、幅広い年齢をターゲットに行っています。
メルカリや、メルカリアプリを使った決済サービス「メルペイ」を通じて、捨てられるはずだったモノに新しい価値を創り出していくことや、限りある資源を大切に使うことで循環型社会の実現につながっていくことなどを、子どもたちに届けています。
2022年はオンラインでの出張授業形式を中心に、1年間で1000人以上にメルカリの教育プログラムを提供しました。
さらに、教育ポータルサイト「mercari education」(https://education.mercari.com/ )
では、教育プログラムの無償公開も行っています。これもまた、メルカリの利用者を増やすことで、循環型社会の実現に一歩でも近づけたいという私たちの思いのあらわれです。
社内でのサステナビリティ促進も常に進化しています。身近なところからサステナブルに取り組む施策としては、オフィスの来訪者に提供する水の容器をペットボトルからリサイクル率の高いアルミ缶に変更。マイカップの取り組みとともに好評です。
多様性を尊重するメルカリの働き方
VP of HR Marketplace執行役員の山本真一郎さん
メルカリには多様な価値観やバックグラウンドを持つ社員が世界中からが集まっていますが、お客様にとって使いやすいプロダクトやサービスを生み出すためには、それらを生み出す私たち自身が多様でなければいけないからです。お客様のそれぞれの性別、趣向、趣味、考え方、ジェネレーションのニーズを拾い、使い続けてもらうサービスを提供していくために、ジェンダーや国籍、年齢、障がいの有無といった目に見える違いはもちろん、アイデンティティーや宗教、興味関心など目に見えない違いも理解し、包括できるようダイバーシティ&インクルージョンを推進し、誰もが働きやすい環境を実現しています。
3年前からサステナビリティレポートとして、私たちの活動の成果を公表してきましたが、近年はこのレポートで私たちの事業に共感し、入社を希望する人も増えています。とくに外国籍のメンバーはサステナビリティへの共感が高く、2022年現在ではメルカリJP(日本のフリマアプリ事業)のエンジニアリング組織の約50%が外国籍となっています。約50カ国以上の多様なメンバーが集まって働いています。
自由な働き方を後押しする「YOUR CHOICE」
コロナ禍で出社とリモートのハイブリッドワークが進む中、メルカリでは2021年9月1日から自らが働く場所と時間、住む場所を自由に選択できる「YOUR CHOICE」という制度を採用しています。
この制度導入により、メルカリの日本オフィスを拠点とする社員の9割がリモートワーク勤務を活用し、およそ1割の社員が1都3県以外の地域から勤務をするようになりました。
例えば制度を利用して小笠原諸島に住み、フルリモートで働くメンバーもいます。このメンバーのおかげで、離島に暮らす人がどのようにメルカリを活用しているかがリアルにわかり、サービス提供の大きなヒントになりました。
また、「YOUR CHOICE」 を通じたフルフレックス勤務制度の導入により、日中に子どもの送迎や介護の通院など、仕事を「中抜け」したり、休日と平日を入れ替えて働いたりするなど、それぞれのライフスタイルや事情に合わせた働き方ができるようになりました。
具体的には、共働き家庭からの「育児がしやすくて助かっている」という声や、ハンディキャップのあるメンバーやその家族から「働き方の可能性を広げられる」という声もあり、組織としてのバリューやパフォーマンスの促進にもつながっています。
「無意識(アンコンシャス)バイアス ワークショップ」
メルカリでは社内のダイバーシティ&インクルージョン推進の一環として、2019年より多様性の受容を促進する独自の研修プログラム「無意識(アンコンシャス)バイアス ワークショップ」も行っています。2020年からは、全マネージャー受講必須の研修となっています。
「無意識バイアス」は、普段の生活や文化による影響で無意識にあらわれる思い込みや偏見のことです。一般に「女性はリーダーに向いていない」「外国籍の方は日本企業の社風に合わない」など、性別や人種、年齢などの属性だけを根拠に、無意識に決めつけてしまうことがあります。
こうした無意識のバイアスが存在する企業では、個々の成長の可能性を阻害し、持続可能な組織の成長や発展を妨げることになってしまいます。そこで、無意識バイアスを日常的に意識する習慣をつけることで、多様な経験や視点を尊重した組織をつくろうというのがプログラムの狙いです。
しかし日本社会全体でのD&Iの推進を目指すためには、メルカリだけが頑張っても実現不可能です。そこでより多くの企業や組織で、無意識バイアスが適切に理解されることを願って、ワークショップの社内研修資料を無償で公開しています。
今後もメルカリは「無意識バイアス ワークショップ」をはじめさまざまな取り組みを通じて、社内のみならず、日本社会全体でのD&Iの推進を目指していきます。
自由なカルチャーを推進する「オープンドア」
メルカリには「オープンドア」という、誰でも自由に質問などができる意見交換の場があります。以前は創業者の山田など、経営メンバーが中心となって行っていました。しかし2018年からは、各自が自由に興味のあるトピックを立て、それに興味のある人が参加する形式に変わりました。リモートワークでよりよく働くためのオープンドアや、ESGオープンドアなど、さまざまなトピックが自由闊達に話し合われています。
誰もが自由に意見を言える風通しのよさは、多様な考え方をする人がいることを当たり前に受け止め、認め合う組織づくりに大きく貢献している他、自分らしく生き生きと働ける環境にもつながっています。
役職に関係なくお互いを「メンバー」と呼び合うなど、フラットなコミュニケーションが根付いているメルカリでは、情報がオープンになっているのも特徴です。自分のチーム以外の議事録などの情報も基本的に全て開示されていて、必要な人が誰でも見ることができるので、自分から積極的に情報を取りにいく文化が形成されています。
「新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを創る」というミッション達成のために、大切にしているバリューがあります。「Go Bold(大胆にやろう)」「All for One(全ては成功のために)」「Be a Pro(プロフェッショナルであれ)」の3つです。
社員から推薦を受けた人を採る「リファラル(紹介)採用」にも力を入れていますが、それは会社のミッションやバリューに共感できるかということを徹底的に大事にしているからでもあります。現役の社員は当然、このミッションとバリューを土台に、新しいことに挑戦しているメンバーばかりです。近年は新しい事業を拡張したり、海外での採用を強化したりと、バックグラウンドが多様なメンバーを採用しているので、なおさらミッションとバリューの共有は徹底しなくてはいけないと考えています。
社員にとってもリファラル採用で知人などに声をかけることは、一人ひとりが「メルカリ」の発信者になるということです。メルカリの社風やミッションを話すことで、よりミッション・バリューへの共感度と会社へのロイヤリティーを高める効果があると思っています。
社員のミッション浸透には、メルカリで働く人についての情報を伝えるオウンドメディア「mercan」も大きく貢献しています。私たちはあらゆる施策において、金太郎飴のようにどこを切ってもメルカリのミッション・バリューがぶれないよう徹底しています。もちろん、福利厚生や人事施策なども、基本的には全てバリューに即しています。
これらは言い換えれば、メルカリは一緒に働くメンバーに対して、学歴や性別、国籍などの「垣根」を一切設けていないということです。つまり、メルカリのバリューである「Go Bold(大胆にやろう)」「All for One(全ては成功のために)」「Be a Pro(プロフェッショナルであれ)」に共感いただける人は誰でも、メルカリにとって必要なメンバーだと考えているのです。
メルカリのドアはいつでもオープンに開いています。「あらゆる価値を循環させ、あらゆる可能性を広げる」という当社のミッションを、失敗を恐れず、大胆なチャレンジを通じて、共に実現したいと思う方の応募を、私たちはいつでもお待ちしています。
*1:2019年4月~2022年3月の3年間におけるメルカリJPとメルカリUSの「レディース」「メンズ」「キッズ」のカテゴリーで取引完了となった中古品を対象商品に設定
*2:2021年4月〜2022年3月におけるメルカリJPとメルカリUSの「レディース」「メンズ」「キッズ」カテゴリーで出品完了した商品数より算出。衣類の重量は、経済産業省のデータを参照(出典:経済産業省「繊維産業活性化対策調査」)。メルカリUSの重量においても経産省のデータを参照して推計。
*3:出典:環境省 サステナブルファッション
『こんな会社で働きたい サステナブルな社会実現のために SDGs編3』より転載。