私たちの毎日の暮らしには欠かすことができない「食べる」こと。暮らしを支えている「食」に対して、今、サステナビリティの課題は大きくなっています。
株式会社クラダシは、ミッションに「ソーシャルグッドカンパニーでありつづける」を掲げ、フードロスの削減を軸にさまざまな事業を展開しています。同社は今年6月30日にグロース市場へ新規上場。フードロスの削減という社会課題をビジネスとして展開させることで、経済を循環させながらサステナブルに解決することを目指しています。
同社はソーシャルグッドマーケット「Kuradashi」というフードロス削減を目的としたECサイトを運営しています。売り上げの一部は、環境保護・災害支援などに取り組むさまざまな社会貢献団体への寄付などに活用されます。誰でも気軽に社会貢献活動ができるとあって、同社サービスのユーザー数は9月末時点で50万人近くとなっており、2023年は4,500トン以上のフードロスの削減を実現しました。
フードロス削減を追求していく同社の様々な取り組みや、企業、自治体との協業により、日本の食はどう変わっていくのか。同社の取締役執行役員CEO、河村晃平氏、そして同社広報の齊藤友香氏に食の未来についてお話を聞きました。
会社のビジネスの輪が大きくなればなるほど、世の中のためになる
―― どのような想いを持ってクラダシに入社されたのでしょうか。
河村 当社が仕入れたフードロス削減のための商品を、お客様がお得に購入できる。その活動がさらにフードロスの削減に貢献する。サービスを利用することが、社会貢献活動につながり、それらが循環される。そのビジネスの輪が大きくなればなるほど世の中のためになる。こんなに素敵な話はないと。通常のビジネスの循環とは違うというところが面白いなと考え、チャレンジしてみようと考えました。
―― 御社のビジネスモデルや、1.5次流通という、新しい流通市場を開拓していることについてお話しいただけますか。
河村 一次流通といわれるフードサプライチェーンがあります。食品メーカーさんが商品を作り、一次卸、小売り業者に流通するという流れのことです。当社のビジネスモデルは、その流通過程で発生してしまった廃棄予定の商品を、格安で仕入れるところから始まります。
買い取ったものを、迅速に当社サービスのユーザーの方々にマッチングさせて販売します。
我々のビジネスのユニークなところは、売上金の一部が社会貢献団体に寄付されるというところです。フードロス削減にもなり、社会貢献活動に資することができるというのがこのビジネスの面白さだと思います。
商品を流通に流せなくなってしまう理由としては、例えば3分の1ルールというものがあります。製造日から賞味期限までの合計日数の3分の1を経過した日程までを納品可能な日として、3分の2を経過した日程までを販売可能な日とする商慣習的なルールです。賞味期限が6カ月ある商品の場合、出荷後2ヶ月経過してしまうと、賞味期限がまだ4ヶ月商品あるにも関わらず流通できなくなり、出荷ロスになってしまう商品が多くあります。
流通過程で箱潰れが発生してしまったり、ラベル不良だったり、様々な理由で廃棄せざるを得なくなってしまったものを、当社で買い取り、再流通させます。新品ではないけれども、中古品でもない。その流通を我々は「1.5次流通」と呼び、新しい市場を作っています。
強みは、サステナブルに循環するビジネスモデル
―― 御社の強みはどのようなところにあるのでしょうか。
河村 当社の強みの一つとして、ビジネスモデルがサステナブルに循環していく形になっていることです。ユーザーや、農水省、環境省、消費者庁などの省庁が、フードロスの削減を考える際、当社が第一想起されることも、企業ブランドとしての強みであると思います。2014年からこの事業を始め、他社よりも先に市場参入して先行者利益を獲得していること、そこで各省庁の認知を得ていることが、一次想起される理由だと考えています。
過去、フードロスを削減するビジネスには、トレーサビリティの観点で問題が起きたことがありました。食品メーカーさまとしては、会社のブランド力を崩したくない、信頼できるところへ商品を流通させたいという考えをお持ちです。その点、当社は一つ一つ実績を積み上げて来ているので、ブランドイメージを毀損しないという信頼をいただいていると思っています。
―― 上場されてからどんな変化を感じていらっしゃいますか。
河村 我々にとって上場は、あくまで企業成長のための一つの通過点しかないと思っています。上場はゴールだという感覚で経営していたのではありません。社員の方々にとっても、上場したから何か大きく変化したという感じではないかもしれませんね。
上場の目的の一つは、上場することで信頼性や認知度を上げることにあります。我々がお付き合いをさせていただいている食品メーカー様は、トレーサビリティの促進の際に起こるかもしれない、ブランド価値の毀損に配慮しなければなりません。
そこで当社は、ガバナンスやコンプライアンスがしっかりしている上場企業であるということと、食品メーカー様の商品のブランド価値を大切にしていますということ、この二つを伝えるために上場の戦略を取っています。
元々業界において、食品メーカーさんは当社のことを知っていただいています。その中で、当社が上場したことにより、さらに取引を加速していくということも期待しています。
原動力は、ミッションに対する社員の大きな共感
―― 2022年6月に御社が取得された「B Corp(B Corporation)」についてお話をいただけますでしょうか。
河村 当社のビジネスモデルは今までにないものです。ビジネスモデル自体がサステナブルな形になっているので、どう表現していけばいいのかと考えていました。
3年ほど前に、ビジネスモデルを説明するよりも、ネームプレートとして当社の活動が見えるものを出していこうとなりました。当時はまだB Corpの知名度も低く、日本では10数社ほどしか取得していなかったと思います。名だたる企業が取得していたことや、当社の活動が見えるのではないかと思い、B Corpを取得しようということになりました。そこから申請準備で1年、承認されるまで2年間ほどかかり、取得に至りました。
B Corpを取得する際、私達の審査員はオーストラリアの方でした。B Corp取得企業は、ニュージーランドのオルバ社など、自分たちで作っている商品がいかにサステナブルか、という観点で評価されています。その点で、私達は製品を生産していません。商品ではなく、当社のサステナブルなビジネスモデルに対して、B Corpの審査員の方々に評価をいただくことができました。とても嬉しく思っています。
今後は日本でも、B Corp認証取得企業で働きたいという方も増えてくると思うので、採用活動でもB Corp認証を活かしていければと考えています。
―― 御社の事業を推進するための原動力は、どこにあるのでしょうか。
河村 当社は、「ソーシャルグッドカンパニーであり続ける」というミッションを掲げて事業展開をしていています。そこに対する社員の共感がとても高いと感じています。社会的、環境的、経済的にも良いことができる。自分たちが頑張った分だけ、世の中のためになるということが、私たちの原動力になっていると思います。
今後の事業成長において、社員は当然ながら原動力になるので、これからも増員していきます。
当社のビジネスは、商品の仕入れを増やし、商品のラインナップを充実させて、ユーザーの皆さんが買いやすい状況を作ることが大切です。まずは仕入れをしっかり増やしていくことが重要になるので、マーチャンダイジングやマーケティング、そのシステムを作っていくような部署を強化していきたいと考えています。そこを軸に、全方位的に採用を強化していきます。
社員の提案から食の共創フォーラムを開催
―― クラダシ基金について教えていただけますか。
河村 当社の売上金の一部を使い、自社でも社会貢献活動に取り組んでいきたいという想いで立ち上げたのがクラダシ基金です。クラダシ基金の活動の一つとして、企業が変える「食」の課題解決をテーマに開催した、「食のサステナビリティ 協創・協働フォーラム2023」があります。
セッションやネットワーキングなどを通じて時代が求める経営・思考のポイントや、さまざまな取り組みの先進事例、協働事例を発信するとともに、「食」の課題の認知向上と解決に寄与する機会の提供を目指すものです。講演プログラムには、パーパス経営で有名な名和先生や、名だたる企業の方々にご登壇いただいています。今回のこのフォーラムは昨年に引き続き2回目になります。当社の齊藤をはじめ広報のメンバーが力を入れて取り組んでいます。
齊藤 昨年に続き、フォーラムを開催するということで、動き始めたのは5月からです。少しずつ準備をはじめ、本格的に動き出したのは7月からです。
当社の代表の関藤や取締役の河村から、「当社が色々なハブになり、ソーシャルグッドの輪を広げていきたい」という話を入社当時から聞いていました。そこで、私はクラダシの認知度向上、ソーシャルグッドな輪を創出するような機会を作りたいと考え、クラダシ取材のイベントやフォーラムをやってみたいという提案をしたんです。これがフォーラム開催のきっかけとなりました。
私たちは、当さのサービスのユーザーさまのみならず、「Kuradashi」にご出店いただいている食品メーカーさまなど、企業の信頼も獲得していきたいという考えがあります。フォーラムのような大規模なイベントを開催することで、そのようなことが可能になるのではと考えました。
社会貢献型インターンシップで学生と地域の交流を増やす
―― 最初のフォーラムが開催されたのは、御社が上場する前でした。
齊藤 1回目の開催は、企画を決めるところからイベント会社の選定、登壇者の確定など、はじめてのことだらけでとても大変でした。とても大変でした。上場後に開催した2回目の方が、スムーズに登壇者の方々にはお返事をいただくことができたように思います。前回の実績を、ある程度評価いただけたということも影響していると思います。
自分がやりたいということを、やらせてくださる経営層がいるということは、当社の魅力の一つだと思います。経営層と私たち社員が一丸となって、会社を大きくしていけばいくほど、大きな社会貢献につながっていきます。
―― クラダシ基金では、他にどんな取り組みをされていらっしゃいますか。
河村 「クラダシフードバンク」や、「クラダシチャレンジ」という活動に取り組んでいます。
フードバンクとは、企業から品質に問題がないにもかかわらず、包装の傷みなどで市場流通できなくなった食品の提供を受け、生活困窮者などに配給する活動、その活動を行う団体のことを言います。
当社は、そのフードバンクを支援する際に生じる「公平性」「安全性」「安定性」の3つの課題を解決することを目指し、食品を必要としているフードバンク団体と寄贈したい事業社のマッチングを行っています。
後者のクラダシチャレンジという活動は、地方に農業に興味がある学生を派遣して、農作物を収穫するお手伝いをしていただきます。人手不足によって収穫できなかった農作物はそのまま土に還るだけなんですが、未収穫の農作物は、実はフードロスの産出量には含まれていないんです。加味するとフードロスはもっとあるということです。
クラダシチャレンジで学生が収穫や加工などに携わった商品を、当社の「Kuradashi」で販売しています。その売り上げの一部でクラダシ基金を支援して、次回以降のクラダシチャレンジの活動に活用されます。
齊藤 このクラダシチャレンジは過去に33回開催してきました。「社会貢献型インターンシップ」という形で実施しています。興味を持ってくださる学生の方が多く、延べ200人ほどの方々に参加していただいています。
農業体験以外にも、過疎化や高齢化をしている地域の中で、関係交流を増やしていく考えもあります。一次産業の現状を知っていただきながら、地域のために何ができるかということを実際に考え、実行していける人、未来のソーシャルアントレプレナーを増やしていきたいという想いから、力を入れている事業です。
―― クラダシチャレンジを開催されている地域は、いくつあるんでしょうか。
河村 現在、累計14カ所の自治体と協力し、開催しています。この事業活動は、種子島からスタートしました。きっかけは、安納芋を「Kuradashi」で販売していたことです。その安納芋の農家さんと仲良くなり、収穫をお手伝いするようなったことからはじまりました。
齊藤 クラダシチャレンジは、毎月1回程度開催をしています。クラダシチャレンジの運営自体もクラダシの学生インターンの方々と一緒に企画案を考えながら取り組んでいるプロジェクトなんです。全国各地の大学生にご応募いただいています。
開催地域によっては、例えば他社と3社連携という形で取り組むこともあります。
河村 社会人の方からも、参加してみたいというお声をいただくことがあります。過去に一度、取引先の企業さまの採用、併用研修としてクラダシチャレンジを活用いただいたことがあります。人間性も見えるので、面接をするより良いかもしれません。
食のサプライチェーンを網羅していく成長戦略
―― 次の事業戦略にはどのようなことを見据えているのでしょうか。
EC事業である「Kuradashi」は本家本丸なので、さらに伸ばしていきます。この中に二つモデルがあります。一つは仕入れ在庫型で、弊社が全部買い取り、弊社の倉庫に入れるということがあります。もう一つが、マーケットプレイス型と言って、食品メーカーさんから弊社が買い取って、メーカーさんから直接出荷をしてもらう仕組みです。受注した分だけ出荷していただきます。この場合、在庫型とは違って倉庫のキャパシティが影響しません。故に拡張性高く、スケーラブルな形で強化していくことが可能です。
他に4つの事業展開を考えています。当社のサービスはオンラインサービスが中心となっていますが、たまプラーザの方にリアル店舗を出店しています。これを、「Kuradashi Hub」と呼んでいます。オンラインとオフラインの連携にも、今後取り組んでいきたいと考えています。
当社のオンライン販売のノウハウをデータ化し、食品メーカー様に開放していきます。ブランディングソリューションやマーケティングソリューションの提供ということで、「Kuradashi Stores」を提供していきます。倉庫の情報など、倉庫保管・フルフィルメント事業として「Kuradashi Base」、最後に「Kuradash Forecast」といって、ロスが出ないように需給予測を行うビジネスを展開していきたいと考えています。最終的には生産という部分までを手掛け、食のサプライチェーンを押さえていきたいと考えています。
フードロス削減のインフラをつくるために
―― 今後はどのような方々と、このクラダシの事業を創っていきたいとお考えでしょうか。
河村 私たちは中期的に、フードロス削減のためのインフラになり、社会にとって必要不可欠な存在になっていこうという想いをもって取り組んでいこうと考えています。当社のミッションとビジョンに共感する人たちが集まり、柱となっている事業を介して、実現していくことができる会社にしていきたいと思います。
自由に、かつのびのびと自分のやりたいことを具現化できるような、そんな環境の会社にしていきたいんです。今までにないことでも、自分たちが前例を作っていけるような、組織や人になっていこうということを掲げています。
私たちと一緒に働いていただきたい人の人物像でいうと、主体性があり、やりたいことを実現できる人、そしてアクセル全開で、スピード感をもってやっていける人です。明るく楽しく元気よくポジティブに物事に取り組めるということも大事にしています。
単純に体力的な「元気」ということではありません。物事に取り組む姿勢として、フードロスを削減するという世の中に良い事業に取り組んでいることを楽しいものとして捉えられるような。そんな方とこれから一緒に仕事をしていき、良い社会を共に創っていきたいと思っています。