今回ご紹介する株式会社FVPは、障害者の雇用や就労に特化したコンサルティング会社であり、経営の柱は「一般企業に向けた障害者雇用支援コンサルティング」「福祉施設向けの経営改善支援コンサルティング」「行政や自治体関連の障害者就労の研究調査受託」の3つを掲げる。
「障害者雇用で必要とされ続ける企業へ」というビジョンのもと、企業の雇用支援では、採用などの入り口支援だけではなく、そこからの定着支援に力を入れている。その主力となるサービスとして、臨床心理士や精神保健福祉士などの専門家が精神障害者雇用の現場を遠隔で支援する「ATARIMAEクラウド」を企業へ提供している。
取締役の大塚由紀子さん、そして法人営業を担当する上野利之さんが思い描く、障害者が当たり前に働く未来の社会とは。
障害者の経済的自立を実現するために
-大塚さん、この事業をはじめようと思ったきっかけを教えてください。
大塚:私は大学を卒業してから独立、その2年目にヤマト運輸元会長の小倉昌男さん(故人)に出会ったご縁がこの事業を始めるきっかけになりました。今から20年ほど前になります。
当時小倉さんが理事長を務めるヤマト福祉財団では、障害者施設職員を対象とした経営セミナーを全国で開催しており、そのセミナーで私が講師を務めることとなったことが転機でした。
はじめておたずねしたヤマト福祉財団の事務所で、小倉さんが仰っていたことは「日本には授産施設(*)など、障害者が働く施設があるが、そこでは月に1万円の給与しか払っていない。障害者の賃金がここまで低いのは、彼らの働く力が劣るからではなく、福祉の職員が経営を知らないからだ」ということを仰っていました。その小倉さんのその言葉の意味がその時は分かりませんでした。当時、駆け出しではありますが、私は経営コンサルタントとして生業を立てており、福祉とは全く関係ない世界で働いていたからでした。
しかし、そこから足掛け5年間、全国の障害者施設職員向けのセミナーで小倉さんと共に動くなかで、たくさんの学びがありました。つまり障害者施設ではたくさんの経済活動が行われていて、その収益を大きくすることで障害のある方の経済的自立が実現する可能性があるのだということ。それを実現するためにセミナーを続けているうちに、小倉さんの言葉の本質が理解できるようになりました。これは日本の未来にとって重要なことなのだと思うようになったのです。
障害者施設で働く障害のある方がより収入を得るために私にも何かできるかもしれないと思い、小倉さんにご相談にお伺いしたのが2003年の3月ごろでした。
障害者施設で働く障害者の方の給料(工賃)を引き上げるための福祉施設職員向けサービスの企画書を抱えてご相談に上がると、「福祉施設だけじゃ足りない」と叱られたのを覚えています。加えて「障害者を雇用するベンチャー(企業)も育てよ」と仰って。
実はそのときに社名も決まりました。「これから経営するならば、福祉ベンチャーだよ」という小倉さんのアドバイスもあり「福祉(F)」「ベンチャー(V)」「パートナーズ(P)」の頭文字をとって株式会社FVPと決めました。
-ありがとうございます。一方、上野さんは2021年にFVPにジョインされたと伺いました。ご入社のきっかけをお聞かせください。
障害者雇用コンサルタント上野さん
上野:私は、自分の弟に障害があったので、障害者福祉だとか障害者雇用のことには常に意識が向いていた気がします。障害のある人達が社会の中で活き活きと働いて生きていけるようになるといいなという気持ちは子供のころから漠然と持っていました。
障害者雇用に関わる仕事をするためには、社会に対する視野や、色々なスキルなどベースの力が必要だと思い、最初は幅広い企業を知ることができる採用の求人広告を扱う大手企業に就職しました。やりがいを感じていた仕事でしたが、転職するならそろそろ、という気持ちになっていたところFVPの求人広告に出会いました。「よし今だ!」という何か背中を押される感覚で応募していました。
現在は障害者雇用コンサルタントとして、障害者雇用のプランニング、そして採用支援などを担当しています。受け入れの企業側に障害者雇用をするためのマインドセットや部署の理解を促す必要があるので、その研修や、障害特性に合わせた環境をご提案することも仕事です。
支援先の企業のご担当者や障害者の方、支援者の方などいろんな方々と連携して仕事を進めるところに入社当初はやりがいを感じていました。最近は障害者の方が入社できたことだけでなく、継続して働くことができている、そして日々成長しておられると何らかの成果が見えたときが一番の嬉しさを感じます。また、当社の仕事は1つずつ丁寧に進めなければならないことが多いのですが、そのための勉強も多いこと、それも一つのやりがいだと思っています。
ATARIMAEクラウドで障害者雇用を変えていく
精神・発達障害者安定就業支援システム「ATARIMAEクラウド」。FVPのメソッドのノウハウをもとに開発されている。どんなことを目的として開発されてきたのかを上野さんに聞いた。
このATARIMAEクラウドは、特に精神・発達障害者の方の安定就業を実現することを目的として開発されました。背景には障害を持つ方の体調や精神面を見える化し、経営側と従業員のコミュニケーションを円滑にすることで、双方が安心して仕事ができる場を作るという想いがありました。
障害は大きく分けて、「身体障害」「知的障害」「精神障害」の3つがあり、中でも精神障害者雇用は毎年二けたの伸びを示しています。ところが、精神障害や発達障害などは、外から障害がわかりにくく、どのような配慮を提供すれば戦力として活躍してもらえるのか苦慮されている企業が少なくありません。
ATARIMAEクラウドは、業務日報を中心に、障害者雇用の現場担当者、人事担当者、外部の専門家が連携して精神障害、発達障害のある社員の定着と活躍を支援していく体制をつくることができるクラウドサービスです。
弊社の19年間の支援実績と障害者があたりまえに働ける職場づくりの手法であるATARIMAEメソッドのノウハウを元に開発されており、障害を持つ従業員の方のデータベースを元に、私たちがクライアントにできるアドバイスも格段に増えました。
また、入力された内容は、弊社に所属する臨床心理士や精神保健福祉士などの専門家も日々目を通しており、不安定な体調や心理状態の兆しがあれば、必要に応じて本人に声をかける、企業のマネジャーにアドバイスをする、といった対策を講じることができます。
精神障害者雇用の安定化を目的に、大企業では自社で臨床心理士は精神保健福祉士を雇用し、精神障害のある社員のケアにあたるという企業も増えてきました。医療領域は専門的なので、一般社員の雇用管理だけでは不安があるという理由です。
しかし中小・中堅企業は、臨床心理士や精神保健福祉士を雇入れることは困難です。専門家を取り入れなくても、精神障害、発達障害のある社員の雇用安定が実現でき、社会貢献できるサービスがATARIMAEクラウドだと考えています。
障害者とクライアント、そして社員、みんなが幸せになれる社会に
-御社が求めている人、一緒に働きたい人はどんな人でしょうか。
大塚:単に社会貢献性が高いとか、障害者の人に寄り添った仕事をしたいとか、業界が成長しているからという理由ではなく、一緒に会社を大きくしてくれる人を求めています。思いっきり仕事をして、人間としても成長したいと考えている人と会社を成長させていきたいと思います。自立と自律、両方ができる人材が来てくれると嬉しいですね。
コンサルティング業を主軸としている弊社は、お客様の訴えに対応するのではなく、まだ気づいていない課題を発見し、解決策や体制のご提案をすることが仕事です。一社一社、障害者雇用の課題は異なり、正解が用意されている仕事でもありません。
難しいと感じることもあると思いますが、仮説を立てたり、関係者の意見を調整したりしながら、その企業ならではの障害者雇用のあるべき姿に近づけていくお手伝いというのはとてもやりがいのあることではないでしょうか。そして、その先に障害のある方が当たり前に仕事をしている。その人たちの人生に関わる仕事に誇りをもって仕事をしてほしいと思います
弊社の経営理念のひとつに「社員の幸せ」があります。日々良いことばかりではありませんが、苦しいことも含めてやりがいだと思っています。「入社してよかったな」と社員の方々が思ってもらえること、働く喜びを実感しつつ仕事をしていただきたいと思っています。そんな社員達の働く喜びを大きくしていきたいと思っています。
-今後の目標や会社の展望を聞かせてください。
大塚:社員には常に「泣ける仕事をしよう」と言っています。自分が支援したクライアントに「雇用してよかった」という感想をいただけたり、就労した障害者の方から「働けるようになってよかった」という感想をいただけると本当に感動します。そんな感動を共有できる感受性が豊かな方、障害者や一緒に働く社員たちの思いを受け止められる方にATARIMAEクラウドを私たちと一緒に広めていただきたいと思います。
SDGsやD&Iという考え方は国際的に注目されていますが、当社ではずっと前から取り組んでいることです。障害者の法定雇用率を遵守するような社会に変わってきていることは素晴らしく、多くの企業で障害者雇用をより進めていくことができる社会になってきています。街中で障害者が働いているのが“当たり前”になる。そうした社会を目指して、これからも私たちは努力していきたいと思います。