「こどもちゃれんじ」や「進研ゼミ」などで知られている同社は、子どもから大人までを対象とした幅広い教育、そして介護などさまざまな事業を手がける。岡山で創業した「福武書店」から始まり、今日に至る歩みには、企業理念をベースとした確固たる理想と世界観があった。
サステナビリティ推進の軸は〝人〞
「Benesse(ベネッセ)」は、ラテン語の「bene(よく)」+「esse(生きる)」から成る造語で、よく生きる(=well-being)という意味です。
創業者・福武哲彦の急逝に伴い、東京から本社のある岡山に戻った福武總一郎(現名誉顧問)が「人間の本当の幸せとは何か」を考え、これからは「人」を軸とした事業を展開しようと決意。1990年にフィロソフィーブランドとして「Benesse」を導入し、1995年に現在の社名となりました。企業理念をそのまま社名として冠したのがベネッセという会社です。
私たちが追求してきたテーマは、SDGsが目指す未来像と一致するものだと考えています。
世界が大きく変わる中で、SDGsが生まれる前の1990年から「よく生きる(well-being)」を掲げてきた会社として、社会課題に対しどう貢献していくべきか。私たちはまず、さまざまな社会課題を、人を軸に捉え直し、基本方針となるサステナビリティビジョンや今後の重点活動(マテリアリティ)を策定しました。
私たちのSDGsへの貢献の一つ目の柱は「教育」です。教育を通じて、将来的に17のゴールすべての解決に寄与する人材の育成に貢献できるのではないかと考え、SDGsでは4番目のゴール「質の高い教育をみんなに」を中心に取り組んでいます。
さらに、17のゴールにはありませんが、高齢化は日本が世界に先駆けて直面している大きな社会課題です。そこで、私たちは「超高齢社会」を18番目のゴールと捉え、長年の介護事業で培ってきた知見を元に、この課題への取り組みを行っています。
ベネッセの企業理念「よく生きる」は一人ひとり異なり、ただ一つの正解があるものではありません。このため、社員が折に触れて、何度も立ち戻って考えるのが「よく生きる」という企業理念です。
それぞれの価値観や思いを持ちながらも、さまざまな人の経験を聞き、対話を通じながら考え、理念をどう仕事に活かしていくか―ということを大切にしています。サステナビリティ推進も、この企業理念がすべての起点になります。
社員に対して、一人ひとりがベネッセの未来を考える「サステナビリティStudy」というwebスタディ(研修)を昨年から実施していますが、「よく生きる」を実現するためのさまざまな取組み事例や、今後の挑戦テーマなどが約4千人から集まり、その声を経営に届けました。これからもベネッセらしい社会貢献を、事業を通じて拡げていきたいと考えています。
子どもたちへのSDGs教育、社会人教育で学び続ける大人を
教育を通じたSDGsに貢献する人材育成の取り組みについて、二つの事例をご紹介します。一つ目は子どもたちへのSDGs教育です。通信教育〈こどもちゃれんじ〉の人気キャラクター「しまじろう」が登場する「しまじろうのわお!」というテレビ番組で強化しているのが、SDGsの思想を取り入れたコンテンツです。
例えば、義足のサッカー選手が登場する回で、しまじろうは幼児と同じ目線で「その足はどうなっているの?」とストレートに選手に問いかけます。多様性やジェンダーの問題は、大人はどのように子どもたちに伝えたらよいか迷うこともあるはずです。でも、しまじろうなら、一緒に興味を持ち、一緒に自然に学び、時代に合った意識を身につけることができる、そう考えて番組制作を続けています。
また、子どもだけではなく、社会人教育にも重点を置いています。ある調査(i)では勤務先以外での学習や自己研鑽について「何もしていない」と回答した人が46%にも上りました。これはアジア諸国で突出した高さです。
私たちは、大学を卒業したら勉強をしない人が多いというこの事実を、「大人が学ばない」という社会課題と捉えました。そこで、未来に向けて大人が学び続ける文化を社会全体として醸成していく、その発信地になることを目指して、動画学習のプラットフォーム〈Udemy(ユーデミー)〉(ii)など、「学びのインフラ」整備にも力をいれて取り組んでいます。
(i) パーソル総合研究所「APAC休業実態・成長意識調査(2019年)」
https://rc.persol-group.co.jp/research/activity/data/apac_2019.html
(ii)米国法人Udemy,Inc.が運営する世界最大級の動画学習プラットフォーム。ベネッセコーポレーションは2015年よりUdemy,Inc.と協業を開始、2020年には同社と資本提携を行っている。
介護現場で培ってきた「暗黙知」や「実践知」を言語化し公開
介護は、「ベネッセスタイルケア」が取り組む事業です。介護事業に興味を持つ方には、なぜベネッセが介護に参入したのかを伝えるようにしています。背景にあったのは、福武總一郎自身が祖母の介護に関わった実体験があります。
「これまで日本をつくってきた人たちが、年をとればとるほど幸せになる社会にしていきたい」、そう考えて介護事業を始めようと思ったこと。その上で、介護は参入したらやめることはできない、ご高齢者の住まいを奪うような撤退はできない、その覚悟を持って、ベネッセと社名を変更した1995年に始めました。
現在、介護に携わる社員は、「その方らしさに、深く寄りそう。」という介護事業のブランドメッセージをみんなで共有し、実践のための対話をしています。
例えば日々の仕事の中で、ご入居者様と一緒に過ごしていると、ともすればその方の多くを分かった気持ちになってしまいます。でも、その方には介護が必要でなかったその前の人生があります。その人生を知る努力をしよう、そうすることで深く寄りそい、尊敬の念を抱くことができる。このような共有や対話を繰り返し行いながらお客様と向き合うことで、日々の仕事の中で企業理念「よく生きる」が浸透し、それを体現する仕事ができていると感じています。
また、企業としての社会貢献の取り組みとして、介護現場におけるさまざまな暗黙知や実践知を言語化し、再現可能にしたものを「ベネッセメソッド」と名付けて公開したり、『介護アンテナ』というポータルサイトでは、介護施設や在宅で介護をされる方の困りごとを解決するためのコンテンツを無償で提供しています。
これによって、介護に関わる方が誰でも使えるノウハウや知見を、社会に還元することを目指しています。
介護についてイメージを持てない、という方も多いと思いますが、今のご高齢者はとてもお元気な方が多いです。そんなお元気なご高齢者を見て、そのADL(日常生活動作)はもちろん、QOL(人生・生活の質)にも目を向け、何ができるか?を考えることで、介護への見方は大きく変わるのではないでしょうか。
世の中の問題を「自分ごと」化、学ぶことに前向きな人に
最後に、ベネッセが求める人材像についてお話しします。SDGsが掲げる17の目標もそうですが、世の中の問題は明確に分かれておらず、すべてが少しずつ重なり合っています。
そうした複雑な問題をまず「自分ごと」として関心を持つことが大事だと思います。その上で「粘り」も大切です。私たちが携わる教育などに対するさまざまなご意見を聞きながら、時間がかかっても前向きに、本来の目的を失わず実態をつくるために粘ることはとても大事だと考えています。
また、学ぶことに前向きなこと。一般的に「Study(スタディ)」が得意な方が多いですが、それだけではなく「Learn(ラーン)」、日々の仕事の「経験から学ぶ」ことを大切に、答えのないゴールに向かって学びながら、自分で道を切り拓くことができる方を求めています。
ベネッセはお客様の「よく生きる」を支援し、それが大好きな人が集まっている会社です。そのような人の支援を仕事にしながら、自分も成長したい。「よく生きる」の支援を「事業として取り組みたい」と思う方に是非来ていただきたいです。
『こんな会社で働きたい SDGs編』より転載。
株式会社ベネッセホールディングス 取材日:2021年1月14日 設立:1955年1月 事業内容:教育、介護・保育、語学、その他 資本金:137億円 売上高:[連結]4485億7700万円(2020年3月期) 従業員:[連結]2万673名(2020年3月現在) 本社住所:〒700-0807岡山県岡山市北区南方3-7-17 電話番号:086-225-1165 URL:https://www.benesse-hd.co.jp/