「日本一の感動企業を目指す」。大阪を拠点に、ビルメンテナンス事業を展開する株式会社ベルの企業理念だ。同社はビルメンテナンスを「環境改善業」と表現する。人も建物も明るく元気になれる環境を実現することを使命としている。
企業とは何か、働くとは何か、社会に提供すべき価値とは──。創業社長である奥斗志雄氏の信念を聞いた。
会社は「社会の公器」
私たち株式会社ベルは1992年、「ベル美装」としてスタートしました。
当初の主な事業内容は「清掃」が軸でした。建築美装(注文住宅などの工事中についた汚れを落とすこと)、事務所や工場の窓ガラス掃除、床のワックスかけなどを中心に事業を進めていました。
事業が拡大したのは、当時社長である私自身が電気工事士などの資格を持っていたことで、消防や空調などの設備点検・修理も請け負うようになったことが大きなきっかけでした。そして、創業4年目の1996年に、ビルメンテナンスを主な事業とする「株式会社ベル」として法人化しました。
創業時からの社名である「ベル」は、イタリア語で「美しい」「きれいな」「すばらしい」という意味を含む「bèllo」という言葉が語源なんです。そこに、電話のベルがどんどん鳴って仕事が入ってきてほしい願いと、「ル」という文字の右側のように、会社が右肩上がりに成長していってほしいという思いを重ねました。
自身で何らかの事業を興し、社長になるという想いを昔から持っていました。同時に企業は「自分個人のもの」ではなく「社会の公器」として成長させていくことが大切であるので、その考えで事業を進めています。
「ありがとう」は当たり前。「さすがプロ!」と言ってもらえるサービスを
創業から30年ほど経ちますが「ベルさんに頼みたい」というお客様の声をたくさんいただいています。私の当初からの目標でもあった「選ばれる会社」で在り続けること、それを実現しているからこそ今がある。同業他社も多い中で成長を続けていますが、それは何より利益よりもまず「お客様に喜んでもらう」こと、お客様のニーズに寄り添うことを徹底してきたからだと思っています。
それを象徴する言葉が「ありがとう! そこまでするか! さすがプロ!」です。期待されたとおりの仕事をして、お客様に「ありがとう」と言ってもらうだけでは十分ではありません。それ以上にお客様の期待を超える結果を出し、「そこまでするか!」「さすがプロ!」という感動に近い感情をもっていただいて初めて、本当の「仕事」です。
例えば、お客様が言葉に出さないところ、表情や言葉の真意をくみ取って、本当にお客様に喜んでいただく仕事をする。物の陰やその下をきれいにすることや、慣習にとらわれず最善の技術を提供していきます。そうすることで次に仕事がつながっていくでしょう。
本業である清掃や修理などをきっちりやるのは当たり前のこととして、私たちはスタッフの全体的な「見た目」にも気を遣って仕事をしています。お客様のところへ伺う社用車はピカピカ、道具の手入れも常に万全。スタッフの服装も、きれいな制服で清潔感を大事にしています。同じ仕事でも第一印象がいい方が、お客様の受ける印象も変わってくるからです。
あいさつやご報告は一つひとつしっかりお伝えします。お客様のところへお伺いして、ものを動かす必要があるときは、養生をしっかり施し決して傷を付けません。こういった、お客様に寄り添った配慮の一つひとつが積み重なって、心に残るサービスを生み出しています。
私たちの仕事には、はっきりとした形はないんです。つまり「人」がすべてなんですね。それが会社としての社会的信用となり、会社にとっての資産となっていきます。
お客様からのご依頼に携わった担当者が、全力を尽くし「プロフェッショナルとしての仕事をしている」「やるべきことをやりきっている」という自覚を持つことは、働く上での誇りになります。そして「この会社で働いていてよかった」という実感は、そのまま社員の成長、つまり幸せにつながっているんです。
当社は大企業ではありません。しかし私たちと一緒に働く人には、大手でも通用するスキルやマナーを身につけてほしいと考えています。お客様に感動を届けるには、そういうマインドやスキルが必要だと考えているからです。
社員の仕事に対しては、しっかりフィードバックをし、仕事を成長の機会にしていきます。さらに現場スタッフの勉強会も定期的に開催し、お客様に感動していただくためのレベルを追求する努力を怠りません。
関わる人すべてが幸せになる街──ベルシティ構想
当社事業の根幹にあるのは、「関わる人すべてを幸せにしたい」という想いです。自分、社員、その家族を幸せにする。私たちはこの事業を通して「幸せ」を広げていきたいと考えています。その幸せを広げていくためには、企業としてただ利益ばかりを追求するだけでは足りません。理念やビジョンに基づいて事業を推進し、自分たちの理想をつくり実現しながら成長していかなくてはならない。
そこで10年ほど前に、社員の皆さんに「どんな会社であってほしいか」というテーマで意見を募りました。それを集約して、私たちのあるべき姿としての「ベルシティ構想」を策定したんです。
「ベルシティ」とは、そこに関わるすべての人が幸せになる街です。その中心には、「夢を叶えられる」「働きがいを感じる」「自分の能力を発揮できる」「社会の役に立っている」「お客様に必要とされている」、社員一人ひとりがそんなふうに感じながら働くことのできる「ベル」がある──。そうした姿を、常に思い描いています。
社員に成長するチャンスを。事業分野を拡大
その実現に向けて近年は、ビルメンテナンス事業のみならず、さまざまな分野へと事業を広げつつあります。どれも社会にとって大きなニーズがあることを感じているとともに、社員にとっても、さらなる成長ができる機会を与えたいと考え踏み出したものです。
たとえば、鳥害で困っている人がたくさんいることを知り、「その人たちが一番安心して任せられる会社になろう」と立ち上げたのが、鳩対策商品の販売や鳩対策工事などを請け負う「日本鳩対策センター」です。
ニッチな分野ですが、その分野で日本一になりたいと考えています。
また、社員に安心して働いてもらうためには、介護や保育の問題も重要だということも考えています。「ふくふく保育園」という企業主導型保育園を立ち上げました。「会社が運営する保育園」のことなのですが、当社の社員だけでなく地域の親御さんも安心して大事なお子さんを預けられるよう、柔軟な保育サービスを提供できることが特徴です。
さらに訪問看護や歩行訓練特化型のデイサービスを提供する「介護事業部」も事業化しています。介護事業は「自分や自分の家族が入りたいと思える施設を」と思い、事業を開始したのですが、実際に社員の家族や元スタッフだった方も利用してくれるようになっています。
そして、地域の企業勉強会が前身となった人材育成の場である「きらめく5S学校」があります。5Sは「整理」「整頓」「清掃」「清潔」「しつけ」の頭文字を取った、社内環境整備のスローガンとしてよく使われる言葉ですが、私たちの学校は足利流の5S理念を直接取り入れた、一般的な「ルールを守る」だけの5Sを教えるものではありません。
自分で考えて主体的に行動することで働く環境を整え、そしてそのやり方を社内に浸透させていくための「改善コーチ」の育成に取り組んでいます。
こうした各事業を、ここ数年のうちにそれぞれ事業会社として独立させ、そのすべてを持株会社「ベルホールディングス」が統括するという形をつくっていきたいと考えています。
「日本一の感動企業」になり勇気と感動を届ける
ベルは企業理念として「日本一の感動企業になる!」という言葉を掲げています。
事業の規模や利益の拡大を目指すことも企業としてもちろん大事です。しかし、私たちの働き方や生き方を通じて、多くの人に勇気や感動を与えることができる企業を目指したいと思っています。
すべての従業員が生き生きと誇りを持って働き、自分の子どもにも勤めさせたいと思える企業。そして、お客様からは「ベルがないと困る」と言っていただき、私たちの存在そのものが社会貢献であると表現できる組織でありたい。その想いが通じているのか、お客様の9割以上が他の清掃、メンテナンス会社様からのお乗り換えです。
これから私たちと一緒に働いてくれる人たちとは、企業理念や理想を共有し、共に成し遂げようとしてくれることが大切だと思っています。そして、仕事相手やお客様を思いやることができる優しさや強さ、相手に関心を持ち、ニーズを推し量る力といった「人間力」を何よりも重視したい。それがないと、お客様にとっての感動を届けられませんから。
「人間力」を身に着ける、といってもそれは基本的なことです。朝、しっかり挨拶をすることなどですが、人間力をつけるために、社員同士のコミュニケーションの場を作っています。例えば、最近では社内で夏祭りを開催しました。準備をすることは大変ですが、それさえも社員と楽しみながら開催しました。共に働くことの喜びや思い出をつくることができるのも、私たちの企業文化です。
スキルや能力は入社後にも研修を通して身に着けることができます。それよりも大事なのは、ぶれることのない「自分」がしっかりとあるかどうかです。今働いている社員たちもみんな、それぞれが自分の個性を生かしながら、自分らしく働いています。
理念を共有し、「お客様に喜んでもらうこと」に注力してくれさえすれば、働き方は多様であっていいと思うのです。誰もが「自分の成し遂げたいこと」を実現し、一人ひとりが自分らしい未来を描ける企業。それが私たちだと考えています。
関わる人すべてを幸せにできる「唯一無二の感動企業」になるために、そして「ベルシティ構想」を実現していくために。力を貸してくれる皆さんを、心からお待ちしています。