
プロフィール
久保田 正崇
1998年青山監査法人入所。2002年から2004年までPwC米国シカゴ事務所に駐在し、帰国後、2006年にあらた監査法人(当時)に入所。多数の通信事業会社に対する、日本・米国・IFRSでの監査、会計・内部統制・コンプライアンスに関わるアドバイザリー業務に従事するとともに、テクノロジー企業に対する東京証券取引所IPO支援、J-SOX導入、IFRS導入をはじめとする各種アドバイザリー業務を主導。2020年執行役副代表に、2024年7月よりPwC Japanグループ代表に就任。
産業の枠組みを超えた価値が求められる時代に、PwCはどのように社会変革の原動力となるのか。PwCの歩みを紐解きながら、企業や社会に対して提供してきた価値と、次世代へ託す思いを探る。
※『徹底解剖! 総合コンサルティングファーム就職・転職ガイド』(クロスメディアHR総合研究所著)から一部を抜粋し、掲載。
PwCが築いた幅広い経営支援
PwCのルーツは、ロンドンで事業を開始した1849年にさかのぼります。当時は、「資本主義」や「株式市場」という概念が登場し始めた頃でした。しかし、情報インフラは未整備であり、投資家が企業の実態や経営者の真意を見極めることは困難でした。そうした企業と社会との間に存在する情報の非対称性を解消するためには、独立した第三者による信頼性の補完が必要不可欠でした。その社会的ニーズに応えるかたちで誕生したのが、会計事務所という存在です。
PwCネットワークは世界各国で運営される独立ファームによって構成される集合体です。日本におけるPwCの歩みは、1949年に神戸で開設された会計事務所に始まります。その後、PwC Japanグループは時代とともに進化し、監査以外の領域を専門とする法人が加わりました。PwCコンサルティング合同会社も、そのひとつです。
もっとも、当初からコンサルティング領域へと事業を広げていたわけではありません。高度経済成長期のコンサルティングファームの存在感は決して高いものではありませんでした。その後、「デジタル化」や「グローバル化」の進展により、企業の経営課題が複雑化したことを契機にコンサルティングへのニーズが高まり、現在の事業領域にまで拡大してきました。
外部からの客観的な視点が求められるようになり、会計や税務に関するビジネスも拡大すると同時に、高度化していきました。その流れの中で、会計システムのデジタル化を支援したことが、コンサルティング事業の起点となります。
真に価値を生み出すためには、それを使いこなせる業務や組織、さらにはビジネスそのものを変えていく必要があります。こうした変革を支援する中で、PwCのコンサルティングは戦略、組織、人事へと領域を広げてきました。
「信頼」と「変革」の両方を実現する
PwC Japanグループでは、2024年に「Trust and Transformation(信頼と変革)」を経営目標として掲げました。
現代社会は、サステナビリティ、AI、人口減少など、複雑な課題に直面し、同時にそれらの解決策も次々と生まれています。しかし、どれほど革新的なソリューションであっても、社会に受け入れ、定着させるためには「信頼」が不可欠です。
生成AIは登場当初、情報漏洩への懸念から多くの企業が導入に慎重な姿勢をとっていました。たとえば、自動運転も社会実装には安全性や信頼性への不安を解消することが前提です。価値観が多様化し、人々が「何を信頼すべきか」に迷っている状況の中で、私たちは、適切な方向性を示し変革を支えていきたいと考えています。
当グループは、会計事務所としての出発点から、監査、ディールアドバイザリー、税務、法務、そしてコンサルティングへと事業領域を広げていきました。そこで培ってきた「総合力」こそが、私たちの強みです。いまや、「多品種少量生産」の時代に入り、単一分野の知見だけでは複雑な経営課題に十分に対応することが難しくなっています。多様な専門性を結集し、総合力を生かしてこそ、クライアントの課題解決に大きな価値を提供できると考えています。
企業経営を、あらゆる領域から支援してきたからこそ、私たちは複雑な課題を紐解き、新たな信頼のかたちをつくり出すことができると考えています。課題を解決するための新たなソリューションと、それを社会に根づかせるための信頼。その両方を提供できることが、PwC Japanグループの価値であり、私たちの強みです。
産業の枠組みが変わる社会での役割
「AIが、今後10年間で世界経済の生産量を最大15%押し上げる可能性がある。」というのは、PwCが発表した「Value in Motion」レポートで示されている見解です。データが相互につながることで、AIはこれまでにない価値を生み出す可能性を持っています。
これまでの社会は「運輸」や「通信」、「小売」といった産業区分を前提に成り立っていました。しかし今後はこうした境界が曖昧になり、社会的価値の所在そのものが移り変わっていくと考えられています。たとえば、従来の医療分野は病院や製薬会社が中心でした。しかし、スーパーの売り場で、買い物客一人ひとりに、「あなたの健康のためにこの食品をおすすめします」と表示され、さらに割引クーポンまで提供されるとしたら、それは小売の取り組みであると同時に、予防医療の一環とも言えます。もはや、従来の産業区分では、実態を捉えきれません。
従来の産業構造は、ピラミッド型で上から下へと価値が流れるものでした。今後は、データを介して産業同士が横につながり、異なる分野に散在していた要素が新たな組み合わせによって価値を生み出していきます。その変化のスピードは速く、先を正確に見通すことは容易ではありません。だからこそ、PwCは企業の変革に伴走しながら、価値創出を支援していきます。
そうした思いも込めて、PwCは2025年4月、14年ぶりにブランドを刷新しました。「モメンタムマーク」を含む新しいロゴは、クライアントの変革の原動力となり、クライアントと共に前進し続ける存在でありたいという姿勢を表しています。
このブランド刷新に連動し、PwCが社会やクライアントに対して果たす役割を再定義する「so you can」というブランドキャンペーンも全世界で展開しています。変化への対応を促す原動力としての機能を果たすことが、私たちの使命です。
根源的な欲求が新たな価値を生む
これからの時代、社会は、人間の根源的な欲求を起点として、改めてつながり直していくと考えています。
たとえば、物流の役割は単に「物を運ぶ」だけではありません。食品を届けるという行為は、「食べたい」という人間の欲求を満たすことにつながります。こうした視点こそが、新たな価値創出の出発点になります。
根源的な欲求には必ず「データ」が存在します。「誰かとつながりたい」という欲求は、写真の共有やメッセージのやりとりといった行動を通じてデータ化されていきます。欲求が可視化され、蓄積されることで、次の価値創出につながります。
もっとも、「価値が人間の欲求へ移っていく」という考え方だけでは、具体的なビジネス戦略を描くことはできません。そこで私たちは、産業の中に存在する「価値」を構造的に捉えるための地図として「産業アーキテクチャ」という考え方を掲げ、このアプローチをモビリティ産業で実践するため「スマートモビリティ総合研究所」を立ち上げました。
従来の自動車産業は、メーカーと部品サプライヤーによる製造ラインを中心に語られてきました。しかし、企業は「エンジンをつくる」「部品を供給する」といった役割の枠組みから、解放されつつあります。
そこで重要になるのが、「自動車がA地点からB地点へ移動するデータに、誰が価値を見いだすのか」という問いです。そのデータを必要とするのは、人の動きを把握したい「飲食店」や「エンタメ業界」かもしれません。移動距離そのものが患者の負担や医療リスクになる「医療業界」、あるいは移動距離が事故リスクや保険金支払いと直結する「保険業界」かもしれません。
こうしたニーズが顕在化していくと、次に問うべきは産業の在り方だけでなく、「どういう社会を設計していくのか」という視点です。私たちは、企業が新しいシステムに適用していくための変革を支援すると同時に、社会の在り方そのものを議論できる存在でありたいと考えています。

信頼される組織となるために
社内での信頼関係も極めて重要です。私たちは、新しい仕組みを導入する際には、誰に対しても説明可能な透明性の高いプロセスを通じて構築することを心掛けています。社員が経営陣を信頼していない組織では、外部から信頼を得られません。そのためには、立場に関わらず意見を交わせるオープンな環境を整えることが求められます。
多様な意見を受け入れることは、決して容易なことではありません。それでも私たちは経営としてのスタンスを明確に示しながら、社員の声に耳を傾け続けることを大切にしています。社員からの問いに対して、あらかじめ用意した「正解」を示すのではなく、対話を通じて考え続けること。この積み重ねこそが、信頼を育てます。上に立つ者は、問いに真摯に向き合い、誠実に答え続ける姿勢が求められます。このようにPwCには「Speak Up」というカルチャーが存在しています。
私自身、これまで上司には自分の意見を率直に伝えてきました。そしていま若手社員たちも私に対して自由に意見を述べてくれています。彼らが将来、経営陣や上位職階を担う立場になったときにも、多様な意見に耳を傾ける姿勢は受け継がれていくでしょう。この「Speak Up」カルチャーは、今後も変わることはないはずです。
変化の激しい時代において、組織が総合力を発揮するためには、多様な人材の存在が不可欠です。全員が同じ方向を向くのではなく、それぞれが自分の強みを発揮できる組織であること。そのために、一人ひとりが変化の兆しに気づき、対話を通じて次の一歩を生み出せる人であってほしいと考えています。
唯一無二のプロフェッショナルへ
先ほど、私たちは「変革の原動力」になることをお話ししました。そこには、自ら変化を導くだけでなく、異なる存在をつなぎ、新たな価値を生み出すことも含まれています。企業や大学、政府などを結びつけ、新しいケミストリーを生み出し続けることも私たちの重要な役割です。
私たちはPurpose(存在意義)やStrategy(ビジネス戦略)を実現し、Values(価値観)を体現する行動を、PwC Professionalと定義しています。Trusted Leadership(信頼し、信頼されるリーダーシップ)とDistinctive Outcomes(比類なき成果)で構成され、その2つの側面を実現するための6つの主軸行動―「Inspire(惹きつける)」「Empower(力づける)」「Evolve(進化する)」「Champion(守る)」「Build(築く)」「Deliver(届ける)」-を設定しています。これらの行動を実践してこそ、グローバルネットワークでつながった私たちの可能性を最大限に活かすことができます。
もっとも、最初からすべてを完璧にできる人はいません。だからこそ採用においては、スキルや経験以上に、私たちの考え方に共感できるかどうかを重視しています。「これだけは譲れない」という自分ならではの強みを持ち、そのうえで互いの個性を尊重し合ってほしいと考えています。
私たちのカルチャーの根底にあるのは一人ひとりがプロフェッショナルであることを前提に、互いを尊重しながら、自ら考え発信できることです。ひとりでできることには限りがありますが、社内外のエキスパートとつながることで、自分の能力をはるかに超える成果を実現することができます。その過程で、社員自身も成長していきます。
今後、AIのさらなる進展によって仕事の方法が大きく変わっていくと思います。しかし、仕事の楽しさの本質は、自分自身が意義を感じ、他者から認められる、といったその成長過程にあることは変わらないのではないでしょうか。その実感は誇りへとつながります。正解が用意された仕事は、漸減してきています。だからこそ、自分なりの問いを立て、他者とつながりながら答えを見いだしていく人が求められています。そうした姿勢を持つ人こそが、これからの時代における「プロフェッショナル」だと考えています。
パーパス(存在意義)
社会における信頼を構築し、重要な課題を解決する
世界情勢やビジネス環境が大きく変化し続ける中で、PwCが意思決定のよりどころとしているのが、このPurposeです。複雑化する課題に向き合う際、何を基準に判断するのか。その軸を明確にすることが、組織としての一貫性と信頼につながると考えています。
Grow here. Go further.
一人ひとりの成長がPurposeの実現につながる
PwCでは、個人の持続的な成長を通じて、組織全体の持続的な成長を実現することを志向し、グローバル共通のPeople Value Proposition(従業員にとっての価値)を定義しています。PwCで働くメンバーの成長を支援し、その力で組織の成果を最大化することで、クライアントや社会により大きな価値を提供していきます。
Shaping tomorrow(未来を形作る)
・今と未来を見据え重要な課題を解決し、人々や社会に影響をもたらす
・クライアントと協力し、実践的な専門知識や多様な経験を得る
・最先端のテクノロジーを活用し、イノベーションを起こす
Committing to growth(成長にコミットする)
・コーチングと建設的なフィードバックを通じて自らの成長を加速させる
・周囲の支援を求め、自分ならではのキャリアを築く
・有意義でチャレンジングな仕事を通じて成長する
Bringing your best, every day(毎日最大限の力を発揮する)
・批判的視点を養い、リスクを管理して品質高く卓越した価値を提供する
・一流から学ぶ
・自分自身の枠を広げ、新たな可能性を構想する
Embracing inclusion, driving impact(インクルーシブに影響を与える)
・信頼できるインクルーシブなチームと協働する
・一人でやろうとしない、独りよがりにならない
・Purpose(存在意義)を追求する人々との居場所を見いだす
「徹底解剖! 総合コンサルティングファーム就職・転職ガイド」
クロスメディアHR総合研究所/クロスメディア・パブリッシング刊
ありそうでなかった「総合コンサル志望者」のための一冊
本書は、読者の方々が自分に合った企業を見つけ、適切なキャリア戦略を立てるために、実践的な情報を提供します。
たとえば、就職・転職者が知りたい、業界の全体像、今後の展望、キャリアパス、注目企業、働き方、選考の概要と具体的な対策などをじっくり解説。日本で数少ない成長産業として、就職・転職いずれも人気が高いこの業界について、徹底研究しました。
本文中では、就職・転職に関連した網羅的な情報に加え、業界を牽引する企業へのインタビュー取材を通して、業界・各企業の魅力や考え方、社会的意義などを深掘りします。また、多くの「就職・転職経験者の声や実例」から、つまずきやすいポイントをピックアップ。
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