2026.06.09

株式会社サンケイエンジニアリング 海外に出て気づいた、日本の「ものづくり文化」の本質

代表取締役社⾧
笠原 久芳さん

笠原 久芳(かさはらひさよし)/神奈川出身、琉球大学理学部海洋学科卒業。西武百貨店入社。1989年サンケイエンジニアリング入社。金属加工経験ゼロながら、NC旋盤などの工作機械を購入し独自に製品をつくり始める。1996年に初代技術センターを立ち上げる。2004年代表取締役社長に就任。海外進出を経て、「日本の中小製造業を世界の中核へ」というMISSIONを掲げ、未来へ向けて始動している。

「納得感」にこだわる日本のものづくり。その強みを武器に、中小製造業を世界の中核へと押し上げる——。創業以来、現場と向き合い続けてきたサンケイエンジニアリングが、20年をかけて築いた異色の支援モデルがいよいよ実装のフェーズへ。笠原社長の想いと覚悟に迫ります。

「ものづくり」こそが日本文化の根底にあるのではないか――私は海外に事業展開したことで、そのことに気づかされました。

2010年頃のことです。リーマンショックを受けて日本市場の今後に危機感を抱いたことから、海外移転を検討し始めました。円高で大手顧客の国内工場閉鎖が相次ぎ、怒涛のごとく海外へと移転していった頃です。その事態を見て、「国内に市場がなくなる。これはまずいかもしれない」と危機感を抱き、海外への本社と工場の移転を計画しました。そうしてアジア・欧米諸国を視察する中で、日本のものづくりの特性に気づきました。

それは、「現場の雰囲気」の違いです。製造現場にいる人たちが創意工夫をしながらつくり上げる様。「ここまでやるのか?」という気の配り方。そこにあったのは、いわば日本のものづくりにおける、つくり手の「納得感」でした。

ものづくりの現場を見てみると、どの工程でも、納得感を追求して仕事をしています。その結果、日本でつくられるものの品質は、高い信頼性を得てきました。こうした職人文化は、江戸時代、否、それ以前から深く根づいてきたものです。おそらくその文化が脈々と現代まで受け継がれているのだと思います。

そして中小製造業に目を向けてみると、現場ではその文化が見事に体現されている。だからこそ、日本の中小製造業から世界に通用する製品・部品をつくり続けることができているのではないでしょうか。

作り手の納得感や手応えを追求し、職人文化が製造現場に根づいている日本。ものづくりにおいて、こんなにいい国はない。私は率直にそう思います。

海外では利益を優先する傾向が強く、納得感を追求する文化は日本ほど一般的ではありません。時として日本は、利益よりも、使用時の利便性(気遣い)や見えない細部の丁寧さを大事にします。それが品質を支え、諸外国の製品とは一線を画すものになったのだろうと考えています。

ただ、一方で世界的な「ビジネス」として見た時に、納得感にこだわる日本のものづくりのよさは伝わっていません。むしろ価格の安い諸外国の勢いに押されています。

製造業の世界情勢が変化していく中で、従来のやり方では売上と利益を生み出せない。それゆえに会社を変化させられず経営自体が行き詰まってしまう。納得にこだわりながら新しい物事を生み出すには、人を育て、設備を導入する必要があります。そのためには資金が必要です。人材の採用と育成、資金調達と収益力の向上がうまくいかず、納得にこだわることが足枷になってしまった。

私は、そうした中小製造業の例を数多く目の当たりにしてきました。弊社はもともとファブレス(自社工場を持たない生産体制)だったため、製造を外部委託していました。その際、エンドユーザーとなるお客さまの要望を伝えても、「できない」とつっぱねられることが少なくありませんでした。要求が高かったのではありません。「できない」の裏にあったのは、「自分たちのやり方を変えたくても変えられない」という企業の事情があったと考えています。

「お金がないからできない」「人がいないからできない」「設備がないからできない」と、断らざるを得なくなっている。「ああ、もったいない」と感じると同時に残念に思っていました。ものづくりにこだわる強みを、売上や利益につなげることができていなかったのです。

それでも、ものづくりへの納得感を突き詰めるこだわりには、やはり目をみはるものがあります。世界の製造業と比較してみると、この「納得感」はポテンシャルとも言えるのではないか。これがポテンシャルであれば、日本の中小製造業は、世界でもっと活躍できるのではないか。そう考えるようになりました。

日本のものづくり業界を活性化させようと、次に国内の中小製造業に関する調査を進めました。そこで見えてきたのは、「ものづくり以外」の新しい取り組みができない、中小製造業の直面していた現実です。仕組みもツールもなければ、時間も人材もない。ないものづくしの状況で、文字通り「ものをつくる」だけになってしまう。

ものづくりにすべての経営資源を集中せざるを得ないため、必然的にその他が枯渇する。これは、多くの日本の中小製造業の課題と言えます。営業はもちろん、人材の採用や教育、組織体制の見直しなど、「ものづくり」以外の経営に必要な要素が弱くなってしまうのです。

そのおおもとが、売上と利益の創出力の弱さです。売上・利益を生むには、新たな技術と設備の導入、そのための人材の採用と育成が必要です。資金調達や人材の採用と育成には、マネジメントの考え方・会社の仕組みの見直しが重要になります。現場の問題をたどれば、より上流の問題から解決する必要が出てきます。多くの中小製造業は、ここが大きな課題になっているのです。

かく言う私たちも、もともとはものづくりに終始して「よいものさえつくっていればいい」と考えていた時もありました。しかし、それでは間違いなく先細りになる。そうした課題意識を持ってから、約20年かけて多大な投資を実行してきました。売上と利益を生み出す方法、採用の仕組み、ものづくりの考え方、経営の戦略。さまざまな経験とノウハウを、会社として少しずつ蓄積してきました。

正直、簡単ではありませんでした。試行錯誤、七転八倒しながらつくり上げてきました。その代わり社内には、ある一定以上のレベルで企画・開発・製造・広告・宣伝・販売などができるリソースがそろいました。結果、国内外のニーズに応えつつ、新規事業にも取り組むことができ、売上・利益を上げ続けることができるようになったと考えています。

そうした中、「この積み上げてきたノウハウを、ほかの中小製造業に活かすことはできないだろうか?」と思い始めました。

中小製造業には、ポテンシャルも能力も非常に高い会社が多くあります。ニーズが生まれた際に、ある一定以上の品質レベルで提供することができる。返品率も、極めて低い。だからこそ、「ものづくり以外」の要素さえ整備されれば、日本の中小製造業は、世界でさらに大きな価値を発揮すると確信しています。

重要なのは、中小製造業のそれぞれの企業が、そのポテンシャルと能力の高さ、そして欠落しているポイントに「気づく」ことです。

中小製造業には、この価値に気づいてほしい。自覚してほしい。そのポテンシャルを活かすために動き出す会社がひとつでも増えるならば、日本は間違いなくさらによい国になる。私たちは、中小製造業の支援を考え始めました。

まずは、何をおいても企業は収益力を上げなければなりません。ですからわれわれは、そこから支援をスタートします。そして生産性向上のための仕組みづくり、現場の見える化、人材採用、育成、経営戦略と未来へ向けた実行支援をしていく。

その過程で、当社内の資産を活用いただいても構いません。当社の社員が顧客の中に入り込むこともできます。不足するリソースは徹底して私たちを使っていただくことで、「ものづくり」だけに集中しても利益を出せるようになってもらいたい。そのうえで利益を次の投資に回す循環をつくりあげていきます。

私たちがこの事業に取り組むうえでの最大の強みは、私たち自身が「中小製造業」であることです。ともすれば、「一般的なコンサルと同じではないか」と思われるかもしれません。しかし、そこには明確な違いがあります。

一般的なコンサルは、自分の知識をフレームワークとして売るのが基本です。彼らの商品はフレームワークであり、多くの場合、その使い方や実装方法についてのアレンジメントはしません。アレンジメントまでするとしても、極めて高額です。

事業会社に対して外部からのアレンジをするのは、容易ではありません。もちろんコンサル会社には優秀な人材が数多く集まっています。しかし、たとえアイデアやフレームワークを提供できたとしても、現場、特に「ニッチ」で「少量多品種」の、特殊なつくり込みをしている中小製造業の現場に実装するのは難しいことだと思います。そして一般的なコンサルタントは、そのレベルまで落とし込むことは手間と時間がかかり、極めて高額になってしまいます。

私たちは、製造方法の開発、装置の自動化、仕組みや人づくりなど、中小製造業のコア事業のサポートもすることができます。なぜなら、私たち自身を同じようにアップデートし続けてきた実例と実績があるからです。カスタマイズ、アレンジメントもできれば、実行の伴走、さらには製造そのものに入り込むことや、プロフェッショナル人材の派遣、協業も可能です。半世紀以上にわたりものづくりをしてきた実績こそが、一般的なコンサル会社では真似できない価値を生んでいるのです。

私たちが時間とお金をかけてつくり上げてきたものは、そのすべてを同業他社に転用することができる。これはとても重要な気づきでした。

私たちは、この事業に「日本の中小製造業を世界の中核へ」と名づけ、ミッションとしました。中小製造業の各社に合わせて臨機応変に、アドバイザリーと実行支援、そしてノウハウ提供の体制をつくり、中小製造業の活躍の舞台を整えていく。いわば、お客さまの「黒子」となることを考えています。

このビジネスモデルを実現するための試行錯誤に、どれだけの年月とお金を投入してきたことか。時間としては約20年、お金としては20億円以上かかっています。なかでも大事なのは「時間」です。近年のビジネスのスピードを考えると、ものづくり以外の仕組みの構築に、20年も試行錯誤していられません。だからこそ、私たちに相談することで「時間を買う」と考えていただきたい。

私自身、中小製造業として「こんなサービスがあれば」と求めていました。「いつか出てくるだろう」と考え、自ら事業展開するつもりはまったくなかった。しかし、10年経っても出てこない。ならば、私たちでやるしかない。そこからコツコツと準備を進めてきました。

日本の中小製造業のものづくりのポテンシャルをグローバルで活かすために、ものづくりの会社が、ものづくり支援の仕組みをつくり上げる。

そうして中小製造業が、世界を舞台に活躍できるようにすることで、日本全体をよりよくしていくこと。これが私たちの掲げる「日本の中小製造業を世界の中核へ」というミッションの意味であり、いわば当社としての「グローバル」の定義です。

業態を問わず国内外で事業を展開するハードルが下がっているいま、もはやマーケットを「国内」「海外」と分けることは難しくなっています。そもそも日本国内は、グローバルマーケットの一市場にすぎません。そう考えれば、「グローバル=海外」という考え方すらおかしいとも言えます。

これから社会に出る人たちは、最初から「国内」「海外」という壁がない状態で働くことになるでしょう。では、そこで何が必要になるのか。それは「人間力」です。日本人も外国人も関係なく、「こんな人になりたい」「一緒に働きたい」と言われる人になることです。

その人間力を磨くには、“あるべき姿”を追求し、改善し続けることです。企業にとっては、すでにお話ししたような、本業だけではない間接業務や経営の意思決定も含めた、総合力を高めること。それを人間に落とし込めば、仕事をする人間として理想的な姿を突き詰めることです。

たとえば、プロ野球の大谷翔平選手や山本由伸選手は、グローバルに活躍する人間力を備えた模範的な存在と言えるでしょう。MLB(メジャーリーグ)の多くの人々が、彼を選手としてのひとつのロールモデルとして見ています。

人間力を磨くためにまず重要なのは、「目標を決める」ことです。ゴールから逆算してやるべきことを、好き嫌いや損得といった感情や私情を挟まずにやる。あるべき姿、掲げた目標に向かって、やるべきことをコツコツ、またコツコツと続ける。こうしたことができるのも、日本人の特性です。

目標を掲げ、方向性を見定め、実践しては結果を確認し、修正をかけて、また実践していく。このプロセスを経て、その道を極めていくわけです。人間力を磨く方法は、それ以外にありません。

私たちは、企業の大きな使命のひとつとして「社会人の人間力を育てる」ことが重要だと考えています。残念ながら現在の公教育は、国内外で通用する人を育てる教育にはなっていません。そのため、今後の社会をつくるためにも企業の「人育て」は重要になると考えています。

人間力を育てるには、「自律」と「自立」が問われるため、社内全体で取り組む必要があります。企業も、各ステークホルダーに対して嘘をついたり、ごまかしたりしない。言うべきことは言う。おかしいことは「おかしい」と言える正直な企業である。そうした、いわば「企業力」を培わなければなりません。そのうえで正面から社員に向き合い、ビジネスを通して「この人のようになりたい!」と言われるような人を育て、その人に活躍の場を提供する力を持ち続けることです。

人間力のある人を育てるということは、経営者である私自身の人間力も問われることになります。正直大変ですが、これくらいの覚悟がなければ、日本の中小製造業を世界の中核へ、などとは言えません。

お陰さまで、いまでも社員に育ててもらっている思いです。年齢や立場に関わらず、お互いに育て合うことができる。そんな社員が集まったからこそ、「中小製造業を世界の中核へ」というビジネスモデルを築くことができました。

これからの私の使命は、社員が活躍する舞台を準備すること。そしてその活躍をサポートしていくことです。人間力を持ったビジネスパーソンが世界で活躍する。そして日本の中小製造業が世界で活躍する。そんな姿を見たいと思っています。

日本企業の99.7%を占める中小企業、そのうちの多くが製造業に属しています。その中小製造業が活性化されれば、おのずと日本の経済はよい方向に向かうはずです。

大手企業に頼るのではなく、政府の支援に頼るのではなく、自分たちで売上をつくり、利益を生み出す力を持つことができる中小企業が増えれば、大手企業の躍進にもつながり、国の税収も増えます。その結果、経済が潤い、日本社会はさらによくなるはずです。

私たちが中小製造業だからこそ、中小製造業を軸に、世界に向けて、私たちならではのビジネスを通して、日本をよくしていきたい。そう考えています。

2014年にカンボジアへ。ものづくりへのこだわりを海外の人へどう伝えるのか、採用、育成、定着など多くの課題を乗り越え、3年後、ビジネスが徐々に軌道に乗り始めました。私たちのような規模の小さな会社でも、世界で勝負ができる状況をつくることができる。ならば、日本の「ものづくり」はまだまだ世界で戦えるはず、と確信に変わりました。

「日本の中小製造業を世界の中核へ」

私たちが掲げる現在のミッションは、こうして産声を上げたのです。

2022年5月、山梨県北杜市に「M&T BASE HOKUTO」(北杜工場)を新設しました。研究と加工の最前線。近隣に提携企業・工場もあるため、半導体関連の量産を担いながら、新しい技術の研究機能を持っています。センサーやAIを駆使して製造工程を完全に自動化する計画を進めています。

203X
日本の中小製造業が
世界で輝きを放つ


・日本の中小製造業に
ノウハウとリソースを提供する

・新しいものづくりができる
ネットワークを創る


グローバルとは、海外で働くことでも、語学に長けていることでもない。変化の激しい時代において、自ら考え、決断し、実行し、価値を生み出し続けられる力のこと。

自身も電子部品を手掛ける中小製造業であるサンケイエンジニアリングが掲げるのは、「日本の中小製造業を世界の中核へ」というMISSION。その実現に向け、事業戦略と人材育成はどのように連動し、実装されているのか。構想だけで終わらせないための仕組みとビジネスプランが、いまかたちになり始めています。

トップが描く未来、幹部が担う実装、社員が挑み続ける現場。それぞれの視点に通底するのは、「人」を起点に世界と向き合うという思想です。肩書きや経験ではなく、意志と覚悟で世界に挑む。サンケイエンジニアリングには、そのための舞台があります。


『こんな会社で働きたい 個の可能性が力に変わるグローバル企業編』
クロスメディアHR総合研究所編/クロスメディア・パブリッシング刊

「個の可能性が力に変わるグローバル企業」とは?

本書では、多様な業界・規模から選ばれた、挑戦を続ける企業7社を取材。それぞれの会社で、若手がどのように裁量を持ち、多様性を強みに変え、ローカルの技術や文化を世界基準のビジネスへと昇華させているのか、現場のリアルな声とともに紹介しています。

語学力や海外赴任といった表面的な制度の紹介にとどまらず、「違いを面白がり、個が輝く」企業文化がどのように日常の業務に根づいているのかを徹底解剖。枠にとらわれない新しい未来をつくる、キャリアデザイン・ガイドブック。

「どこで働くか」ではなく「世界とどうつながるか」――
自分の内なる多様性を信じ、未来のビジネスを動かしていくための羅針盤となる一冊です。

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